COLUMN
COLUMN
50年目のホーボーズ・コンサート ― 関敬、中川五郎が語る 当時と今、その先に抱く夢
進行・文:真鍋新一/写真:Ryoma Shomura
2024.12.13
◆レコードに記録された1974年の伝説的な瞬間
関:話すと長くなってしまうから(笑)、かいつまんでお話ししますね。きっかけは、(テーブルの上にあるレコードを指して)まさにこのレコードなんですよ。一時期は頭の中からすっかり消えてしまっていたのですが、歳をとってから頭の片隅に浮かんでくるようになりまして、それで当時以来、何十年ぶりに聴いてみたんです。
1974年のコンサートはキングレコードの宣伝スタッフであった大蔵博(火呂死/のちにヨロシタミュージック、MIDI Inc.を設立)が中心となって企画・運営された。「こちらが感じるものがあれば、レコードを出しているいないにかかわらず、又、ベルウッドレコードに所属しているかどうかにかかわらず、出演してもらえるように交渉しました」(レコードの解説より抜粋)という方針でステージの様子はすべて録音されたとされ、1976年には抜粋された音源が7枚にもわたるライブアルバムとしてリリース。『郡山ワンステップ・フェスティバル』と並んで、当時の音楽シーンを記録した貴重なドキュメントとなっている。
関:前の年(1973年)の10月にまず『ディランズ・チルドレン・コンサート』という1週間連続のイベントがあって、大蔵さんからそれと同じようなことを1年間通してやりたい、と。要は「1年先に劇場を押さえとくから安く使わせてくれよ」という話だと思うんですけど(笑)、もちろんありがたい話ですし、僕自身は演劇中心だったから、ジャンルの違う人たちとお仕事ができるのはすごく嬉しかった。
中川:いま振り返ると、1974年という時期自体に特別な想い出がありますね。1970年代に入るとフォークはラブソングとか、青春とか、季節とか、故郷とか、そういうフワッとしたものを歌うものに変わってきた。60年代に歌っていたようなメッセージ・ソングを歌い続けていた僕は「うん、どうしようか」って。すごく難しい、模索の時期だったんですよ。そんな時、このコンサートに呼んでいただいて、高田渡さんやいとうたかおさん、同じ時代を歌ってきた人たちとまた同じ場所で歌うことができた。その機会は、自分が次の段階へ行くためにすごく大きな意味を持っていたと思うんです。
◆歌う人も聴く人も、同じ目線で参加できるコンサート
当時、中川がステージで歌い、レコード化もされた楽曲に「飛行機事故で死にたくない」がある。当時、全国を飛行機で飛び回りながら忙しくライブ活動に励んでいた共演者の高田渡へ捧げた歌で、「向こう行っててください」(中川)、「全部聴いてるからな!」(高田)という微笑ましいやりとりもレコードに記録されている。
中川:まさにそういう、みんながそばにいる前で、その日に一緒に出る人も舞台袖や客席で聴いてくれるみたいな感じ。歌う人も聴く人も、ほとんど同じ目線で等しく参加しているような雰囲気でした。いわゆる舞台があって客席があるっていう、普通のシアターではなかったですよね?
関:舞台の高さが15センチくらいだったかな。すごく低い。もともとそういう作りだったんですよ。劇場のフロア全体の1/3くらいが舞台だとすると、15〜20センチくらい下がった客席にみんなで座布団を敷いて座り込む。そんな空間が、鉄骨モルタルのアパートの1階にあったわけです。
立地的には池袋駅前とはいえ、少し奥まった場所にあるため一般の住宅も隣接していた。当初はアコースティックだけという話が、なし崩し的にエレキ編成のグループも出演するようになり、騒音のクレーム対応にはほぼ1年中追われていたという。
関:僕は劇場側の人間として一歩引いて観ていたから、苦情の対応も大変だったし、あの時誰がどうだったかということはほとんど憶えていないんです。でも、ひとつ憶えていることがあって、ある時、アンプが飛んだんですよ。劇場側の問題か、PAさんの問題か、僕の立場だとそういうことが気になるんだね(笑)。だからすごく焦った。するとバンドの人が生ギターを弾いて英語の歌を歌い出したんです。知らない歌だったけど、それがすごくうまかった。聴き入ってちゃいけないんだけど、でももう少し見ていたいっていう。いま考えると、シュガー・ベイブの山下達郎でした。
この時 山下が歌ったのは、ビーチ・ボーイズのカヴァーで「Your Summer Dream」。当時のステージを観ていた方の回想がインターネット上にあり、思いのほかあっさり判明した。アーティストにとっても、観客にとっても想い出深いコンサートが、今回どのように再始動することになったのか。当時のレコードを聴き返して蘇った記憶が、偶然の出会い、新たな縁につながっていった。
◆1974年のコンサートを50年後に同じメンバーで
関:去年(2023年)の7月に中山ラビさんの追悼コンサートへ出掛けたんです。僕は演劇の世界に戻ったり、美術のほうへ行ったりで音楽とは離れていましたから、昔、シアターグリーンで歌ってくれた人たちがお元気に活動されているということも全然知らなかったわけです。そのコンサートに行くことになったのは、今回の『HOBO’S CONCERTS 2024』でも司会をしてくれるフラワー・メグが出演していたからで、その彼女と少し前、50年ぶりに再会したということもあった。そんなことで啓示と言うと大袈裟ですが、50年ぶりのいろんな縁が蘇って、「もしかして、(コンサートを)やれってこと?」と思ったんです。でも、どうやっていいかまったくわからないので、その時に出演されていた中川五郎さんにすぐご相談の連絡をした……ということなんです。
中川:関さんとお話をしたのは実はその時が初めてでした。まさかそこで1974年のコンサートを、50年後に同じメンバーでまたやろうという話が出てくるとは思ってもみなかったんですが、でも聞いてすぐに「これは面白い」と。もちろん自分も参加したいし、当時一緒にシアターグリーンで歌っていた人たちが、いまどんな歌を歌うのだろうか。そこに興味があった。面白いけど、これは大変だなと(笑)。
関:中川さんがいなかったらここまでたどり着けませんでした。僕が書いた企画書を「ここに送ってください」といろんなところへ案内してくださって。最初の段階で中川さんに参加の連絡をしてくれた人たちがコンサートの基礎になってます。
中川:基本的には、とにかく連絡がつく範囲でミュージシャン仲間に声をかけて、「こういう企画がありますよ」と、連絡係みたいなことを僕は受け持っていました。話をすると、みんなすごく面白がってくれましたよ。もちろん当時のこともよく憶えていて、みんなにとっても記憶に残るコンサートだったんだと思います。これは……復活と言えばいいのかな? どんな言葉が一番いいかということも、参加する人が考えるわけなんですけど、僕はいわゆる同窓会的なことはイメージしていないですね。「これからみんな、どうしようか」っていうのを、お互いを見て、次に向かうところをみんなが見つけられるような、そういう機会になればいいなと思っているし、僕自身はそうしたいと思っています。
関:最初に中川さんに言ったんだけど、本当はもっとワイワイとやりたいんです。もっと言うと、誰が何日に出るかってことも決めたくなかった。1週間の開催中、毎日好きな人が来て、好きなように歌ってくれたらって。我々の時代は、決まりごとが本当に嫌いだったんです。「決まっていないことを志している人たち」というか。あくまでもこれは夢として、という話ですが、「今日は1人しかミュージシャン来てないよね、それでもいいか」というぐらいの、自由な空間になったら面白いなと思います。
【公演情報】
『HOBO’S CONCERTS 2024』
日時:2024年12月24~30日(開場/開演時間は公演日によって異なります)
会場:シアターグリーン(池袋)
<出演予定アーティスト>
あがた森魚 | 朝野由彦 with 前田直人・犬塚健二・永田隆志 | アーリータイム・ストリング・バンド(村上律・今井忍・竹田裕美子・松田幸一) | いとうたかお | Inoue Ohana Band(井上憲一 ・キャシー井上 ・井ノ浦英雄・佐藤克彦 ・クーポ ・ゲスト:SANDII ) | 大塚まさじ | 長田Taco和承 | かしわ哲 with サルサガムテープSP | 金森幸介 | カルメン・マキ with 丹波博幸・清水一登 | 小室等、こむろゆい、河野“菌ちゃん”俊二 | gnkosai BAND(gnkosai・足立 PANIC 壮一郎・オカザキエミ) | GreenOnions(久保田さちお・貫田弦邑・リッツ・未麗・折井隆彦・木村シンペイ) | 佐藤GWAN博 | センチメンタル・シティ・ロマンス(細井豊・野口明彦・種田博之 with 湯川トーベン・柳沢二三男) | シバ | タイロン橋本 | 豊田勇造 | 中川五郎 |ザ・ナスポンズ(松浦湊・小滝みつる・上原 ‘YUKARI’ 裕・新井健太・春日 ‘hachi’ 博文 ) | BUZZ NEXT(東郷昌和、百田忠正 with 平野融)|林亭(佐久間順平・大江田信) | ながいよう | 村松邦男 | 森野川バンド(佐野史郎・湯川トーベン・森信行)
▼詳細はコチラ▼
https://www.hobos50.com/
『1974 HOBO’S CONCERTS』全7作品
各配信サイトにて配信中!
▼配信はコチラ▼
https://bio.to/1974HOBOS
<作品一覧>
『1974 HOBO’S CONCERTS I ~見えないボールを投げる~』
『1974 HOBO’S CONCERTS II ~大きな青空が胸に~』
『1974 HOBO’S CONCERTS III ~みんな昨日のようさ~』
『1974 HOBO’S CONCERTS IV ~君のまわりをひとまわり~』
『1974 HOBO’S CONCERTS V ~ありがとう ありがとう ありがとう~』