COLUMN
COLUMN
Little Black Dressが選ぶAVANTGARDE(アヴァンギャルド)な名曲たち【後編】
今回は、7月23日に発売される移籍第一弾アルバム『AVANTGARDE』にちなみ、“Little Black Dressが選ぶAVANTGARDE(アヴァンギャルド)な名曲たち”と題し、昭和の楽曲をこよなく愛する彼女に8曲のアヴァンギャルドな楽曲を選んでいただいた。1998年生まれの彼女が、昭和の楽曲についてどのような視点で語ってくれるのか。とても興味深いインタビューとなった。
進行・文:長井英治 / 写真:Ryoma Shomura
2025.8.4
(前編からのつづき)
――残りの4曲を聞く前に、ニューアルバム『AVANTGARDE』についてのお話を伺わせて下さい。本作を聴かせていただきましたが、現在進行形のLittle Black Dressの魅力がぎっしりと詰まった作品になっていますね。
Little Black Dress:ありがとうございます。レコード会社を移籍したこともあり、新たな概念で制作に入ったので、重圧のようなものが肩にずっしりのしかかってくると思っていたんですが、意外なことに肩の力を抜いて制作できました。何年か経ってこの作品を聴いた時に、「この時代の私はこういうことを考えていたな」ということを振り返れるようなアルバムになったと思います。私自身のリアルタイムの思いのようなものが凝縮された作品になりました。
――『AVANTGARDE』というワードは、長らく温めていたものだったのでしょうか。
Little Black Dress:美術館に通ったり、芸術家の著書を読んでいる時にいきなり“アヴァンギャルド”というワードが下りてきたんです。今の時代あまり聞かない言葉だし、面白いかもと思って。私は小さいころから周りから変わっている子と思われていて、どこか疎外感のようなものを感じて生きてきたんです。このアルバムをリリースすることで、自分のこれまでの生き方は間違えていなかったんだという、答え合わせのようなものができるんじゃないかと思ってこのタイトルに決めました。
――7月23日発売のアルバムに先駆け、7月4日に先行配信された「アヴァンギャルド」ですが、どういったメッセージが込められていますか。
Little Black Dress:この曲は聴く人の心境によっていろいろな解釈ができる曲だと思います。情報社会の中で人の意見に影響されがちだと思うんですが、そういう不確かなものに流されない、自分の中にある、確固たる軸のようなものに気付いてもらいたいという思いが込められています。
――それでは、本題の“Little Black Dressが選ぶAVANTGARDEな名曲たち”に戻ります。次は、先ほどもお好きだと仰っていた、久保田早紀/異邦人(1979)ですね。
Little Black Dress:この曲は中近東的(オリエンタル)な旋律の先駆けだと思っています。これぞ” アヴァンギャルド“だなと。歌詞もとても奥深いと感じていて、自身の内面への旅という解釈もできるので、自身の孤独、変化、疎外感など心の中にある異国を彷徨っているような気持ちにさせられます。日本特有の哀愁というのがあると思うんですが、私自身もポップスの中に哀愁を持たせるという部分では、この「異邦人」からかなり影響を受けています。
-―続きまして、沢田研二/TOKIO(1980)ですが。ジュリーからはかなり影響を受けているようですね。ジュリーのどんな部分に魅かれますか?
Little Black Dress:ジェンダレスな世界観、ジェンダーを飛び越えた表現。固定概念にとらわれないファッション、ヘアメイク、演出すべてが”アヴァンギャルド“だと思います。有名なのが当時のテレビの歌番組の演出だと思いますが、ラジオのリスナーさんが当時のことを詳しく教えてくれるんですよ。パラシュートを背負ったり、電飾のついた羽があったり、それまで昭和のテレビの演出にはなかったSF感があったのかなと。
――ジュリーは原体験で見てきたアーティストですが、曲ごとにイメージを変えてくるので、ある意味奇抜な存在だったかもしれません。でもジュリーはとにかくカッコよかったですよ。
Little Black Dress:沢田研二さんはザ・タイガースからの羽ばたき方もすごかったと思います。自我を持って外面的要素をアーティスティックにしていましたけど、歌っている楽曲は極めてポップだと思うんですね。奇抜な衣装を身に着けたら、奇抜な音楽に走りがちじゃないですか。王道のポップスという部分から外れなかった部分が、のちの日本の音楽シーンに大きな影響を与えているような気がします。「TOKIO」は間奏が50秒くらいあって、しかも効果音だけみたいな。これぞ” アヴァンギャルド“な間奏なんです(笑)。
――やはり着眼点が、リアルタイム世代とは違うので、お話を聞いていると新たな発見があります。
Little Black Dress:自分の衣装は、ジュリーの昔の衣装を参考にしている部分もあります。スカーフを何枚も繋げて肩から羽織ったり、ネクタイをシャツの隙間に入れ込むなど、着崩し方が独特でとてもおしゃれなんですよね。この時代はファッションと音楽が密接な関係だったので、私はそういう部分を参考にしたり、大切にしていきたいです。
――ジュリーもまさか令和の女性アーティストからファッションの参考にされているとは夢にも思ってないですよね(笑)。次も、80年代に入り大きなカルチャーショックを与えたアーティストですね。RYDEEN/YMO(1980)ですが、まさか歌なしの楽曲を持ってくるとは想定外でした(笑)。
Little Black Dress:YMOの存在がなければ、現代の音楽シーンってここまで幅広くなかったんじゃないかと思うんです。電子音楽の未来をすでに80年代初頭に完成させてしまった天才集団ですよね。これぞ、もう究極の”アヴァンギャルド“だし、しかも世界で認められているという。曲構成もコードも複雑だし、ポリリズム的要素もあり、音楽的には高度なことをしているのに、日本人が作っていることをすごく誇りに思っているように感じます。
――さて、次の曲で最後になりますが、これまたかなり”アヴァンギャルド“ですね。友川かずき/木々は春(1981年)はキングレコードからリリースされたアルバム『海静か、魂は病み』に収録の1曲ですね。
Little Black Dress:このアルバムは頭脳警察の石塚俊明さんが全曲編曲をやられているんです。それだけですでに” アヴァンギャルド“じゃないですか!
――まさか、若いアーティストから頭脳警察という名前が出てくるとは思いませんでした(笑)。
Little Black Dress:この異色の組み合わせこそが、私の思う”アヴァンギャルド“なんですよ!友川さんはフォークというジャンルではあるんですが、それでもある意味パンキッシュなマインドを感じるんです。友川さんの存在自体もそうなんですが、音楽そのものからかけ離れて、魂が赴くままに叫んでいるというか。友川さんも憑依系だと思うので、ライブ音源を聴いたりすると、ここまで表現を広げられる部分にとても影響を受けています。天才で才能がある故の、孤独、病み具合、誰からも理解されない感じ。そして、高い崖の上から、こちら側を見下ろしている俯瞰さのような部分に魅力を感じます。友川さんの存在自体が“アヴァンギャルド”とも言えますね。
――今回は8曲の” アヴァンギャルド“を選んでいただきましたが、ピンク・レディーから友川かずきまでとかなり刺激的でした(笑)。遼さんの独自の視点はとても勉強になりました。
Little Black Dress:これをプレイリストにしていただけるらしいですが、どんな順番で聴けばいいんだろうって(笑)。今回は私が好きな曲や影響を受けた曲から離れた” アヴァンギャルド“にフォーカスして選ばせていただきました。
――次回は、別のテーマでまたいろいろな音楽の解釈を聞かせてください。本日はありがとうございました。
Little Black Dress:ありがとうございました。
【本インタビューで選曲した楽曲を基にプレイリストを公開!】
プレイリスト『Little Black Dressが選ぶAVANTGARDEな名曲たち』
【Release Information】
Little Black Dress『AVANTGARDE』
2025年7月23日発売
▼KING e-SHOP限定SET(CD+オリジナルTシャツ[M/L])
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gECB-1790/