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【ベルウッド・レコード50周年】 PICK UP LIBRARY 第6回

ベルウッド・レコード設立50周年を記念して9月30より、初期の名盤アルバムがダウンロード/サブスクリプション/ハイレゾにて配信開始!
ベルウッド・レコード往年のファンはもちろん、配信で初めて耳にする方にもまずはこれを聴いて欲しい、必聴タイトルをピックアップしてキングレコードスタッフがご紹介していきます。

SOUND FUJI 編集部

2022.10.21

▶南正人「南正人ファースト」

南正人は1964年の春から大学を休学し、アメリカ、メキシコ、ヨーロッパを2年に渡って放浪した。この間にアリゾナで初めて人前でカントリーミュージックを歌う経験をしたり、ホンジュラスからの留学生との交流から海外の革命や名演説に触れたりと、後の活動へつながるような大きな影響を受けたという。
その後、高田渡や遠藤賢司らも参加したフォーク・グループ「アゴラ」を経て、青山にあったバー「汽車クラブ」で弾き語りのアルバイトをしていた際に音楽プロデューサー寺本幸司の目に留まり、RCAからメジャーデビューを果たすのだが、シングル2作とアルバム1作をリリースしたものの、結婚による生活の変化などによって精神的に疲弊するようになる。

そんな中、自然回帰を目指す”ヒッピー”ムーヴメントに共感を覚えた南は、本作のジャケット写真の様な長髪に髭を蓄えた風貌へと変わり、都会の喧騒から離れた八王子の山中にある古民家へと、妻と犬やウサギたちとともに住居を移した。
プロデューサーの寺本よりレコーディングの話を持ちかけられた南は、山の中で制作するという条件で承諾。その結果、誕生したのが本作である。自宅録音というスタイルは、第5回で紹介した「HOSONO HOUSE」とも共通している。

楽曲は全て南による作詞作曲、編曲はバッキングで参加したキャラメル・ママによるもので、エンジニアの吉野金次が録音機材を古民家に持ち込んで全曲が録音された。1曲目の「いやな長雨」は南による弾き語りのブルースナンバーであり、素朴なギター・歌声と共に聴こえてくる鳥のさえずりが、八王子の古民家というロケーションを感じさせる。各パートが躍動するセッションが披露される、続く2曲目の「午前4時10分」や、カズーやバンジョーが特徴的なジャズ調の「A WEEK」などと、LPレコードのA面となるアルバム前半からバラエティーに富んだ内容になっている。当時デビューしたばかりであった りりィが客演した「ブギ」は、りりィが見学に来ていることから、その場で南が作曲した楽曲。そして、このアルバムを象徴する曲は「家へ帰ろう」ではないだろうか。この古民家での暮らしを通じて、ようやく見つけた彼の”家”、それを自宅で録音しているというシチュエーションが何とも感慨深い。

南にとって2作目のアルバムでありながら「ファースト」とつけられたタイトルには、セルフプロデュースとして1作目のアルバムという意味が込められており、彼の飾らない純粋な音楽が詰まった作品だ。

〇オリジナルリリース:OFL-14(1973年リリース)

<参加ミュージシャン>
南正人
キャラメル・ママ(細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆)、りりィ ほか

◆再生はこちら
https://king-records.lnk.to/MinamiMasato1

▶いとうたかお「いとうたかお」

1974年に発売されたいとうたかおの1stアルバム。
彼にとってはじめての録音は、高田渡のアルバム「系図」に収録されたいとうのオリジナル曲「あしたはきっと」である。(この経緯に関しては第2回のコラムにて紹介している。)その後、シングル「あしたはきっと/かたつむり」でベルウッド・レコードからデビューすることになるのだが、本作にも同じく「あしたはきっと」が収録されており、こちらの3種類全てが異なるバージョンとなっている。
9/30より「系図」と本作「いとうたかお」が配信開始となったため、各配信サイトにて2つのバージョンを聴き比べることが可能となった。本作ではブルーグラス・スタイルのアレンジで演奏されており、音質の違いも相まって「系図」のテイクとはまた違った印象を受けると思うので、ぜひ聴き比べてみてほしい。

このアルバムは中川イサトプロデュースの作品であり、楽曲に応じてアレンジや編成なども異なるアプローチで制作されている。1曲目の「水を一杯」は瀬尾一三によるアレンジで中川イサト、村上律、高田渡、岡田徹、松田幸一らフォーク・バンドのオールスターとも思える11人編成でのディキシーランド・ジャズ調のナンバー。それに対し、「位置を変えて」では田中章弘や伊藤銀次といったロックをルーツとするミュージシャンがバックを務め、歌をしっかり聴かせつつ楽曲の世界観を作り上げていく展開は、現代のJ-POPに通ずるバンドサウンドであるようにも感じられる。

大半を占める弾き語りや二人編成の楽曲では、フィンガーピッキングをはじめとした持ち前のギターテクニックや様々な歌唱法によって幅広い表現を魅せるヴォーカルも堪能することができ、同時期に台頭してきたシンガーソングライターの作品群でも、存在感を放つ1stアルバムだ。

〇オリジナルリリース:OFL-23(1974年リリース)

<参加ミュージシャン>
いとうたかお
中川イサト、村上律、高田渡、松田幸一、伊東銀次(伊藤銀次)、深井孝雄、岡田徹、田中章弘、林敏明、横山鉄郎、瀬尾一三、新井英治、鈴木正夫、羽鳥幸次

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https://king-records.lnk.to/ItoTakao

▶中川五郎「また恋をしてしまったぼく」

1978年に発売された中川五郎の3枚目となるフル・アルバム。
中川は関西フォークの代表的なミュージシャンであり、「受験生ブルース」を作詞したことでも知られているため、“プロテスト・ソング”や“アングラ”といった言葉がマッチするようなイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし、こういった印象は1960年代後半からの数年間を切り取ったものに過ぎない。

1970年以降、日本でのプロテスト・ソングや反権力闘争などが沈静化したことで楽曲が書けなくなった中川が、スランプを乗り越えた末に辿り着いたのが自身の体験を基にした私小説的な作品であり、それらの楽曲は2ndフル・アルバム「25年目のおっぱい」に収められた。その2年後にリリースされた本作は、前作と同じく中川自身の暮らしや体験をリアリティのある音楽に落とし込んだ楽曲が収録された、続編的な作品である。

今回50周年記念で配信開始となったタイトルはベルウッド黎明期の作品が多いため、その中で1978年発売の「また恋をしてしまったぼく」は録音環境の進化も感じさせる洗練されたサウンドなのだが度肝を抜かれるような詩の数々がサウンドの進化以上にインパクトを与える。

長く語りすぎないように表題曲の「また恋をしてしまったぼく」に絞って触れてみたい。中川イサトによるとても爽やかなアレンジのこの楽曲では、妻子を持った男が酒場で出会った女性に恋をする模様が歌われている。日本には、ムード歌謡と呼ばれる類の音楽で浮気や不倫を題材にした歌は多くあるが、それらはプロの作詞家が映画やドラマのワンシーンを彷彿とさせるように描いたもの。しかし、この曲で歌われているのは正に”ノンフィクション”。女性との出会いから始まり、心の動きと共に鮮明な描写が5番構成で紡がれることで、曲の終りに歌われる物悲しいフレーズが実に生々しい。

そんな表現に長けた文学的センスは「夜盗のように」と「Me and Bobby McGee」の外国曲2曲に付けられた訳詞にも表れているので、是非歌詞にも注目して聴いていただきたい。

このアルバムでは、当時28歳であったフォークシンガー中川五郎が、不恰好にも思えるような等身大の姿や言葉を美化することなく歌っている。現在同年代のリスナーにとっても、時代を超えて感じる共感や発見があるかもしれない。

〇オリジナルリリース:OFL-48(1978年リリース)

<参加ミュージシャン>
中川五郎
中川イサト、藤井裕、林敏明、国府輝幸、長田和承、有山淳司、中野督夫、松田幸一、佐久間順平、青木ともこ、野口明彦、細井豊、トマト

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https://king-records.lnk.to/Matakoi

▶遠藤賢司「東京ワッショイ」

1979年に発売された遠藤賢司のベルウッド・レコードにおける最初のアルバム。
横尾忠則が手掛けた色彩豊かで情報量の多いジャケットから、「このアルバムでは一体どんな音が聴けるのだろう?」と期待値が上がってしまうが、そのハードルを軽々と超えて、フォーク・パンク・ロックなどとジャンルでは括りきれない楽曲が詰め込まれたスペクタクルな作品だ。10曲を収録した本作は、半年の準備期間を経てから丸3か月掛けてレコーディングされ、当時スタジオレコーディング時間を一番多く使ったとも言われている。

遠藤の脳内に描かれた作品のイメージを具現化する肝となったのが、四人囃子のメンバーであった佐久間正英のシンセサイザーによる表現であるといえるであろう。
1曲目を飾るインストナンバー「東京退屈男」は、日本的な音階で奏でられるエキセントリックなサウンドで、まるでテーマパークのような架空の”東京”へと誘われる感覚が味わえる。「哀愁の東京タワー」ではビビッドな電子音で温もりのない不気味な感情を、「UFO」ではタイトル通り宇宙から来た円盤を、打ち込みによって見事に表現している。また、こういった目立った使い方だけではなく、「天国への音楽」やデビュー・シングルのセルフカバー「ほんとだよ」などにおいては、シンセのサウンドが幻想的な世界観を演出する黒子のような役割で、効果的に使用されている。

その他にもSEとして使われている笑い声や複数人での掛け声など、細部に渡って遠藤の拘りが詰め込まれ、最後の1曲「とどかぬ想い」では、楽曲の最後を飾る音のためだけに使用されたハープの美しい音色が奏でられる。このオリジナリティに溢れた作品性は、次作「宇宙防衛軍」へと繋がっていく。

〇オリジナルリリース:SKS-1021(1978年リリース)

<参加ミュージシャン>
遠藤賢司
佐久間正英、岡井大三、佐藤満、山内テツ、山畑松枝、佐藤佐智子、谷田部純、KENJI軍団、ワッショイ軍団 ほか

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https://king-records.lnk.to/Tokyowassyoi

▶あがた森魚・大瀧詠一「僕は天使ぢゃないよ」

林静一の「赤色エレジー」を原作に、あがた森魚が監督、脚本、主演を務めた同名映画のサウンド・トラックとして発売された作品。

上述の中川五郎や遠藤賢司など、フォーク・ブームの渦中にいたアーティストたちも後々新たなサウンドや方向性を提示していくことになるのだが、あがたは早々に次のステップとなる挑戦に取り掛かっていた。映画製作に至った経緯としては、あがたの歌う「赤色エレジー」のヒットや、東映映画「女番長ゲリラ」への本人役での出演を通じて映画の現場に携わったことなど、様々な要因が重なった結果、製作に対する思いに駆られたのだという。

あがたのヒット曲や大瀧詠一の楽曲が収められていることからもわかる通り、映画「僕は天使ぢゃないよ」は流行歌を映画化したり劇中歌としたりする様な「青春映画」や「歌謡映画」のベルウッド版とも言える作品だ。劇中で大瀧の「びんぼう」が使われたシーンでは、楽曲が持つコミカルさやインパクトによって、この曲ならではの画力(えぢから)が生まれているように感じられる。
映画に合わせて録り下ろされた楽曲としては、ベルウッド作品には珍しいクラシックをイメージした「一郎のテーマPart1」で武川雅寛、岡田徹、矢野誠のコラボレーション、「ハムレットのテーマ」「愛のテーマ」でティン・パン・アレーとストリングスの心地よい融合を楽しむことができ、本作ならではの共演も魅力である。

本作に収録された「赤色エレジー」はシングルともアルバム「乙女の儚夢」とも異なる御苑スタジオにて新録されたバージョンが使用され、ここでもこの楽曲に対するあがたの拘りが感じられる。サウンド・トラックの域に留まらない楽曲の数々は、アルバム単体としても十分に楽しむことができる。

〇オリジナルリリース:OFL-34(1975年リリース)

<参加ミュージシャン>
あがた森魚
岡田徹、ティン・パン・アレー、岡田徹、武川雅寛、矢野誠&ストリングス、大瀧詠一、ほか

◆再生はこちら
https://king-records.lnk.to/BokuwaTenshijyanaiyo

【PICK UP LIBRARY】
第1回はこちら
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ARTIST

  • 南正人

    MASATO MINAMI

  • 細野晴臣

    HARUOMI HOSONO

  • いとうたかお

    TAKAO ITO

  • 高田渡

    WATARU TAKADA

  • 中川五郎

    GORO NAKAGAWA

  • 遠藤賢司

    KENJI ENDO

  • あがた森魚

    MORIO AGATA

  • 大瀧詠一

    EIICHI OHTAKI

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