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「黒ネコのタンゴ」と皆川おさむ / 「黒ネコのタンゴ」誕生秘話
2026.4.9
「黒ネコのタンゴ」と皆川おさむ
文:鈴木啓之
「およげ!たいやきくん」や「だんご3兄弟」など、そもそもは子供向けに作られた曲が予測不能の大ヒットに至ることがある。そんな童謡と歌謡曲の中間ともいえる不思議な歌の先駆けとなったのが「黒ネコのタンゴ」であった。元はイタリアで生まれた童謡で、日本では”大人のための子供の歌”というキャッチコピーで皆川おさむが日本語カバー。当時まだ小学1年生だった皆川おさむ少年が歌ったレコードは1969年10月に発売されるとたちまちヒットチャートを席巻して日本全国に知れ渡る。新しい童謡として子供のみならず大人たちも好んでレコードを買い求めた結果、14週間に亘ってシングルチャート1位を独占し、ダブルミリオンを超える超特大ヒットを記録したのである。

当時日本一忙しい小学1年生だったであろう皆川おさむは、3歳の時にひばり児童合唱団に入団し、「ヤン坊マー坊天気予報」のテーマソングなどを歌っていた。「黒ネコのタンゴ」は、作曲家の木下忠司の妻で音楽プロデューサーであった木下美智子氏が、イタリアの音楽祭で金賞をとった曲を日本で歌う男の子を探していたところ、6歳になっていた皆川がたまたま目に留まり、オーディションなども特に行わないままにすんなりレコーディングが決まる。合唱団を運営していた皆川の伯母と木下夫人が知り合いであったことからの縁となった。レコーディングはちょうどアポロ11号の打ち上げの日で、皆川は休憩の合間にテレビの中継を見ていたことを憶えていたという。録音は結構手こずったようで、声が裏返ったりしてるのはそのまま使われているが、それがかえってよかったのだろう。無邪気に、しかしながら実に真剣に歌と向かい合っている様子が窺えて微笑ましい。
まさかの売れ行きを示すにつれ皆川少年も人気者となり、テレビ局に呼ばれたり、様々なステージでも歌わなければならなくなった。幼い皆川少年にとっては大変な毎日だったが、歌がヒットしたおかげで大阪万博(1970年 日本万国博覧会)へ行けたのが一番嬉しい出来事だったそうだ。メインステージのお祭り広場で歌を披露するという重大な役目を果たした。万博開催直前に発行された雑誌「平凡」の70年4月号の付録の歌本は“歌のエキスポパレード”と銘打たれ、小川知子と共に表紙を飾っている。当時の新曲「ちびっこカウボーイ」の衣装であった。グループサウンズの人気がまだ続いていた当時、タイガースやテンプターズと番組で一緒になる機会が多く、ほかにいしだあゆみ、ピンキーとキラーズ、じゅん&ネネらとも共演した。人気絶頂だったコント55号の映画にも出演している。
「黒ネコのタンゴ」の原曲は、1969年3月にイタリアの童謡コンテスト『第11回ゼッキーノ・ドーロ』でヴィンセンツァ・パストレーリという女の子が歌い、第3位に入賞した曲「Volevo un gatto nero」。皆川が歌った日本語盤のレコードはアメリカやフランス、オランダなどでも発売されて世界的に拡大した。皆川が7歳の誕生日を迎えて間もなく、遂にレコードの出荷が200万枚を突破する時が訪れる。その日はプレス工場に赴き、200万1枚目のレコードのプレスにも立会ったそうだ。

1960年代から70年代へと移行する時代の変わり目、クロスオーバーの面白さと同時に社会も文化も混沌としていた時代に、無垢な少年が歌う罪のない歌が求められたのかもしれない。当時は東大紛争が繰り広げられていた頃。学生運動の象徴のひとつ、ゲバルトという言葉がタイトルに採り入れられたバラエティ番組『ゲバゲバ90分!』にも皆川は顔を出した。「黒ネコのタンゴ」をヒットさせた後、小学校高学年となっていた1973年から74年にかけてはキングレコードでレコーディングを連ね、初のソロアルバムも発売された。

やがて変声期を迎え中学校へ上がる頃には合唱団を辞して、芸能界に残る気も一切なかったという。友人とバンドを組んでドラムを担当した経緯から音楽大学へと進学したそうだが、その後はグラフィックデザイナーとして活動し、表舞台にはほとんど出ていなかった。
ひばり児童合唱団の代表を務めていた伯母の皆川和子は、戦中から子供たちへの歌唱指導を始め、それが戦後にひばり児童合唱団へと発展した。安田祥子・由紀さおりの姉妹をはじめ幾多の才能を育てた人物であった。彼女が老境に達した頃にその後継を決意した皆川は、子供のいなかった和子が2014年に92歳で世を去った後、かつて自分も所属していた合唱団の代表に就任。スタジオも新たに建て直して子供たちの指導にあたった。2023年には結成80周年を迎えたが、皆川は2025年7月に惜しまれつつ逝去。その追悼の意を込めて、初のベストアルバム『皆川おさむくん 黒ネコのタンゴ 大人のための子どもの歌』が、4月1日に発売となった。
全25曲、幼き日の伸びやかで表情豊かな歌声がたっぷり堪能できる今回のベストアルバムでは、代表曲「黒ネコのタンゴ」がデビューの6歳時の録音、10歳時の録音、さらに別バージョンで収録されているほか、映画『トム・ソーヤーの冒険』主題歌やアニメ「チャージマン研!」挿入歌といったタイアップ曲、アルバムに収められていた童謡や世界の愛唱歌が聴ける。



スペシャル・ボーナストラックには、日本未発表だった「黒ネコのタンゴ」のイタリア語版と英語版が初収録され、シングル「黒ネコのタンゴ」のカップリング曲で置鮎礼子が歌っていた「ニッキ・ニャッキ」も収録されているのが嬉しい。1999年に大ヒットした「だんご3兄弟」のカバーもしっかり納められている。このカバーは「黒ネコのタンゴ/だんご3兄弟」として短冊シングルで発売されていた。30年の時を超えてノベルティソングの歴史が繋がった歴史的な一枚といえる。
「黒ネコのタンゴ」誕生秘話
大島一視(元水星社ディレクター)
水星社は、イタリアの童謡コンテスト『ゼッキーノ・ドーロ』で入賞した楽曲をNHKの『みんなのうた』に提供しており、「黒ネコのタンゴ」の元曲となった「Volevo un gatto nero」もその候補の1曲でしたが、NHKからは不採用となりました。
『みんなのうた』では採用されなかったものの、この楽曲の日本語バージョンを制作し、レコード化しようということになり、これを歌う歌手、バックの演奏を編曲するアレンジャー、日本語訳詩を付ける作詞家を探しました。
皆川おさむくんを探してきたのは水星社の社長であった木下美智子さん。
聞いた話によると、特に歌声を聴くこともなく、ひばり児童合唱団の中からピアノの下でゴロゴロと遊んでいた男の子を見て、その時に受けた印象・キャラクターで「この子が良い!」という直感で決まったという話です。
「今度、大島君も一緒に会いに行こう」と言われて、それでおさむくんに会いに行きました。

編曲を手掛けるアレンジャーは、水星社の音楽出版を担当していた上司から「この人にアレンジをお願いするのが良いのではないかと」提案された、小森昭宏さん。提案を受けて、小森さんのところへ行って打ち合わせをし、原曲がタンゴだったものですから「これ、ゴーゴータンゴにしようよ」という話になり、ゴーゴーのリズムを取り入れたアレンジにしていただきました。
訳詞の方はどうしようかという話になり、NHK『みんなのうた』の担当者から「面白い作詞家がいるよ」とご紹介いただいた、見尾田みずほさんにお願いすることに。
訳詞に関しては、最終的に社長の木下美智子さんの許可が降りないと決定しないのですが、歌詞を持って行ってはダメ、持って行ってはダメで、見尾田さんと私が何度も何度も打ち合わせをして、5回ぐらい書き直しました。
結果、全くの意訳なんですけど、「これは面白い!」となったのが、この「黒ネコのタンゴ」というタイトルのもので、特に「アジの干物は おあずけだよ」のフレーズが良かったとのことでした。
事前に歌唱力などはわからなかった おさむくんですが、とにかくレコーディングの時には全く問題なかったです。録音は、3テイク歌ってもらい、良い部分を十数か所つないで仕上げました。途中で声がひっくり返ったところは、それがまた魅力的だったのでそのまま採用しました。
「黒ネコのタンゴ」は、そんな色んな偶然が有機的に絡まって完成した、そんな1曲だと思います。

【商品情報】
『皆川おさむくん ~黒ネコのタンゴ 大人のための子どもの歌』

※商品詳細・配信リンク:https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICG-762/
発売日:2026年4月1日(水)
定価:3,000円(税込)/ 2,727円(税抜)
品番:KICG-762
<収録内容>
01.黒ネコのタンゴ(1969年録音) ※「黒ネコのタンゴ」17cmEP盤
02.トレロカモミロ
03.チキチキ・バンバン/歌・友竹正則
04.サモア島の歌
05.黒ネコのタンゴ(1973年録音) ※「皆川おさむファースト・アルバム」収録
06.海賊ごっこ ~映画「トム・ソーヤーの冒険」より
07.ピエロのトランペット
08.おんぼろピアノ
09.ジャン・ポン・ポン ~NHK幼児体操より
10.ぼくが鳥になったら
11.黒ネコのタンゴ(1973年録音) ※Another Version
12.シドロ・アンド・モドロ
13.研とキャロンの歌 ~アニメ「チャージマン研!」より
14.線路は続くよどこまでも
15.パパはママが好き
16.アビニヨンの橋で
17.おお牧場はみどり
18.むぎばたけ
19.かわいい魚屋さん
20.ぞうさん
21.かあさんのうた
(スペシャル・ボーナストラック)
22.黒ネコのタンゴ〈イタリア語版〉(1970年録音)
23.黒ネコのタンゴ〈英語版〉(1970年録音)
24.ニッキ・ニャッキ/歌・置鮎礼子(1969年録音「黒ネコのタンゴ」17cmEP盤カップリング)
25.だんご3兄弟(1999年録音「黒ネコのタンゴ」8cmCDカップリング)
コーラス:ひばり児童合唱団
*古い音源のためノイズがございます。あらかじめご了承下さい。
【先着購入特典】
皆川おさむブロマイド

プロフィール
皆川おさむ(みながわおさむ)
1963年(昭和38年)1月22日、東京生まれ。3歳のとき、ひばり児童合唱団20周年記念公演において初舞台。代表曲の「黒ネコのタンゴ」は、1969年10月5日に皆川おさむ6歳の時のデビュー曲としてフィリップスから発売された。
累計230万枚の大ヒットを記録。オリコンシングルチャートで14週連続1位を記録するなど、6歳10カ月での1位は最年少記録とされている。変声期を境に芸能界を引退、2014年から合唱団の代表を務めていた。2025年7月23日、惜しまれつつ62歳の生涯を閉じた。

