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【伊福部昭 特集】和田薫インタビュー(前編)

数々の映画、アニメーション作品などの映像音楽やゲームミュージックを手がけ、今年もテレビアニメがリメイクされて話題の『らんま1/2』の音楽を手がける和田薫。
伊福部昭の門下生でもある和田は、師と同様にキングレコードからリリースされている『交響曲獺祭 ~磨migaki~』(2021)などの純音楽と映像音楽の両面で活躍中だ。
また、伊福部関連アルバムでは『伊福部昭の芸術 12 壮 生誕100周年記念・第4回 伊福部昭音楽祭ライヴ』(2014)の指揮、『映画「ゴジラ」(1954) ライヴ・シネマ形式全曲集』(2016)では、指揮のみならずスコアの復刻編纂も手がけている。
このインタビューでは、和田薫と師である伊福部昭との出逢いから東京音大時代の出来事などによって、人間・伊福部昭、教育者としての伊福部昭について伺った。

進行・文:高島幹雄 / 写真:Ryoma Shomura

2024.11.15

――和田さんと伊福部昭先生との出会いは、先生が学長を勤めていらした東京音楽大学へ入学してからでしょうか?
伊福部先生に初めてお会いしたのは、東京音大に入学する前の高校時代だったんです。伊福部先生にたどり着くまでの話がちょっと長くなりますけど(笑)……。僕は山口県の下関というところにいた高校生で、学校では吹奏楽部でホルンをやっていました。それまでは井上陽水さんなどが好きなフォーク少年だったんですが、吹奏楽部に入ってからクラシックに目覚めたんですね。それで本当に唐突でおかしいんですが、ある日突然、自分にも作曲ができそうな気がして、田舎で作曲の先生もいないので独学で作曲を始めたんです。高校2年の時に腕試しのような感じで、これに入選したら本格的に作曲の勉強をしようと思って、旺文社の全国学芸コンクールの作曲部門に応募したんです。審査員に團伊玖磨先生がいたので、この先生に見ていただけるならとも思ったんですね。それが佳作でしたが入賞したので、じゃあ本格的に作曲を勉強することにしたんです。
それまでは吹奏楽の作曲家しか知らなかったので、日本の現代音楽、クラシック、オーケストラにはどんな作曲家がいるんだろう? と思って調べ始めたんです。NHKの『現代の音楽』というラジオ番組を聴いたり、教育テレビでやっていた『N響アワー』でもたまに現代音楽を取り上げていたのを観たり、近所にあった新星堂というレコード店に毎日のように通って、邦人クラシックのコーナーをチェックしてました。でもあの頃は、わずかな枚数しか入っていなかったんですけど。YAMAHA系列の楽器店にも行って楽譜を探しましたが、殆どなかったんです。

――情報量が少なく、自分の足で見つけるしかないという、インターネットが無かった時代ならではの行動ですね。
レコード店が情報源みたいなところもありましたね。いつものように新星堂に行ったら、山田耕筰の「曼荼羅の花」が入ったレコードを見つけました。そのカップリングにこの頃の僕がまだ知らない作曲家だった早坂文雄さんと伊福部先生の楽曲も収録されていたんです。これを買ってきて「曼荼羅の花」から順番に聴いていったら、伊福部先生の曲になり、自分が演奏している楽器でもあるホルンから始まったので「おおっ!」となって、ピアノが出てきたら、この4拍子ではない不思議な世界に雷に撃たれたような衝撃を受けたんです。それは、ピアノと管絃楽のための「リトミカ・オスティナータ」という曲でした。「こんな音楽を作る作曲家は誰だ?! 」と驚いてジャケットを見たら、「伊福部昭というのか!!」と。ゴジラの映画は小学生の頃に『東宝チャンピオンまつり』で再編集版の『モスラ対ゴジラ』『怪獣総進撃』などを映画館で観ていましたが、子どもなのでスタッフ・クレジットで伊福部先生の名前を意識するということも無かったんです。だから自分の中ではまだゴジラと伊福部先生は結びついていなくて、初めて名前を知ったのがその「リトミカ・オスティナータ」でした。

――純音楽で伊福部先生のことを初めて知ったというのも和田さんらしい体験ですね!
そのちょっと後だったと思うんですが、次に聴いたのがオーケストラとマリムバのための「ラウダ・コンチェルタータ」 でした。当時あった『FM fan』という雑誌で今週の現代音楽は何が放送されるかって必ずチェックしていたんですが、そこに「伊福部昭がいた!」と。それで「ラウダ・コンチェルタータ」 の初演の放送を正座して聴いたら、これがまたびっくりするような曲だったんです。それでもう、作曲の勉強は「伊福部先生につきたい!」と思ったんです。下関には作曲を教えてもらえる先生がいなかったので、独学でやっていましたから、先生が欲しかったんですね。「それで伊福部先生はどこにいるんだろう?」という疑問がわいてきて、レコードにあったプロフィールを見たらまだ生きていらっしゃると。その後、取り寄せられるだけの音楽大学の学校案内とか資料は全部取り寄せました。届く度に見ていって、国立音大にはいない、武蔵野音大にも桐朋学園短大にもいない。東京音大を見たら……ここにいた!しかも学長先生だということがわかりました。その時は高校3年になる年だったかな。講習会があった国立音大には行ったんですが、やっぱり伊福部先生がいる東京音大へ行くしかないと思ったんです。そこで、先ほどお話しした全国学芸コンクールの作曲部門に応募した時に2位が原さんという東京音大の作曲科の方だったんです。そこで大学の原さん宛に手紙を書きました。僕は伊福部先生につきたいと。ついては伊福部先生はどんな人で東京音大とはどんなところで作曲の授業はどんなことをやっているんですか? などと書いて送ったんです。原さんからはこちらの質問に対してとても丁寧に書いてくださった返事が届いて、それを読みながらますますモチベーションが上がったんです。

――大学宛の住所にいきなり送った手紙にちゃんと返事が来て、それはモチベーションが上がると思います。突然来た手紙に返事をお書きになった原さんという方もすごい良い方ですね。
原さんは、僕が東京音大に入った1年の時の4年生で、「君が和田くんか!よく手紙を書いてくれたね!」っておっしゃってくれましたね。話はまだ入学前なんですけど、伊福部先生に出会うまでの話が長くなっちゃって大丈夫ですか(笑)

――大丈夫です! 和田さんがどのようにして伊福部先生の音楽と出会って、音大の生徒になるまでの道のりは初めて知る人が多いと思いますし、エピソードが濃厚ですから。和田さんのプロフで見る「伊福部昭に師事」の詳細がわかる良い機会です。
なら良かった(笑)。それで高3の夏に東京音大の受験講習会に行こうと思って応募したら、担当教員が伊福部昭って書いてあったんです。「やった!」と。嬉しかったですねえ! でも後から聞いた話なんですが、学長が受験講習会の教員をやるということは本当は無かったんですって。たまたま作曲の担当教員が体調を崩して来られなくなったので、臨時で伊福部先生が教えることになったんだそうです。だから僕にとってはとてもラッキーだったんですね。この東京音大の受験講習会で初めて上京して、ようやく伊福部先生と会うことができました。講習に行くにあたって僕は当時好きだったマーラーのような曲を大きな五線紙に書いて持っていったんです。それで伊福部先生がレッスンをしてくださって、いろんなことを教えてくれたんですが、僕はといえば、初めてお会いした先生を前に全身汗だくで、頭がポーッとしてしまっていました。伊福部先生は「和田さんね、私は受験に対する和声は見られないので、受験には有馬礼子先生が適任なので紹介しましょう」とおっしゃって、有馬先生に紹介して下さったんです。伊福部先生は作曲そのものについていろいろとレッスンしていただきました。夏休みの講習会が終わって、僕はまた自分の作品で全国学芸コンクールにまた応募したら、今度は2位だったんです。当時はメールもありませんから、伊福部先生のご自宅に電話をかけてその報告をしたんです。先生が「それはおめでとうございます」とおっしゃってすぐに僕は「ついてはいろいろ教えて欲しいです!」と(笑)。今思い返すと、伊福部先生から作曲を教わりたくて必死だったんですよね。「こういうスコアを見なさい」とか興奮冷めやらぬ若者をなだめるように(笑)僕の質問に答えて下さっていました。月1回の有馬先生の受験のためのレッスンに通いながら、伊福部先生にも月に1回か2回は電話をし続けて、作曲について教わっていましたね。それで無事に東京音大に合格できて、伊福部先生のところにつくことになったんです。肝心のゴジラですね?(笑)講習会や電話で映画音楽のことは一切お話しにならなかったので、伊福部先生とゴジラが僕の中でまだ結びついていなかったんです。やっと結びつくのは音大に入って伊福部先生のゼミに参加した時のことでした。

(後編へつづく)


【Release Information】

『ゴジラ』と『キングコング対ゴジラ』のオリジナル・サウンドトラックがLP再発売&初CD
2014年に、当時、東宝ミュージック社長岩瀬政雄氏が管理していたマスターテープを基のテープの音に近い状態で丁寧にリマスタリングしたものでLPとして発売した。今回はそのマスターテープを使用してのLP再発売と初めてのCDの発売となる。

「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック

・LP(KIJS-90043) 定価:¥5,500(税込) 11月3日(日)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIJS-90043/
・CD(KICS-4171) 定価:¥3,300(税込) 11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4171/

「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック

・LP(KIJS-90044) 定価:¥5,500(税込)  11月3日(日)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIJS-90044/
・CD(KICS-4172) 定価:¥3,300(税込)  11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4172/

SACDハイブリット盤「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤も発売!
1983年8月5日、日比谷公会堂で行われた、伊福部昭ルネサンスのきっかけとなった伝説のコンサートの実況録音盤をSACDへ完全復刻。
デジタル録音の最初期でもありデジタルテープとアナログテープの両方が同時に廻されていた。今回は、アナログテープを採用してSACD用に新たにマスタリングを施している。また、アートワークは、最初に発売されたLPを完全に復刻しており、豊富なステージ写真も封入。

「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤

・SACDハイブリッド盤KIGC-37 定価:¥4,400  11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIGC-37/

【キング伊福部まつり 絶賛開催中!】
キング伊福部まつり オリジナル特典「オリジナルチケットホルダー」もついてくる!

詳細はこちら
https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t15420/

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