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1960~70年代における日本のイージー・リスニングに秘められた至極のアレンジ・名演【MOOD SOUNDS of TOKYO 第3弾 ディスクレビュー】
Part1は、第2弾を補完する目的として”上田力&ザ・キャラバン”の『ROCK IMPULSE!』シリーズのほか、R&Bや洋楽ポップスのカバーを収録した5作品を配信。
Part2は、1960年代末の和モノ・ポップス、フォーク、グループ・サウンズのナンバーをカバーした演奏が収録された作品を中心にした8作品を配信される。
当時のイージー・リスニングは、喫茶店などの店舗でBGMとして流す目的があった。純粋なリスナーのための音楽というよりも、生活に溶け込んだ実用音楽として多数のレコードが生まれた。また、同時期には一般家庭へのステレオ装置の普及と共に、ひとつのジャンルとして楽しむリスナーも増加した。それらのサウンドには全く手抜きが無く、時を超えても色褪せぬ魅力を持っている。それが埋もれたままになっており、願みられる機会はなかなかなかった。この機会に、国内のトップ編曲家やミュージシャンたちによる至極のアレンジや演奏を楽しんでもらいたい。
文:ガモウユウイチ
2025.10.1
<Part 1>
ソウル・ギャング(編曲:葵まさひこ)
『これぞブラック・パワーサウンズ!』 1969年発表
ソウル・ギャング名義による作品だが、実態はスタジオ・プレイヤーたちによるR&Bやロックのヒット曲集で、ハニー・ナイツの葵まさひこが編曲を担当した。ノークレジットながら、トーンやフレージングから、江藤勲(b)や杉本喜代志(g)が参加していたと推測される。ザ・リンド&リンダースがカバーしたことでも有名なザ・マウズの「ハ・ハ・ハ」は、ベースがリズムを牽引する至極にグルーヴィなサウンド。インプレッションズが大ヒットさせた「エーメン」では、ギターのオクターブ奏法が炸裂。ドアーズ「ハロー・アイ・ラヴ・ユー」やザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス「フォクシー・レディー」は、同時期のグループ・サウンズよりも遥かにニュー・ロック度が高い演奏を繰り広げる。
村岡建/ビート・ポップス(編曲:小谷充)
『悲しき天使 ゴールデン・ビート・ポップス Vol.2』 1969年発表
村岡建のアルト・サックスをフィーチャーした作品で、洋楽ロック、ポップス、R&B、フレンチ、スパニッシュと、ジャンルに関係なく当時の人気曲を選曲。アレンジはジャズ・ピアニストの小谷充が担当。ソウルフルなリズム・セクションをストリングスで甘美に味付けしたボビー・ヘブ「サニー」、同じくソウルフルなリズム・セクションにジャジーなギターやピアノが脇を添えるザ・ラスカルズ「自由への讃歌」など、ジャンルを飛び越えたエレガントなアレンジを楽しめる。
カー・ペインターズ(編曲:青木望)
『ストリングスで聞くヒット・ソング』 1974年発表
発売当時のタイトルは『ストリングスで聞くカーペンターズ・ヒット・ソング』。演奏しているのは、彼らの名前をもじったカー・ペインターズだが、その実態は、キャプテン・ひろ&スペース・バンドだったと、つのだ☆ひろなどが証言している。メンバーは、つのだ(ds)、芳野藤丸(g)、四方義朗(b)、今井裕(kbd)の第一期の編成で、ドラムのフィルインなどで つのだらしさがにじみ出ている。リチャード・カーペンター、ロジャー・ニコルス、バート・バカラック、レオン・ラッセルなどが生み出した名曲を、ストリングス編曲の名手である青木望がエレガントかつポップに編曲。改めてメロディの力強さを感じさせてくれる。
上田力&ザ・キャラバン(編曲:上田力)
『イマジネイション/ロック・インパルス』1974年発表
クラブユースなトラック満載の2枚組アルバムで、『ロック・インパルス』シリーズの第4弾。
上田力(kbd)、荒谷憲一(g)、幾見雅博(g)、朝本吉哲(b)、長芝正司(ds)、宮下明(tp)、篠原国利(tp)、中沢忠孝(tb)、村岡建(s, fl)からなる、上田力&ザ・キャラバンが全曲の演奏を担当。よりファンクネスに生まれ変わった映画『燃えよドラゴン』の同名主題歌、テンポ・アップして疾走感をましたギルバート・オサリバン「ウー・ベイビー」、ドラム・ブレイクから始まるダイアナ・ロス「わかれ」など、ブラック・フィーリングに溢れ、レア・グルーヴとしても高い人気のトラックが並ぶ。
上田力&ザ・キャラバン(編曲:上田力)
『エクソシスト/ロック・インパルス』
『ロック・インパルス』シリーズの第5弾で最終作。『イマジネイション/ロック・インパルス』と10曲の重複はありながらも、本作品もクラブユースなトラック満載の2枚組アルバム。本作品では、“石川晶とカウント・バッファローズ”の直居隆雄(g)と、ザ・フェニックスの鈴木二朗(ds)が新たに上田力&ザ・キャラバンに参加した。ジャパニーズ・プログレッシヴ・ロックの系譜としても捉えたい映画『エクソシスト』の主題歌「エクソシストのテーマ」、シンセサイザーでクラヴィネット・サウンドを再現したスティーヴィー・ワンダー「悪夢」のほか、マリーナ・ショウのヴァージョンがリリースされる以前の先見性の高いカバーであるロバータ・フラック「愛のためいき」などを収録。
<Part 2>
キング・オールスターズ(編曲:小川寛興/高田弘/鈴木敏夫)
『夜をあなたと~二人だけのダンス・アルバム Vol.1~』
キングレコード専属の小川寛興と、高田弘が中心に編曲を担った作品集。オリジナルのレコード・ジャケットには「ワルツ」「ルンバ」などとリズム名が記載されており、実際にレコードをかけて踊るための実用音楽として制作された。ダンスホールでのダンスパーティーが男女の出会いの場として流行したことから、本作のようなレコードも多く制作されている。但し現在の感覚とはジャンルの印象が違う楽曲もあるが、当時のイメージからそのジャンルに近づけた編曲は、ラウンジ・ミュージックとして大いに楽しめる。中でも鈴木敏夫の編曲によるラテンなジャッキー吉川とブルー・コメッツ「ブルー・シャトウ」は、ユニークでオリジナリティを感じさせる仕上がり。
キング・イージー・リスナーズ(編曲:小川寛興/高田弘)
『ビート天国~二人だけのダンス・アルバム Vol.2~』
楽団名をマイナー・チェンジしているが、『二人だけのダンス・アルバム』の第2弾。グループ・サウンズの人気曲だけでまとめた構成となっている。オリジナルではロマンティックなサウンドだったジャッキー吉川とブルー・コメッツ「甘いお話」がグルーヴィなポップスに、ビートの効いていた「好きさ 好きさ 好きさ」がラウンジ・ジャズ風に、ファズが効いていたザ・スパイダース「太陽の翼」がロマンティックなラテン・サウンドにと、小川寛興と高田弘のアイデアたっぷりな編曲を楽しめる。
レオン・ポップス(編曲:石川皓也)
『あの人の足音~ニュー・ポップス・スペクタクラー~』 1968年発表
レオン・ポップスは、キングレコードによる自社オーケストラの名称で、多くの編曲を手掛けたのが石川皓也(いしかわあきら)だ。本作品では、当時の歌謡曲とグループ・サウンズのヒット曲から選曲されている。激しいビートを生み出すリズム・セクションと壮大なストリングスの融合が素晴らしいヴィレッジ・シンガーズ「バラ色の雲」、ザ・ピーナツのオリジナル・ヴァージョンよりも疾走感が増している「恋のフーガ」、上品さを保ちながらもドラムが打っているビート感溢れるジャッキー吉川とブルー・コメッツ「マリアの泉」など、ツボを押さえた好編曲満載。
レオン・ポップス(編曲:石川皓也)
『エメラルドの伝説~ゴーゴー・ソフトロック~』 1968年発表
洗練されたコードやコード進行、さらにコーラスやハーモニーが中心の音楽と定義されることが多いソフト・ロック。本作品のレコード・ジャケットでは、「刺激的な音をさけて、やわらかい音の積み重ねたサウンド」と定義されており、現在のイメージとは若干の差異がある。選曲は、洋楽ヒット曲とグループ・サウンズのヒットで構成されている。サーフ・ロック度もたっぷりなザ・タイガース「シー・シー・シー」、完全にロックな演奏のザ・ローリング・ストーンズ「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」など、ビート感のあるトラックも多い。ファズ・ギターのようなバス・サクソフォーンをフィーチャーしたザ・テンプターズ「エメラルドの伝説」は異色のサウンド。
グリニッジ・ストリングス(編曲:石川皓也)
『ゴーゴー・ソフト・ロック』 1968年発表
グリニッジ・ストリングスも、キングレコードによる自社オーケストラの名称で、全4作品をリリースした。レオン・ポップス同様に石川皓也が編曲を担当している。なお、「グリニッチ・ストリングス」と記される場合もあり、表記にユレがある。本アルバムのジャケットでは、「コーラス、コンボ、などの音の組み合わせや構成によってソフトなサウンズを作り上げるもの(表記ママ)」とソフト・ロックを定義している。レコードではA面を洋楽曲、B面をグループ・サウンズと歌謡曲といった構成になっているが、注目はアダムス「旧約聖書」を選曲していること。大ヒット曲でもなく、自社アーティストでもないのに選曲されたのが謎ながら、貴重なインストゥルメンタルとなった。
グリニッジ・ストリングス(編曲:石川皓也)
『ゴーゴー・ソフト・ロック Vol.2』 1969年発表
グリニッジ・ストリングス版の『ゴーゴー・ソフト・ロック』の第2弾。本作品は、グループ・サウンズや歌謡曲が中心で、洋楽は4曲のみという構成。相変わらず、ストリングスとコンボ演奏をバランスよく融合した石川皓也の編曲が素晴らしい。ヴァニラ・ファッジ「ユー・キープ・ミー・ハンギング・オン」はオリジナルのサイケデリックな雰囲気も感じさせながらのイージー・リスニング化。「スワンの涙」はオリジナル版よりもリズム・セクションが前面に出ており、グループ・サウンズ・ファンにもアピール出来うる仕上がり。
グリニッジ・ストリングス(編曲:石川皓也)
『ミドリーヌ/Top Hits!!』 1969年発表
グリニッジ・ストリングスの第3弾。ポール・モーリアの影響を感じさせるエレガントなストリングスとビートの効いたコンボによる編曲で、他の“歌のない歌謡曲”にはない丁寧でゴージャスな作り。A面が日本のフォーク・ソング、B面が洋楽という構成になっている。ビリー・バンバン「ミドリーヌ」は、スタンダードのようなソフィスケイトされたコード進行とエレガントなサウンド。ザ・ローリング・ストーンズ「ホンキー・トンク・ウィメン」は、バス・クラリネットを使用した異色の編成ながら、フルートやヴィブラフォンなども交え、キュートなサウンドに仕上げている。
グリニッジ・ストリングス(編曲:石川皓也)
『黒ネコのタンゴ/グリニッジ・ストリングス』 1970年発表
グリニッジ・ストリングスのシリーズ4作目で最終作。A面が洋楽、B面が歌謡曲やフォークといった構成。石川皓也らしいエレガントなストリングスとビートの効いたコンボ演奏がバランスよく融合されたスコアを聴かせる。ディオンヌ・ワーウィック「サン・ホセへの道」、ピンキーとキラーズ「恋人の讃歌」、アーチーズ「シュガー・シュガー」、伊東ゆかり「青空のゆくえ」は、ドラムスが打っているグルーヴィな仕上がり。江藤勲(b)が参加していると思われるトラックもあり、同時期の“歌のない歌謡曲”作品の中でも、群を抜いた完成度の高い編曲と演奏の作品となっている。
本ディスクレビュー内で記載しているカバー元の楽曲に関する情報や紹介作品に関する情報は、下記文献を参考に記載しております。
※参考文献
・『これぞブラック・パワーサウンズ!』(キングレコード)ライナーノーツ
・『悲しき天使 ゴールデン・ビート・ポップス Vol.2』(キングレコード)ライナーノーツ
・『芳野藤丸 自伝 Lonely Man In The Bad City』(DU BOOKS)
・2016年08月01日/執筆者:中村俊夫(大人のミュージックカレンダー)
・『イマジネイション/ロック・インパルス』(キングレコード)ライナーノーツ
・『エメラルドの伝説~ゴーゴー・ソフトロック~』(キングレコード)ライナーノーツ
・『ゴーゴー・ソフト・ロック』(キングレコード)ライナーノーツ
・『ゴーゴー・ソフト・ロック Vol.2』(キングレコード)ライナーノーツ
・『ミドリーヌ/Top Hits!!』(キングレコード)ライナーノーツ