COLUMN
COLUMN
佐々木新一をたずねて
先日発表された「第64回日本レコード大賞」において特別功労賞の受賞者に名を連ねていたことで「佐々木新一」の文字を目にした方も多いであろう。
特別功労賞を受賞した佐々木新一は、勿論キングレコードの歴史においても欠かすことのできない功労者であるが、パブリックイメージとしては、4枚目シングル「あの娘たずねて」の大ヒットのインパクトが大きく、近年発表した楽曲の印象から”演歌歌手”といった認識が強いのではないだろうか。
彼の残した楽曲群は、演歌の枠には収まらない垢抜けたポップさと確かな歌唱力で築かれたオリジナリティで異質な存在感を放ち、青春歌謡やリズム歌謡とも受け取れるが、それらともまた違った独自の空気感を持つ。
当時を知らない若者や海外でもブームとなっている昭和歌謡(ポップス)においても押さえておきたいヴォーカリストの一人だ。
今回は、1960年代の楽曲を振り返ると共に、彼の功績を再確認していきたい。
SOUND FUJI 編集部
2022.12.3
本題に入る前に、彼の歌声のルーツや魅力を知るためにもバックボーンに軽く触れておきたい。佐々木新一は1946年生まれの青森県出身で、父は三味線奏者の佐々木繁月、母は民謡歌手の二代目・津軽家すわ子であり、津軽家すわ子一座として北海道や東北地方を一年中巡業している両親の間に生まれた。そのため、青森で風呂屋を営んでいた伯母の元で兄と弟と育てられたが、小さい頃から歌ばかりを歌って遊んでいたそうだ。中学生になると夏休みに両親の巡業に付いていき、少年歌手として歌っていたため、両親から受け継いだ”素質”と人前で歌うという”経験”はこの頃から既に築かれていたのであろう。その後、彼が高校2年の時に歌手の道を志して上京し、作曲家の桜田誠一の下で2年間のレッスンを積んだ。その力量が認められ桜田より渡された新曲「若さの世界」でキングレコードのテストに合格し、念願のデビューを掴み取った。
デビュー曲「若さの世界」は三味線×ロック調のアレンジ×青春歌謡という異色なコラボの楽曲で、55年以上経った今聴いてみてもパワフルなイントロは鮮烈なインパクトを与える。そんな楽曲でデビューした当時18歳の佐々木新一であるが、1965年当時は、映画界でも歌謡界でも青春スターと呼ばれる10代のスターたちが目まぐるしい活躍を見せていた時代。デビューしたばかりの佐々木新一も当然の如く、同時期のスターたちと比較される。しかし、民謡をルーツとし、桜田の下でのレッスンを積んできた佐々木新一は、持ち前のハイトーンボイスが評価され、”本格派大型歌手”や”第二の三橋美智也”として歌謡界に登場し、同年にデビューした布施明と共にキングレコードのホープとして注目を集めることとなる。
民謡的なハイトーンのヴォーカルを武器とする佐々木新一は、大迫力のオーケストレーションが魅力の「ジェット南へ飛ぶ」、エレキ色が前面に出たバンド編成の「吹雪の中を突っ走れ」と着々とリリースを重ね、ヒット曲「あの娘たずねて」が誕生する。この楽曲が誕生した経緯としては、デビュー前の佐々木新一が、レッスンへ向かう際に乗った山手線で遭遇したエクボが可愛い女学生のことを忘れられず、街を歩くと彼女と再会できないかとふと思ってしまうというエピソードから、桜田と作詞家の永井ひろしが作り上げたと言う。この楽曲の発売を記念して全国から佐々木新一の”恋人”を募集すると言ったユニークなキャンペーンも話題を呼び、デビューから間もなくして大ヒットとなった。その後も地元青森の特産品に因んだ「リンゴの花が咲いていた」や真正面から流行歌的アプローチを取った「君が好きだよ」とヒットが続く。
60年代における佐々木新一作品の面白さというのは、「若さの世界」~「あの娘たずねて」の様に、「当時の流行サウンド×佐々木のブレない民謡ヴォーカル」にあると思う。和太鼓とエレキサウンドのコラボが織りなす「青春太鼓」、ビート歌謡とも呼べる「マリモが泣いた」も民謡の発声で堂々と歌い上げる。この手の作品を他の歌手で試みようとしても、ベテラン民謡歌手には不慣れなビートやサウンドであるし、若手には民謡の様な高度な発声は簡単に習得できないため、彼が築いたポジションは唯一無二であったと思う。それ故の弊害としては、佐々木新一以外の歌手で成立させることが難しい作品が多く、後継となる歌手も中々現れないため、この座席がぽっかりと空いてしまっている様に感じる。
日本の音楽界において、独自の地位を確立した佐々木新一の魅力ある名曲の数々を、サブスクやDLで手軽に聴ける時代になったことを喜ばしく思うと同時に、一人でも多くの方に”演歌歌手”の先入観を抜きにして楽曲の持つ独自のサウンドを楽しんで聴いていただきたい!
▼「佐々木新一全曲集~あの娘たずねて~」
https://king-records.lnk.to/sasaki2022
▼PROFILE
本名:佐々木新市
生年月日:1946年12月3日
出身地:青森県
両親 母:津軽民謡の二代目 津軽家すわ子 父:じょんがら三味線 佐々木繁月
趣味:将棋(アマ四段)ゴルフ(元、シングル)