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【江利チエミ企画】映画で辿る江利チエミの歌声と名曲たち
文:鈴木啓之
2026.2.27
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プレイリスト企画「私が聴く、江利チエミ」
【前篇】
1950~60年代のスター歌手にとって、スクリーンでの活躍は必要不可欠なものであった。江利チエミの初出演映画は、歌手デビューの年、1952年の6月に公開された大映映画『猛獣使いの少女』とされている。続いて翌7月には同じ大映で『母子鶴』が公開。
こちらは主題歌「涙の母子鶴」(作詞/上田たかし、作曲/飯田三郎)も歌い、SP盤が発売されたが、映画の主題歌や挿入歌として作られながらも、レコード発売されなかったものも多い。つまりは映画の中でしか聴けない歌。この度、長らくDVD化が切望されていた映画版『サザエさん』シリーズが一挙リリースされたのに際し、東宝作品を中心に劇中で歌われた主題歌・挿入歌の数々を辿ってみたい。
©東宝
1952年はもう一本、大映で『新やじきた道中』に出演している。森一生監督による明朗喜劇の原作は、長谷川町子が描いた「東海道中膝栗毛」のパロディ漫画「新やじきた道中記」だった。既にここで「サザエさん」を演じることになる縁が生まれていたのだ。チエミは富くじの巫女役。音楽は三木鶏郎が担当し、挿入歌も書き下ろされた。翌1953年の新東宝『青春ジャズ娘』は、後に東宝で『太平洋の嵐』などの戦記ものをはじめ、『社長』シリーズのメイン監督として活躍する松林宗恵がメガホンをとった作品。当時のジャズブームは王道のジャズのみならず、ラテンやハワイアンなども含めて舶来音楽の広義に及んだ。チエミのほかにも、ティーヴ釜范(かまやつひろしの父)、高英男、ナンシー梅木が出演し、人気バンドのジョージ川口とビッグ・フォア、与田輝雄とシックス・レモンズ、東京キューバン・ボーイズらが勢揃いの音楽映画だった。
さらに翌年の1954年、エンタツ・アチャコと共演した『陽気な探偵』が、東宝配給作品への初出演となる。製作は東宝傘下の東京映画なので東宝作品といっていい。当時のポスターを見ると、アチャコ、エンタツと並んで(吉本)と併記されており、この時はチエミも吉本興業の所属であったことが判る。作品に添えられたキャッチコピー「歌と笑いがガチャリンコン お色気満点の探偵喜劇!」とあるのは、主要キャストのひとりにトニー谷がいたから。「ネチョリンコン」や「オッパポロポン」といった意味不明のフレーズは彼の得意ネタであった。好評を受けて『チエミ・アチャコ・エンタツのお嬢さんと探偵』のタイトルで再映されている。
1955年には、やはり東宝系の宝塚映画が製作した『ジャズ娘乾杯』でペギー葉山や朝丘雪路らと共演した後、同年代で人気を争っていた、美空ひばり、雪村いづみとの三人娘の初共演映画が遂に実現する。夢の顔合わせとなった『ジャンケン娘』は、雑誌「平凡」に一年間に亘って連載された中野実の小説を原作に杉江敏男が監督。11月1日の公開に先んじて、10月28日に東京宝塚劇場で催された特別試写会では、「唄うジャンケン娘」と称された実演もあり、チエミは本編で歌われた曲以外にも「旅情のボレロ」を披露した。
『ジャンケン娘』DVD発売中 / 4,950円(税抜価格4,500円)/発売元:東宝/©1955東宝
映画の中で歌っているのは、レコードにもなっていた洋楽曲のカヴァー「ウスクダラ」と「スコキアン」、オリジナルの「青い空の下には素敵な恋が」、さらに「ウスクダラ」の替え歌「あんな亀沢女史なんか」も。ひばり・チエミ・いづみの三人で歌われた主題歌「ジャンケン娘」は、それぞれのレコード会社が異なっていたために三人での歌唱は映画の中だけだったが、雪村いづみのソロ・バージョンがビクターから発売された。この年6月に発売された「裏町のおてんば娘」が当初は挿入歌の予定でありながらも使用されなかったのは、このあと日活で映画化されたためとおぼしい。『ジャズ・オン・パレード 1956年 裏町のお転婆娘』のタイトルで、1956年の正月作品として公開されている。
三人娘の映画第2弾は1956年に公開された『ロマンス娘』。
『ロマンス娘』DVD発売中 / 4,950円(税抜価格4,500円)/発売元:東宝/©1956東宝
やはり歌は潤沢で、チエミは洋楽カヴァーの「なつかしのリスボン」「ロック・アンド・ロール・ワルツ」と、民謡を独自にアレンジした「黒田節ガラチャ」を歌う。後にラテンタッチの民謡アルバムを続々と発表する片鱗が既に見られる。ほかに「サンパギィタ」も使用予定だったが本編未使用に終わった。レコードにならなかった映画オリジナルは、音楽担当の神津善行が作曲して三人で歌われた主題歌の「ロマンス娘」だった。レコード発売されたカヴァー曲は時としてレコードの音源がそのまま使われることもあったが、映画用に録り直されるケースも多く、レコードの歌唱とはテンポもアレンジも異なって新鮮に聴こえた。
さらに翌年の1957年には、三人娘の第3弾『大当り三色娘』が公開される。
『大当り三色娘』DVD発売中 / 4,950円(税抜価格4,500円)/発売元:東宝/©1957東宝
開発されたばかりのシネマスコープでワイド画面。東宝では「東宝スコープ」と名付けられ、その御披露目作品となった。冒頭からいきなり三人が歌うオリジナルナンバー「大当り三色娘」で幕を開ける。これも神津善行の作。ソロナンバーではチエミが「マリアンヌ」で先陣を切る。リリオ・リズムエアーズとの掛け合いが楽しい。ほかに「マリアンヌ」とのカップリングでシングル発売された「霧のロンドン・ブリッジ」も歌われるが、前2作に比べると歌が少なめとなっており、ドラマ部分に重きが置かれた様子が窺える。なお、この年は雪村いづみと共演した『歌う不夜城』も東宝で封切られた。チエミはカヴァー曲の「ママ、ダンスを教えてね」「ババルー」「グレンドーラ」のほか、いづみと一緒に主題歌の「歌う不夜城」ともう1曲デュエットによるオリジナルナンバーを歌った。
かなり時代は飛ぶが三人娘の映画ではもう一本、1964年に『ひばり・チエミ・いづみ 三人よれば』が作られている。
『ひばり・チエミ・いづみ 三人よれば』DVD発売中 / 4,950円(税抜価格4,500円)/発売元:東宝/©1964東宝
当然の如くかなり大人になった三人で久々に歌われる同名の主題歌に加えて、「陽気な三人組」「空に浮かんだシャボン玉」も三人で披露された。懐かしい「ジャンケン娘」もちょっとだけ聴ける。チエミのソロナンバーは「男に用はない」と「バタフライ」。すべて神津善行によるオリジナルであった。東宝ではほかにも、チエミ&いづみの共演作として、宝塚映画で撮られた『青春航路』(1957年)と『ロマンス祭』(1958年)がある。東宝でチエミ&ひばりだけの作品がなかったのは、雪村いづみが東宝と専属契約を結んでいたためであろう。三人娘の映画が東宝で実現するに至った要因でもあり、プロデューサーの杉原貞雄、映画のショー場面の演出も手がけた日劇のプロデューサー・山本紫朗の尽力によるところが大きかった。三人それぞれの個性が活かされた劇中、チエミは闊達で少々コミカルな役どころを演じることが多く、ムードメーカー的な役割を担っていたことは間違いない。それによって常に絶妙なコントラストが保たれていたといえるだろう。なにより三人が役を超えて仲良しであったことは言うまでもない。
【後篇】
長谷川町子の漫画「サザエさん」の連載が福岡県の地元紙「夕刊フクニチ」で始まったのは戦後まもない1946年のこと。現在も放送中のアニメ作品で親しまれているが、メディア化は実写版が先で、1948年のマキノ映画『サザエさん 七転八起の巻』が最初の映画化作品となった。主演は宝塚歌劇団出身の東屋トン子で1950年に続篇も作られている。その後、NHKとニッポン放送でのラジオドラマ化、TBSでのテレビドラマ化を経て、1956年に再び映画化された際に江利チエミが主役に抜擢されて当たり役となったのだった。1965年からはテレビドラマ版がスタート、翌年には舞台化もされて、実写版サザエさんといえば江利チエミをおいてほかにいないという時期が長く続くことになる。
©東宝
本題となるサザエさんの話題に入る前に、その直前に出演した2本の作品にも触れておきたい。いずれも『ジャズ・オン・パレード 1956年 裏町のお転婆娘』や『ロマンス娘』が公開された1956年の作品で、この年は江利チエミが生涯で最も多くの映画に出演(=9本)した年でもある。まずは『初恋チャッチャ娘』。ひばり・チエミ・いづみの三人娘の映画を実現させた杉原貞雄プロデュースによる明朗音楽喜劇で、音楽を三木鶏郎が担当している。監督が青柳信雄、相手役に小泉博というのはそのまま『サザエさん』へと引き継がれる布陣である。劇中では「ロック・アラウンド・ザ・クロック」「チャチャチャは素晴らしい」「ババルー」といったカバーソングに、三木鶏郎作詞・作曲による「銀座マンボ」「三味線チャチャチャ」など。女学生だった主人公が歌手デビューするまでの物語なので歌唱シーンが満載だ。
もう一本はその姉妹篇ともいうべき『大暴れチャッチャ娘』で、こちらは『ジャンケン娘』の杉江敏男監督、音楽は神津善行。父親役の喜劇王・榎本健一との初顔合わせが話題となった。相手役はやはり小泉博で、小泉もこの年は『見事な娘』『婚約三羽烏』など11本もの作品に出演する活躍ぶりであった。東京の日劇と同様、映画+実演の興行が繰り広げられていた大阪の北野劇場では、この『大暴れチャッチャ娘』の上映に併せて、ステージショウ『ジャズ娘に栄光あれ』が上演された。
©東宝
山本紫朗の構成・演出による舞台では、東京キューバンボーイズや与田輝雄とシックス・レモンズの演奏で、「ビギン・ザ・ビギン」をはじめ、「おてんばキキ」「ちゃっきり節」「テネシー・ワルツ」「裏町のおてんば娘」などが披露された。東京の日劇でも江利チエミのショーは欠かせないプログラムとして定期的に開催され、『チエミ大いに歌う』などと題されたステージが60年代後半まで続いている。
©東宝
そして1956年のスクリーンにおけるチエミは『ロマンス娘』を経て、いよいよ『サザエさん』に主演するのである。
「漫画の中から飛び出した江利チエミのサザエさん! あわてん坊だがお人好し、会社勤めに恋愛に、思わず吹き出す失敗談!」(公開時のパンフレットより)
©1956東宝
当時は朝日新聞朝刊に連載中だった「サザエさん」の原作に忠実な映画化作品。マスオに小泉博、波平に藤原釜足、フネに清川虹子、ワカメに松島トモ子という絶妙なキャスティング。ノリスケに仲代達矢というのが面白い。タイトルバックはダーク・ダックスと共に歌われる主題歌。クレジットは見られないが、音楽を担当した原六朗の作であろう。冒頭からダークとの掛け合いで「アンナ(陽気なバイヨン)」が歌われる。日常生活での鼻唄をショーの場面に置き換える映画ならではの演出だ。その後、バス停で「ビビディ・バビディ・ブー」を歌い躍るシーンも快調。そこからマスオとの記念すべき初対面となる。小泉博とのダンスシーンで歌われるのは「テ・キエロ・ディヒステ」、終盤で松島トモ子が歌う「私はワカメちゃん」も必見だ。ラストはクリスマスパーティーでラテン風味の「ジングル・ベル」が歌われる中でエンドマークとなる。12月公開の作品であった。
©1957東宝
翌1957年の『続サザエさん』では、美空ひばりと雪村いづみのものまねを披露して「では一番最後に江利チエミさん」と自ら紹介して「ウスクダラ」を歌い遊び心たっぷりのシーンも見られるほか、「ガイ・イズ・ア・ガイ」「バナナボート・ソング」「会津磐梯山」と音楽シーンはやはり必須。カラー化された第3作『サザエさんの青春』では松井八郎と内藤法美が音楽を担当し、新たな主題歌も作られている。作詞は横井弘で、”おつかいする度忘れ物”など、後のアニメ主題歌に繋がるようなエッセンスが見受けられる。小泉博との新居を夢見ながら歌われる「愛の住処」第1作に続いては「ビビディ・バビディ・ブー」。以降の作品でも随所で歌われており、これぞ十八番といったところ。江原達怡との見合いのシーンで歌われる「ヤンミー・ヤンミー」もお得意のナンバーである。第4作『サザエさんの婚約旅行』はシネマスコープのワイド画面に。音楽もこの作品以降は神津善行の担当となる。挿入歌は「黒田節ガラチャ」「蝶々夫人」「マリアンヌ」など。成長した松島トモ子は本作を最後にワカメ役を卒業した。マスオとサザエが遂にゴールインする第5作『サザエさんの結婚』には雪村いづみがゲスト出演している。ラストは第1作以来のダーク・ダックスも加わり結婚の祝い歌で大団円。
以降も『サザエさんの新婚家庭』『サザエさんの脱線奥様』『サザエさんの赤ちゃん誕生』『サザエさんとエプロンおばさん』そして最終作となった1961年の『福の神・サザエさん一家』まで、シリーズは全10作に及んだ。今回のDVDリリースでそのすべてをディスクで観られるようになったのは正しく快挙である。映画が完結してから4年後の1965年からはTBSでテレビドラマ版がスタート(1967年まで)。マスオ役に川崎敬三、ワカメ役に上原ゆかりらの新キャストの中、フネ役の清川虹子だけはサザエと共に変わらずで本当の親子の如し。主題歌は映画版の音楽を長く手がけた神津善行の作曲、脚本家の宮田達男の詞で新たに書き下ろされ、「サザエさん」のオリジナルソングとしては初めて江利チエミのアルバムにも収められた。
「サザエさん」収録『チエミ・ゴールデン・アルバム チエミ・アット・ザ・コマ』
翌1966年には舞台版が初演、1969年にアニメ版が始まって以降も、たびたび舞台で上演されている。1975年の新宿コマ劇場における『決定版 サザエさん』は、久々のヒットとなった「酒場にて」が巷で頻繁に流れていた頃の円熟のステージだった。

惜しくも早逝した江利チエミが存命であれば、その後の浅野温子や観月ありさ版に特別出演していたかもしれないなどと夢想してしまうのだ。
【Playlist】『映画で辿る江利チエミの歌声と名曲たち』
Information
原作漫画連載開始80年!映画第1作公開70年!
【江利チエミ主演『サザエさん』シリーズ全10作品DVD発売中】
DVD詳細はコチラ
<発売作品一覧>
『サザエさん』
『続サザエさん』
『サザエさんの青春』
『サザエさんの婚約旅行』
『サザエさんの結婚』
『サザエさんの新婚家庭』
『サザエさんの脱線奥様』
『サザエさんの赤ちゃん誕生』
『サザエさんとエプロンおばさん』
『福の神 サザエさん一家』



