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【イベントレポート】三上寛&橘麻紀、ピラニア軍団の想い出を語る
文:真鍋新一/写真:Ryoma Shomura
2024.9.30
血と汗とバイオレンスにあふれた1970年代の東映作品を大いに盛り上げた脇役集団「ピラニア軍団」のメンバーが歌ったアルバム『ピラニア軍団』の再リリースを記念して、池袋の名画座・新文芸坐が特集上映「ピラニアたちの唄(ブルース)」を開催。9月22日(日)には、軍団メンバーが総出演した『ピアニア軍団 ダボシャツの天』(1977年)の上映に加え、アルバムの制作を発案し、プロデューサーを務めたフォークシンガー・三上寛によるミニライヴ。さらに、軍団の紅一点で「女ピラニア」の異名をとる女優・橘麻紀を迎えたトークショーも開かれ、アルバムの復刻を喜ぶファンにとっては忘れることのできない夜となった。
劇場のロビーでは、当時、アルバムリリース記念の興行を開催し、人気のピークを迎えていたピラニア軍団を特集した『ムービーマガジン 第13号』(軍団メンバーのインタビューや、深作欣二監督、三上寛の寄稿を掲載)が置かれ、自由に閲覧できるようになっていた。さらに、アルバムジャケットを撮影した写真家・糸川燿史(いとかわようし)の写真展も開かれ、アルバムの歌詞カードに掲載されたソロカットの別テイクはもちろん、中島貞夫監督も立ち会った貴重なレコーディングの風景も公開された。写真の隣に展示された糸川の短いコメントによると、軍団が全員集合しているジャケット撮影の時間にひとりだけ新幹線が遅れて間に合わず、別撮りで合成したメンバーがいたそうな。
三上寛が「役者稼業」ほか3曲を弾き語り
映画の上映が終わり、楽器のセッティングが終わると三上寛が登場。「今日は客席が明るくて、みなさんの顔がよくわかりますんで、どこで誰が退屈してるかもよくわかりますね(笑)」と冗談を交えながら、作詞・作曲したアルバムの収録曲からギター1本で「その他大勢の仁義を抱いて」「菜の花モダン」「役者稼業」をセルフカヴァー。
曲と曲の合間には、三上が東映の映画に俳優として参加し、アルバム制作までに至った経緯や、改めて楽曲を聴いた感想などを述べながら、まるで話の続きでもするかのように、スムーズに歌へとなだれ込んでいく見事な進行。
「大袈裟な話に聞こえるかもしれないけど、私がいまこうして歌ってられるのも全部、ピラニア軍団の人たちと一緒にいたからなんです」「70年代はすごい時代でしたよ。ピラニア軍団でレコードが作れたんですから。魂のかたまりですよ」と、当時を振り返るその言葉の重さ。歌手としての三上にとっても大きな転機となったアルバム『ピラニア軍団』が47年の時を超え、いま再びスポットが当たる。それを同じ場所で一緒に祝えるなんて、これほど幸せなことはない。
「麻紀さん」という三上からの呼びかけに応じて、「ここです!」と客席後方に座っていた橘麻紀がステージへ向かう。「普通ならそのまま客席からまっすぐステージに上がって来るところだけど、マキちゃんはやっぱり女優さん。舞台の袖から出て来ないといけないんだね」としみじみ感心する三上。
2人はこれまで何度か電話で話したことはあったが、直接顔を合わせるのはなんと45年ぶり。しかも、橘は『ピラニア軍団 ダボシャツの天』を観たのはこの日が初めてだったそうだ。「ピラニア軍団総出演」という売り文句に間違いはないが、当時すでに多忙を極めていた軍団メンバーは複数の撮影を同時に抱えており、仕事と仕事の合間を縫って「拓ボン(川谷拓三)の主演作だから」と撮影に参加。作品の終盤に登場する橘自身もどんな役で出演したのか忘れていたという。そんな経緯もあって、「どこで出てくるのかと思ってずっと観てたけど、私の役って要ります? 無理矢理入れたんじゃない?(笑)」と厳しいコメント。
(いいえ! そんなことはありません。オープニングのクレジットでお名前を見てから、ずっと出番を待っておりました。最後の最後、映画に微笑ましい一幕を添えてくる素敵な役どころ。未見の方はぜひDVDや配信でチェックしていただきたい。)
47年目の『ピラニア軍団』レコーディング秘話
トークはまず、45年ぶりの再会ということで最初はお互いの近況についての話になった。橘がママを務めている「カラオケパブ 折鶴」(来場者にはお店のチラシも配布された)では、たびたびカセットテープに録音した『ピラニア軍団』のアルバムを流していたのだそうで、今でも東映作品のファンが詰めかけるという。トークの本題は、ピラニア軍団や中島貞夫監督とのエピソードだ。
橘:寛さんは中島監督の御宅へ行くときは、書斎に泊まってたんですってね。私もしょっちゅうそこに泊まってた。
三上:朝起きたら、食事に鮭が出ましてね。それで私、三杯飯しちゃったんですよ。監督は呆れてましたね。”お前、うちに泊まりに来て3杯もメシ食ったヤツはお前だけだ”って(笑)
橘:監督の家ではよく勝っちゃん(志賀勝)と喧嘩してました。”マキ、お前も女なんだからちょっと黙ってろよ”、”マサル、お前もいちいち突っかかってんじゃない”とか。思い出しますよ。
他愛のない話かもしれないが、こういうさりげない想い出がさらに作品を味わい深いものにしてくれる。最近の三上が、室田日出男の晩年の風貌に似てきたと橘が指摘すると場内が盛り上がり、「拍手なんかしなくったっていい!(笑)……いや、実は何回か言われたことあるんだけど」と三上が照れながら告白するやりとりもあった。やがて話は今回のアルバムの話題に。そのなかで橘は「菜の花ダモン」を歌っている。
三上:マキちゃんは菜の花というよりもひまわりのような人だなと思うけど、あの歌はスカーンとね、女々しく歌わないからいいんですよ。あんまり泣かれても困るんですわ。この間もスタジオで久しぶりに聴かせてもらったんですけど、マキちゃんがしっかり歌っているから、音が調整しやすいんです。
今回のアルバム復刻のためのリマスタリング作業に立ち会った三上は、女優になる前は歌手として活動していた橘の歌を「唯一、歌手らしい歌」と評し、最初に「菜の花ダモン」を聴いてから、それを基準にしてアルバム全体の音を調整し直したという。すると、47年前のレコーディングも橘が最初に歌入れをしたと明かした。
橘:みんな、”俺はやだ”、”飲まなきゃやれない”って誰も歌わないから、中島監督が”いい加減にしろよ!”って。それで、”じゃ、私が先に歌うわよ”ってトップバッターで歌ったんですよ。歌い終わったら寛さんの隣に座って偉そうに”ハイ、そこで声出しなさい”と指示を出してました
三上:考えてみたらそうだった。レコードを聴くとね、みんな何十年も歌ってるような声でやってるけど、レコーディングなんかしたことないからさ、および腰で(笑)。なだめすかしながらやったようなところがありましたね。
橘:あれだけの役者がスタンバイしていたのはすごかったなと思いますよ。”来れない人はレコーディングしないぞ”と中島監督が言ったら、全員集まった。
三上:あんなことは後にも先にもないでしょう。深作(欣二)監督も覗きに来てたし、松方(弘樹)さんも観に来てくれた。
昔と同じ、お互いに遠慮のないやりとり
トークの終盤には、三上が今回の会場である新文芸坐と中島監督の関係についての逸話も披露した。
三上:中島監督が”これを撮るために僕は監督になったんだ”と言っていた『瀬降り物語』という映画があるんだけども、その元になった山窩(さんか)小説を書いた三角寛(みすみ・ひろし)という方がいて、この文芸坐はもともとその人が作ったんですよ。そういう縁のある場所で我々が中島監督の話をしているっていうのは不思議なものを感じましたよ。
デビュー間もない中島監督が1964年に準備をしておきながら諸事情で頓挫し、約20年後の1985年にようやく実現に至った執念の一作『瀬降り物語』が、こんなところでつながってくるとは。三上寛と橘麻紀の45年ぶりの再会は、今は亡きピラニア軍団のメンバーと中島貞夫監督との再会でもあり、我々観客にとっても思いがけない瞬間の連続であった。
橘:今日は会えてうれしい!
三上:そうだね。これも我々が当時レコードを作ったから会えるわけでね。
橘:あの頃は若かったしね。昔に戻れますよね。
三上:昔になんか戻らなくったっていいんだけどさ。
橘:気持ちは戻るでしょ!(笑) 歳は戻らないわよ。
2人はすっかりお互いに遠慮のない当時の雰囲気に戻り、その和やかな雰囲気のまま、『ピラニア軍団』(LP/CD)購入者のサイン会となった。この日、2人のサインが入ったレコードとCDを持ち帰ることができた人はどのくらいいただろうか。ご当人たちと共有したピラニア軍団の楽しい想い出は、こうしてたくさんの人たちを通してこれからも語り継がれることになるだろう。
トークショーに先立つこと数時間前。
三上に単独取材を行ない、東映京都撮影所でピラニア軍団と行動を共にしていた時期や、映画人たちとの関わり、そしてアルバム『ピラニア軍団』についてたっぷりと話をうかがった。こちらは改めて別のインタビュー記事として公開する予定なので、いましばらくお待ちいただきたい。
【Release Information】
『ピラニア軍団』
岩尾正隆/片桐竜次/川谷拓三/小林稔侍/志賀勝/志茂山高也/白井孝史/高月忠/司裕介/寺内文夫/成瀬正/根岸一正/野口貴史/広瀬義宣/松本泰郎/室田日出男
応援団 渡瀬恒彦/橘麻紀
プロデューサー 中島貞夫/三上寛
【曲目】
1.その他大勢の仁義を抱いて(歌唱:志茂山高也)
2.役者稼業(歌唱:志賀勝)
3.悪いと思っています(歌唱:松本泰郎)
4.俺(れーお)(歌唱:成瀬正)
5.死んだがナ(歌唱:根岸一正)
6.だよね(歌唱:川谷拓三)
7.ソレカラドシタイブシ
(歌唱:小林稔侍/白井孝史/寺内文夫/高月忠/広瀬義宣/片桐竜次 <冷かし>渡瀬恒彦)
8.はぐれピラニア(歌唱:岩尾正隆)
9.有難うございます(歌唱:室田日出男)
10.やめましょう(歌唱:司裕介)
11.菜の花ダモン(歌唱:橘麻紀)
12.村歌~わしゃ知らん節~(歌唱:ピラニア軍団)
13.関さん(歌唱:野口貴史)
■配信
配信サイトはこちらから(通常DL/ハイレゾDL/ストリーミング)
https://king-records.lnk.to/PiranhaGundan
●インストゥルメンタル音源を含む全26トラックを配信
■LP[商品番号KIJS-90041]
●数量限定プレス盤
●33回転/歌詞カード/プレゼント応募抽選券封入
定価4,400円(税抜価格4,000円)
■CD[商品番号:KICS-4161~2(CD2枚組)]
CD1 LP収録と同内容(全13曲)
CD2 インストゥルメンタル音源を収録(初音源化)
●歌詞カード/初回製造分のみプレゼント応募抽選券封入
*プレゼント応募抽選券の施策はLPと共通内容です。連動施策ではございません。
定価4,400円(税抜価格4,000円)
【〈ピラニア軍団〉発売キャンペーン】
LP(KIJS 90041)、及びCD(KICS 4161~2)の初回製造分に封入される応募券を郵便ハガキに貼り、必要事項をご記入の上、ご応募ください。
特製〈ピラニア軍団〉トートバッグが50名様に当たります。
※応募詳細は、応募券が印刷された商品封入チラシをご確認ください。
詳しくは下記サイトを御確認ください
https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t15102/