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【伊福部昭 特集】寄稿『私と伊福部音楽』

ゴジラ 生誕70周年、伊福部昭 生誕110周年を迎え、キングレコードでは「キング伊福部まつり」と題し、『「ゴジラ」 オリジナル・サウンドトラック』 『「キングコング対ゴジラ」 オリジナル・サウンドトラック』が初CD化・LP重量盤のリリース、SACDハイブリット盤「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤のリリースが決定。
それを記念し、SOUND FUJIでは「伊福部昭 特集」を実施する。

SOUND FUJI 編集部

2024.12.6

【伊福部昭 特集】
寄稿『私と伊福部音楽』/
岩瀬政雄 インタビュー(前編)/(後編)

独自の世界観で数々の現代音楽、映画音楽を残し、人々へ多大なる影響を与えた
音楽家・伊福部昭が生み出した音楽との出会いやその魅力について
伊福部昭の音楽を敬愛する11名の方々から寄稿文を寄せていただいた。


井上誠上野耕路開田裕治佐野史郎タカハシヒョウリ
高見沢俊彦(THE ALFEE)巻上公一(ヒカシュー)藤井亮増子直純(怒髪天)山崎貴
樋口真嗣


井上誠

40年前に『ゴジラ伝説II』を発表した時、某音楽評論家が「驚いたよ、だってこれロックでしょ?ボク、キングにはロックを扱うセクションが無いと思ってた」と言いました。私は「いや、これはロックとかサントラとかクラシックとかのカテゴリーに収まらない、地球上に唯一無二のTHE IFUKUBEを探求する愚直な試みです」と答えましたが、実際にキングは伊福部昭さんの作品であれば純音楽も映画音楽も分け隔てなく次々とリリースし、そのおかげで双方の研究者やファンの交流が生まれ、世界的な伊福部ルネサンスの時代が訪れました。キングの功績は計り知れません。これからも至宝の発掘と音盤化に邁進してください。楽しみにしています!

プロフィール

1956年生まれ、神奈川県出身。ヒカシューやINOYAMALANDのエレクトロニクス操作および作曲、編曲を担当。1983年にLP『ゴジラ伝説』を発表したことが縁で「SF交響ファンタジー」の誕生に立ち合う。以後は伊福部昭の全映画音楽スコアの整理分類作業を担当、1986年にはその成果としてLP『OSTINATO』をオーケストラで制作。1990年以降は『完全収録AKIRA IFUKUBE』など旧作映画音楽のCD化を相次いで企画、映画『ゴジラVSモスラ』(1992)、『ゴジラVSメカゴジラ』(1993)、『ゴジラVSデストロイア』(1995)ではサントラC Dの構成、解説などを務めた。


上野耕路

伊福部昭への細やかなコンテキスト的眼差し

伊福部昭は今日性とともにあった。前衛から無視されたことをその反論とされそうだが、彼はブーレーズの「主なき槌」のスコアを研究し音楽が観念だけで出来ていたというショックについて語った。そしてクセナキス、ケージ、またセットセオリーについても知っていた。

アーティストには創作動機を奮発させるものが必要だ。それが賛同か反発かはさておき。彼は前衛に反発した。とはいえ彼は戦前においては彼より少し先輩の西欧のアーティストたちに創作動機を奮発させられる。それは彼のそのときの今日性であった。

そんな彼は怪獣映画でしかセリーを採用しなかった。E-G#-D-Eb-A-Bb-Db-C-B-B-Bb-A-F-F#-G-Abという有名なフレーズ。(そこでぼくはE-G#-D-Eb-A-Bb-B-C-F#-G-C#-Fというヴェーベルン的なセリーを作り、さる怪獣映画で使用した。)

プロフィール

作曲家・画家。8 ½(ハチカニブンノイチ)(1978ー79)、ハルメンズ(1980)、ゲルニカ(1981〜89)、捏造と贋作(1998〜)などのバンド、ソロ(1984〜)、坂本龍一氏の映画音楽への参加(1986〜87)。
現在作曲、絵画制作を続けながら日本大学芸術学部映画学科非常勤講師、映画音楽、舞台音楽、TVCM音楽などに携わる。
映画:『のぼうの城』『ヘルタースケルター』,etc.
TVCM:『QPあえるパスタソースたらこ』『綾鷹』,etc.


開田裕治

私が初めて出会った伊福部昭音楽は、1959年公開の『宇宙大戦争』でした。当時私は6歳。パースの付いた「TOHO SCOPE」の大文字に包まれた東宝マークと共に叩きつけられるように鳴り響いたテーマ曲は、それまで童謡や歌謡曲しか聴いた事もなかった少年の度肝を木っ端みじんに粉砕してしまいました。それ以来、今に至るまで私の心の中に伊福部昭の音楽が鳴り止む事はありません。
特撮映画にのめり込んだまま大学生になった私は、特撮怪獣の同人誌活動を始め、若さゆえの暴挙と言うか恐れを知らぬ蛮行と言うか、一面識もない伊福部先生に直電し、仲間と共に尾山台の伊福部邸に押しかけ、4時間にもわたってインタビュー取材をさせて頂いたのでした。
おそらく特撮映画音楽に的を絞ったインタビューを行ったのは我々が始めてではなかったでしょうか。どこの馬の骨とも知れない我々に対しても、伊福部昭先生は終始穏やかにニコニコと対応して下さり、怪獣馬鹿共の無遠慮な質問にも丁寧に答えて下さいました。伊福部先生の心の広さ、雄大な魂の一端に接し、それまでにも増して伊福部音楽の魅力にのめり込むようになったのは言うまでもありません。
(この時のインタビューは2016年に刊行された、伊福部昭『音楽入門』角川ソフィア文庫判に収録されています)

プロフィール

イラストレーター。幼少より怪獣映画、特撮映画を愛好し、学生時代に始めた同人誌活動は現在も継続中。同人活動で広げた人脈を基盤にプロとしての活動を開始。怪獣やロボット等のキャラクターイラストを中心に、雑誌や単行本の表紙、プラモデルやゲームのパッケージ、音楽ソフトのジャケット等をはじめ、カードゲーム、ポスター等のイラストレーション作品を手がけ、『伊福部昭映画音楽全集』シリーズ全十作のジャケットイラストも担当した。
第28回(1997年)星雲賞アート部門受賞 第24回ゆうばり国際映ファンタスティック映画祭にてファンタランド大賞市民賞受賞
現在は妻と三匹のネコに囲まれて東京に在住。


佐野史郎

1983年8月5日、日比谷公会堂における『伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ』のコンサートの興奮は忘れられない。
子供の頃より繰り返し観続けていた特撮怪獣映画、その映像と共に体の奥底にまで染み込んだ伊福部昭音楽をフルオーケストラで浴び、陶酔した。
それを機に一旦製作を終えたゴジラ映画が再び創られるようになり、今なお、国を超え脅威を増している。
核兵器によって目覚めた古代の神獣ゴジラは、鳥取、因幡国一宮、宇部神社の宮司を古来務めてきた伊福部家の末裔、伊福部昭によって鎮められる神事でもあるのだろう。
明治新政府によって神社が統括されると、宮司であった伊福部家はその職を離れ、蝦夷地、北海道へと居を移した。そこで伊福部昭少年が出会ったアイヌ民族の音楽は、伊福部音楽の幹となり、大国主の神話とも呼応して、この列島の古代の響き、ゴジラの咆哮をも解き放ったのだ。

プロフィール

1955年3月4日生まれ、島根県松江市出身。高校卒業後、現代思潮社『美學校』にて中村宏に師事、油彩画を学ぶ。1975年、劇団シェイクスピア・シアター旗揚げに参加、退団後1980年、唐十郎率いる劇団状況劇場入団1984年退団。1986年、林海象監督「夢みるように眠りたい」で映画主演デビュー、1992年、ドラマ「ずっとあなたが好きだった」がヒットしマザコン男冬彦役が社会現象となる。主な出演作品に石井輝男監督「ゲンセンカン主人」(1993)、大河原孝夫監督「ゴジラ2000ミレニアム」(1999)、空音央監督「HAPPYEND」(2024)など。
また「小泉八雲 朗読のしらべ」をギタリストの山本恭司と2007年より続けている。2023年には箱根彫刻の森にて写真展「瞬間と一日」を開催。音楽活動も継続、2023年にフルアルバム『ALBUM』をリリース。


タカハシヒョウリ

劇場で初めて見たゴジラ映画は『ゴジラVSキングギドラ』(1991)でした。
この作品が、伊福部昭先生16年ぶりのゴジラ映画へのカムバック作であったこと。その事実が自分の人生に与えた影響は計り知れないと思います。
東宝マークから不穏に響くピアノ、相対する二大怪獣をバックに鳴り響くメインタイトル、そして雪崩込むように「U.F.O.襲来」へ。
この冒頭の3分で、少年の神殿の中に「伊福部音楽」という揺るぎない定礎が組み込まれたのです。

伊福部音楽には、日本列島の奥底から突き上げてくるようなビートがある。
足の裏から下腹部が、心臓が、じんわりと熱くなるような魂の旋律がある。
それは、幻想の奥底から幽玄と現れた東宝怪獣たちの咆哮と共鳴して、この星に響き渡っています。

心の奥底に刻み込まれた感動への感謝と共に、ずっと先の世代までこの音楽が響き続けることを願っています。

プロフィール

ロックバンド「オワリカラ」のボーカル・ギターとして2010年から6枚のアルバムをリリース。作詞作曲家として、アイドルグループ、映像作品、大槻ケンヂ氏(筋肉少女帯)のソロプロジェクト、ポケモンカードゲームCM音楽など数々の楽曲制作を手掛ける。2024年11月、ソロ名義での新曲「リバイバル」をリリース。
様々なカルチャーへの偏愛に満ちた筆致で文筆家としても活動し、カルチャー誌から女性ファッション誌まで幅広い媒体にコラム寄稿、番組出演なども多数。
「特撮ファン」活動として、特撮音楽をバンドサウンドで表現する「科楽特奏隊」を仲間たちと結成。監督も務めたMVではウルトラセブンと共演し、「おはスタ(テレビ東京)」に出演。近年は、円谷プロダクション公式メディア連載や、『ウルトラセブン』55周年映像にミュージシャン役として出演など。
好きなゴジラ怪獣はガイガン。


高見沢俊彦(THE ALFEE)

ゴジラの教訓

平成14年12月8日、北海道の音更町へコンサートで訪れた際、リハーサル前に音和の森自然公園にあった伊福部昭さんを讃える音楽記念碑に立ち寄った事は、今でも色鮮やかな思い出として心に残っています。その日はかなり雪深く、周囲が静寂の中、雪をかき分けながら歩く自分の姿がまるでゴジラのように感じられ、どこか嬉しさを覚えたものです。

初めてのゴジラ映画は小2で観た『キングコング対ゴジラ』(1962)でした。背びれが青く光りながら熱線を発するゴジラの姿に心を奪われ、以来、私はゴジラマニアへと変貌したのですが、ゴジラ映画には伊福部昭さんの音楽が絶対不可欠なのです。それは映画の中だけでなく、今も私の心の中で特別な存在として響き続けているからです。テーマ曲が映画館に響き渡る時、私は自然と童心に返り、その瞬間何とも言えない特別な高揚感に浸ります。

今年、伊福部昭さん生誕110周年でゴジラは70周年、かくゆう私も生誕70周年でバンドは50周年!長く続ければ続けるほど人々の心に残る。それがゴジラ音楽から得た教訓です。

                        THE ALFEE 高見沢俊彦

プロフィール

1954年4月17日生まれ。ロックバンドTHE ALFEEのリーダー。楽曲制作、エレキギター、ヴォーカルを担当。1973年、桜井賢、坂崎幸之助と共にアルフィーを結成。1974年、シングル「夏しぐれ」でデビュー。1983年の「メリーアン」から2024年7月リリースの最新シングル「KO. DA. MA. / ロマンスが舞い降りて来た夜」まで、オリコンシングルウィークリーチャートで58作品連続ベスト10入りを果たしている。THE ALFEEは現在、全国ツアー「秋の祭典」を行っていて、今年の5月で単独有料公演数が2900本を記録した。また、高見沢は小説家としても精力的に執筆活動を続け、第4弾となる長編小説「イモータル・ブレイン」を文藝春秋社オール讀物に連載中である。


巻上公一(ヒカシュー)

ヒカシューとゴジラ

思えば1980年に溜池にあった東芝EMIのスタジオで、たまたま伊福部昭氏と居合わせ挨拶したのがはじまりだった。
その出会い以前からヒカシューは、デビューした時からずっとゴジラのテーマを演奏し続けていた。だからその出会いは膝が震えるほどの衝撃だった。
井上はのめり込み、シンセサイザーによる『ゴジラ伝説』を完成させた。
それがきっかけで井上は、伊福部家に足しげく通い、譜面の整理に夢中になり、ぼくらのツアーを休むほどだった。
ヒカシューにおける成果は、だいぶ後になってから結実した。2017年の『ゴジラ伝説V』では、ニューヨーク・ジャパンソサエティ公演後に録音。井上誠を中心にチャラン・ポ・ランタンも加わり、生き生きとした盤が完成した。
ぼくは「あの日の叫びは陽炎か」という詩を書いた。
ゴジラにおける伊福部音楽に慣れ親しんでいるために、時に新作映画での音楽の切り刻みに落胆することもある。
なぜヒカシューに音楽を依頼しないのか不思議で仕方ない。

巻上公一

プロフィール

音楽家、詩人、プロデューサー
現在も活動中のヒカシューのリーダーをつとめながら、ニューヨークからモスクワ、オセアニアまでを飛び回る世界的なアーティストである。民族音楽にも精通しており、ユダヤ音楽のクレズマーをイディッシュ語で歌い、巧みに口琴を操り、2017年トゥバ共和国国際ホーメイコンテストでは優勝も果した。日本トゥバホーメイ協会会長を20年以上務める。
プロデューサーとして、JAZZ ART せんがわをはじめ、ジョン・ゾーンズ・コブラ、湯河原現代音楽フェスティバル、熱海未来音楽祭など多数。
作詩作曲はもちろん、テルミン、コルネット、尺八からエレクトロニクスなど多くの楽器を演奏し、コラボレーションも精力的に行っている。歌らしい歌から歌にもならないものまで歌う歌唱力には定評があり、それらの音楽要素を駆使する演劇パフォーマンスのクリエーターとしても活躍している。


藤井亮

でたらめな映像ばかり作っている僕が、伊福部音楽について語るなんて大変おこがましく、(僕を含む)ゴジラファンから怒られるのではと冷や汗をかきつつこの文を書いております。
そんな僕でも、やはり撮影の日、ミニチュアセットの前に立つと自然に頭の中で流れてくるテーマはやはりあの音楽です。
「猫ふんじゃった」も弾けない僕が唯一ピアノで弾ける、「♪ドシラ ドシラ ドシラソラシ ドシラ」の圧倒的なシンプルさと反復から生まれる肉体的な強さと高揚感は、ものづくりの理想的な姿でもあります。
いつか、あのテーマ曲を使った特撮映画を僕自身も……などという大それた妄想と憧れを持ちながら、これからも聴き続けていきたいです。

プロフィール

映像作家・クリエイティブディレクター。
1979年愛知県生まれ、武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン科卒。株式会社豪勢スタジオ代表。
考え抜かれたくだらないアイデアで遊び心あふれたコンテンツを生み出し話題を集める。
主な仕事に、NHK『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』、滋賀県『石田三成CM』、著書『ネガティブクリエイティブ つまらない人間こそおもしろいを生みだせる』(扶桑社)など。
「大嘘博物館」の展示プロデュースをはじめ、番組や書籍の制作から監督、脚本、アニメーション制作など、幅広いジャンルにおける「くだらないクリエイティブ」を手掛けている。


増子直純(怒髪天)

伊福部氏の作った「ゴジラ」の音楽は世界中の映画音楽の中で名曲と称される作品の一つである事は疑う余地も無い。あの曲を聴いた途端に目の前に巨大な怪獣が現れこちらに向かってくる様子がありありと脳内に浮かび上がる。人間との意思の疎通など微塵も感じさせない圧倒的な暴力、破壊が迫り来る恐怖をこんなにリアルに表現出来た音楽があっただろうか。初めて聴いたその日からこの曲はトラウマになる。人智の及ばぬ絶大な力になす術もなく狼狽える人類の焦燥すら感じ取れる実に奥深い楽曲なのだ。いかに音楽が進化してトレンドが移り行こうともあのゴジラの「恐怖」を表す音楽はこれしかないと断言できる。

怒髪天 増子直純

プロフィール

1966年、札幌市出身。怒髪天ボーカル。一度見たら忘れられないエモーショナルなライブスタイルと、その真逆をいく流暢なMCが混在するステージは圧巻。その気さくなキャラクターで「兄ィ」の愛称で親しまれている。また、お宝鑑定団へ出演する程のヘドラコレクターであり生粋のゲーマーでもある。
俳優としても活躍しており、近年では、映画『GOLDFISH』(2023年公開)や、ドラマ『季節のない街』(2024年テレビ東京)へ出演している。


山崎貴

『ゴジラ-1.0』(2023)の制作中、幾分CGが出来上がったところで画像を繋げてみたことがあります。昭和の町にゴジラが現れるシーンがいい感じに仕上がってきていて、嬉しかったのですが、なんか足りない。どうもゴジラになりきっていない。不思議な気持ちでした。姿形は明らかにゴジラで、それが昭和の銀座をズシンズシンと歩いている。どう転んでもゴジラのはずなのに、なんか足りない。そうです。あの音楽です。伊福部サウンドです。
ええ、つけてみましたとも。その途端ですよ、そのゴジラはまごうことなきゴジラそのものになったのです。驚くほどの変化でした。周りを見回すと、プロデューサー達もニヤニヤしながら画面を見ていました。皆「俺たち今、ゴジラの映画作ってるんだなぁ」という実感がはっきりと沸いてきて、ニヤニヤするしか無かったのでしょう。実はあの伊福部サウンドこそがゴジラの正体なのかも知れないとその時思ってしまいました。願わくば、未来永劫、あの曲が失われることが無い事を祈ります。あの曲は人類の宝だと思うからです。

プロフィール

映画監督。1964年、長野県松本市生まれ。
幼少期に『スターウォーズ』や『未知との遭遇』と出会い、強く影響を受け、特撮の道に進むことを決意。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業後、1986年に株式会社白組に入社。『大病人』(1993)、『静かな生活』(1995)など、伊丹十三監督作品にてSFXやデジタル合成などを担当。『ジュブナイル』(2000)で監督デビューを果たし、CGによる高度なビジュアルを駆使した映像表現・VFXの第一人者となる。
『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)では、心温まる人情や活気、空気感を持つ昭和の街並みをVFXで表現し話題になり、第29回アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞など12部門を受賞。『永遠の0』(2013)、『STAND BY ME ドラえもん』(2014)は、それぞれ第38回アカデミー賞最優秀作品賞ほか8部門、最優秀アニメーション作品賞を受賞。最新作『ゴジラ-1.0』(2023)は、全米での歴代邦画実写作品興収No.1となるなど、海外からも高い評価を受け、第96回アカデミー賞®視覚効果賞など数々の賞を受賞。


樋口真嗣

今更何を語ればいいのか、というよりどこから語ればいいのか?
血肉となり長い年月を経て体の一部に同化してしまった、その旋律、和音、リズム。
そのどれもが複雑でありながらシンプル。
キャッチーでありながらハイブロウ。
叙情的なのに高揚する情念。
似たような傾向の内容にも関わらず、作品ごとに新たなフレーズが増え、そのどれもが魅力的だったが、そんな中に異彩を放つのが1972年の『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』だった。
多忙で新規作曲をする時間がなかったので、『暗黒街の顔役』や『大阪万博・三菱未来館』のための曲などを転用したが、まるで新作のような鮮度を放っていた。
さらに1993年の『ゴジラVSメカゴジラ』では、新曲ながらメロディラインは1958年の『柳生武芸帳』のようでありながら、その分厚いバッキングを伴い、全く新しいゴジラの宿敵の誕生を高らかに歌い上げたのだ。あまりにもかっこいいので拙作『シン・ゴジラ』(2016)のエンドロールで使わせていただいた程だ。
過去に別作品のために作られた曲の流用もしくは転用なのだが、リミックスのような効果とでもいうべきか———完全に同化してないことから生まれる異化効果とでもいうべき印象を残したのだ。

だが、その存在の大きさゆえに自分の作品作りに於いて向き合うことをつい、躊躇ってきた。 その楽曲はすでにいくつものキャラクターの「顔」になっていて、その関係性に割り込むことはなかなかできなかった。 迂闊なことをやれば低俗なパロディに陥してしまうからだ。
そんな中、唯一先生の楽曲を使用したのはNHKの番組内で作られた短編怪獣映画『長髪大怪獣ゲハラ』(2009)だった。監督は今や説明不要の田口清隆。一般映画のデビューで、私は後見人の製作総指揮だった。
企画者でもあるみうらじゅん氏の脚本は昭和30年代前半の、まだ対決ものに活路を見出す前の単独東宝怪獣映画に対する憧憬に溢れていたが、そのタイトルゆえにパロディと誤解されがちだった。
その愛に応え、単なる悪ふざけではないことを訴えるためには、音楽をきちんとしなくては!と考え、本物のチカラを借りねば、でもみんなが知っている曲を使ったらそれこそ悪ふざけになってしまう。
ならば、すでに他界されていた先生が残された楽曲から転用させていただく以外ない!と、当時キングレコードに在籍していたプロデューサーの大月俊倫さんに直訴し、同社より発売されていた『伊福部昭の芸術』を幾度も聞き込み、怪獣映画的でありながら未だかつて怪獣映画に使われなかった曲を探した。それが製作総指揮として唯一自分の手を動かした仕事だったのだ。

もし、先生がご存命だとしたらどの曲をモチーフに敷いてつけられるのだろうか?そんな不遜なことを妄想しながら。 「タプカーラ交響楽」は中学生の頃にすげえ!怪獣映画みたいな音楽だ!と音楽室にあったレコードを勝手に持ち出して昼休みの放送にかけてたりしてたので自分の耳にはもはや怪獣映画音楽に分類されていたので除外。 空いてる時間も、仕事の時もずって聞いて探していた。すると、そのうち、映画のために作られていないはずの音楽の向こうから、巨大な異形のものの息吹が見えてくるのだ。 そして僭越ながら選んだ曲は、バレエ音楽「日本の太鼓」ジャコモコ・ジャンコ、そして舞踊曲「サロメ」だった。
これを読んでいるあなたも怪獣映画の音楽を足がかりに踏み入れたであろう伊福部昭の音楽。それは果てしなく奥深い芸術世界である。

おもえば自分にとって先生は一度もお会いすることのない、徹頭徹尾雲の上の存在だった。
あの時、昼も夜もずっと全集を聴き怪獣映画に合いそうな曲を探していた日々が、一番先生に近付いていたような気がする。
もちろん一方的な思い込みで実際は近づくどころか失礼極まりないことをしていたのかもしれないが、最高のひとときだったのだ。

プロフィール

1965年9月22日生まれ。東京都新宿区出身。特技監督・映画監督・映像作家・装幀家。
1984年『ゴジラ』にて映画界入り。1995年『ガメラ 大怪獣空中決戦』で特技監督を務め、第19回日本アカデミー賞特別賞を受賞。他に、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズなど数多くのヒット映画作品に画コンテやイメージボードとして参加。主な監督作品は『ローレライ』、『日本沈没』、『のぼうの城』、実写版『進撃の巨人』、『シン・ウルトラマン』など。2016年公開の『シン・ゴジラ』では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞と最優秀監督賞を受賞。
次回作は2025年配信の「新幹線大爆破」(Netflix)


【Release Information】

『ゴジラ』と『キングコング対ゴジラ』のオリジナル・サウンドトラックがLP再発売&初CD
2014年に、当時、東宝ミュージック社長岩瀬政雄氏が管理していたマスターテープを基のテープの音に近い状態で丁寧にリマスタリングしたものでLPとして発売した。今回はそのマスターテープを使用してのLP再発売と初めてのCDの発売となる。

「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック

・LP(KIJS-90043) 定価:¥5,500(税込) 11月3日(日)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIJS-90043/
・CD(KICS-4171) 定価:¥3,300(税込) 11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4171/

「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック

・LP(KIJS-90044) 定価:¥5,500(税込)  11月3日(日)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIJS-90044/
・CD(KICS-4172) 定価:¥3,300(税込)  11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4172/

SACDハイブリット盤「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤も発売!
1983年8月5日、日比谷公会堂で行われた、伊福部昭ルネサンスのきっかけとなった伝説のコンサートの実況録音盤をSACDへ完全復刻。
デジタル録音の最初期でもありデジタルテープとアナログテープの両方が同時に廻されていた。今回は、アナログテープを採用してSACD用に新たにマスタリングを施している。また、アートワークは、最初に発売されたLPを完全に復刻しており、豊富なステージ写真も封入。

「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤

・SACDハイブリッド盤KIGC-37 定価:¥4,400  11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIGC-37/

【キング伊福部まつり 絶賛開催中!】
キング伊福部まつり オリジナル特典「オリジナルチケットホルダー」もついてくる!

詳細はこちら
https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t15420/

ARTIST

  • 伊福部昭

    AKIRA IFUKUBE

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