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プロデューサー高橋信之が語る!小林啓子アルバム3作品 制作秘話

SOUND FUJI 編集部

2023.11.29

1970~80年代、フォーク、ロック、ニューミュージックといった音楽ジャンルで、日本の音楽シーンにおいて革新的な作品を世に送り出した、キングレコードの社内レーベル”POPSHOP”。今年の7月よりPOPSHOPレーベル所属アーティストの作品が配信開始となった。

レーベル創設前からキングレコードで数々の作品をリリースし、レーベルを代表するアーティストの一人である小林啓子。配信を記念し、彼女がキングレコード・POPSHOPレーベルにて発表したスタジオ・アルバム全3作品でプロデューサーを務めた高橋信之による書き下ろしライナーノーツを公開。

プロデューサー視点で振り返る各作品の制作秘話に目を通し、制作当時の背景や拘りを知った上で、配信で甦った作品を楽しんでいただきたい。

『あげます』1971年発表

デビューシングル「こわれた愛のかけら」がスマッシュヒットとなり、5枚目の「こころあたり」発売後に制作することとなったこのアルバムは、当時当たり前だったカバー曲でのラインアップが殆どになる。レコード会社としては、新人がオリジナルでフルアルバムというリスクを抱える事は有りえないのでこうなる訳だけれど、まずは彼女がどんな曲が好きで歌って来たか、歌って行きたいかを知ることが出来る、つまり彼女の歌の形成を知る上でも興味深いアルバムだと思う。
僕もこのシングル(「こわれた愛のかけら」)でレコード作家デビューだったので、さほど強い発言力はなかったけれど、全体を監修(アドバイサー?)させてもらった。やはり1番のポイントは、小林啓子が単なるフォークシンガーではなくポップシンガーを目指そうとしていたことで、A面では彼女の日本語の好きな曲をカバーして、B面になると一転、キャロル・キングの「IT’S TOO LATE」、ビー・ジーズの「FIRST OF MAY」や、「YOU’VE GOT A FRIEND」、「SCARBOROUGH FAIR」等、洋楽のナンバーを並べたこと、そしてその間に「比叡おろし」を挟んだことが、その後の彼女の方向を示す明確な指針だと思う。CD盤では解らないと思うけど、アナログ盤では盤を裏返すことで世界の変換という演出ができるわけで、無論僕がその提案者だった。日本の音楽業界が圧倒的に歌謡曲が売上の主流だった時代に、歌謡曲ではない、洋楽的な日本語の曲を歌って行こうという時代の萌芽期で、彼女もそのはしりの1人だったことが判る。
この時代に走り出したシンガーの証言アルバムとして必聴の価値があると思うな。

配信URL:https://lnk.to/Agemasu

『かなしみごっこ』1972年発表

1枚目のアルバムの実績と時代の流れを踏まえて、2枚目のアルバムはついにオリジナル曲で固めることになった。詩も曲も編曲も演奏も、この時期の音楽仲間(新しい世界を切り開いていた戦友たち)に集まってもらって作ったもの。この参加メンバーには50年経た今も活躍している人や亡くなった人が名を連ねているけれど、今聴いても決して単なる懐メロではない、今に続いている新しさがあると思う。ベースとドラムは基本小原礼と高橋幸宏で、ピアノは田中正子、荒井由実、ギターはジョージ吾妻と鈴木茂、そしてガロとバズがアコースティックギターとコーラスで参加してもらってサウンドが出来上がった。面白いのは小坂忠に曲を作ってもらった「早起き山の1番電車」で、当時の彼の仲間たち(ベースが後藤次利、ドラム林立夫、スティールギターで駒澤裕城、そしてなんとフラットマンドリンを松任谷正隆が弾いている)が参加してくれ、この曲はその後も忠はずっと歌っていた。

小林啓子は、このオリジナルアルバムで自分の歌というものをあらためて考え、それを作り始めた。例えば、「やさしい歌」シリーズのメドレーと、「私の歌よ(愛の終わりに)」を聴くと、歌の表現がずいぶん拡がっている。そして他の曲でちょっと剽軽になったり、ラストの「アベマリア」では、勉強してきたクラシックな歌唱と、ポップな囁きを一つの曲の中で融合させてシリアスな世界を作るなど、このアルバムでプロの歌手として本当にスタートしたのだということを感じさせてくれる。一緒に作りながらその変化してゆく様が新鮮な驚きと楽しさで満ちた録音だった。詰まるところ、人というのは(小林啓子だけでなく)かくも多様な面を持っているのだということを歌を持って表現しているのだなあ、というアルバムが出来上がった訳だ。

配信URL:https://lnk.to/KanashimiGokko

『ちょっと気分をかえて』1977年発表

彼女の休養期間(結婚期間)があって久しぶりにアルバムを出すに当たり、コンセプトは「大人のシティポップ」に決めた。すると担当の安藤(賢次)ディレクターが「ジャケットはプローデューサー(僕ね)とアーチスト(啓子)が並んでいるもので行こうよ」というのでめちゃ抵抗したけれど、最後は安藤氏が「バート・バカラックがそれやってて大人っぽくってカッコ良いんだよ」という言葉にのせられて作ったのがこのアルバムジャケット。やはり今見ても恥ずかしい。ま、とにかく、大人のポップアルバムを作るぞということで、僕の周りでとにかくファッションも音楽もオシャレな音楽人といえば加藤和彦と高橋幸宏しか考えられないから、3人で考えてサウンド作りをした。ベースはミカバンド初代の後藤次利でドラムは幸宏、キーボードに今井裕、ただ高中正義は少し違う方向へ行っていたので松木恒秀、アコースティックギターは吉川忠英で決まり。

小林啓子にとって、このシティポップな大人の歌は、またまた新しい挑戦だった。彼女の中になかったセンスが必要で、ストレートな表現を抑えて歌うことを要求されて大分苦労をしたけれど、その軽く歌う感じはまた今までになかったポップミュージックを表現して楽しい。ただ、このアルバムは全曲このスタイルで並べてはいない。後半は彼女が歌いたかったBUZZの「さよなら列車」、加藤和彦の「ふしぎな日」、「比叡おろし」のリメイク、そしてJR CMタイアップの「レイルウェイ・ララバイ」という曲を、アレンジを変えた新しいサウンドで並べたものにした。彼女の歌の世界をやはり一つのスタイルで固めたくなかったプロデューサーとしての僕の考えからで、それが正しかったのかどうかは聴いてくれたみなさんの評価に委ねたい。

配信URL:https://lnk.to/KeikoKobayashi_CKwK


高橋信之(たかはし のぶゆき)
1946年生まれ。作曲家・音楽・イベントプロデューサー。慶大卒後CM作曲家としてプロデビュー。数多くのCM音楽の作曲、イベントプロデュース行う傍ら、BUZZ、小林啓子、高橋幸宏、小坂忠 ほか多くの新人を育てて世に輩出してきた。アーチストプロダクション(株)ステージフライト、CM制作プロダクション(株)スーパーミューザック、レコード会社(株)コンシピオレコード、等の代表取締役を歴任、その後(株)ワグ副社長としてイベント部門総責任者を経て、合同会社ステージフライトを川﨑貴司と設立、現在に至る。


小林啓子 Information

◾️「うたかたりin瑞雲寺」
日時:12月10日(日)15:00開会
会場:瑞雲寺・本堂
出演:天野こうゆう(真言宗僧侶)、小林啓子、PEPE伊藤
詳細:https://www.zuiunji.com/index.html#osirase

◾️「小林啓子 in 京都」
日時:12月11日(月)20:00開演
会場:祇園pickup Live&Bar
出演:小林啓子、PEPE伊藤、反下段平(O.A.)
詳細:https://gion-pickup.net

◾️『2023年ハワイ・マウイ島山火事被災児童支援チャリティーコンサート「いのちのめぐみコンサート」』
日時:12月12日(火)18:00開演
会場:京都観世会館
出演:小林啓子、マイク眞木、PEPE伊藤
詳細:http://www.kyoto-kanze.jp/show_info/20231212show_meeting/

高橋信之 Information

「BUZZ NEXTコンサート上映会+トークショー」
日時:2023年12月16日15:30~17:30(15:00開場)
出演:BUZZ NEXT(東郷昌和・百田忠正)、高橋信之
会場:エスパスビブリオ(東京・御茶ノ水)
参加費:3,500円(当日精算)/ 予約制(ご予約はメールまたはお電話で)
詳細:https://www.espacebiblio.jp/?p=8436


小林啓子「昼下り」、「気分を出してもう一度」収録『THE BEST SONGS OF POPSHOP』公開中!

配信URL:https://lnk.to/POPSHOP_Best

ARTIST

  • 小林啓子

    KEIKO KOBAYASHI

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