JA

COLUMN

COLUMN

【伊福部昭 特集】岩瀬政雄 インタビュー(前編)

1954年に第1作『ゴジラ』が公開されて以来、日本のみならず世界中から支持されて特撮映画作品の象徴となっているゴジラ。この度、ゴジラ生誕70年、伊福部昭生誕110年記念企画として、2014年にアナログ盤で発売された『ゴジラ』と『キングコング対ゴジラ』のオリジナル・サウンドトラックが初CD化される。数量限定でLP重量盤のリリースも決定しているが、その原点は1977年9月25日に東宝レコードから発売されたLP『日本の映画音楽 伊福部昭の世界』であった。東宝特撮映画のテーマ音楽が詰め込まれて大ヒットとなったこのアルバムがその後の特撮サントラの世界を開拓したのだ。そのプロデューサーを務めたのが、当時東宝レコードのプロデューサーだった岩瀬政雄氏。今回初めてCD化されるアルバムのマスターテープも氏の管理によって東宝レコードにて保管されていたもの。邦画サントラ盤のフィールドを築いた氏に、伊福部昭氏のエピソードなど、ゴジラ関連のサントラ話を伺った。

進行・文:鈴木啓之 / 写真:Ryoma Shomura

2024.10.25

――伊福部先生に最初に会われた時のお話から聞かせてください。
蝶ネクタイをされて、ビシッとスーツを着てきめてらしてびっくりしました。帝国ホテルでの打合せの場でしたね。身長も170cmちょっとあったのかな。あの時代の人としては背が高くてすらっとしてて、お洒落な方という印象でした。

――東宝レコードのLP『伊福部昭の世界』が最初かと思いますが、そもそもこの企画はどういうところから立ち上げられたのでしょうか。
僕にとっての映画音楽の原点が、小学校3年か4年の頃、夏休みに学校の校庭でやっていた納涼映画大会だったんですよ。昭和34、5年ですかね。まだテレビが家庭の半分ぐらいしか普及していなかった。校舎の2階からシーツみたいなのを垂らして映すんですよ。そこで観たのが、小林桂樹さんが主演していた『裸の大将』だったんですね。その中でオカリナが奏でるメロディーが絶妙で、子供心に染みちゃったんですよね。音楽は黛敏郎さんでした。その後、東宝レコードに入社して撮影所にも出入りするようになっていたら、所内の録音センターっていうところに、それまでの映画の音楽テープが作品別にずらっと並んでいたんですよ。その中に『裸の大将』もあったので、それを借りてきてスタジオで聴きました。何十年ぶりかに再会したわけですよ、その音楽に。こういうテープが撮影所にいっぱいあったけど、レコードに出来ないものかなと思って。

――その頃は邦画の過去作品のサントラレコードはまだほとんど無いに等しい時代でしたよね。

あの頃の映画音楽といったら『エデンの東』であり、『太陽がいっぱい』だったり、基本は洋画でしたからね。邦画のサントラなんてのはまずあり得なかったんだけれども、幸いに東宝レコードには売れてる歌手が誰もいなかった。当時レコード会社が20社くらいある中で、ウチは下のほうだったんですよ。東宝の人気俳優はたくさんいたけど、既にほかのレコード会社と歌手契約していてウチでは出せなかったんです。そんな中で、月に一度の編成会議でサントラ企画をあげたんです。それにあたって上司からの指示で東宝映画のプロデューサーだった貝山(知弘)さんに相談しました。『狙撃』とか『雨のアムステルダム』とかスタイリッシュな作品を作っていて、音楽やオーディオ評論でも活躍された方です。そうしたら、「それ面白いよ。 黛君のところへすぐ行こうよ」って言われて、当時永田町に住んでらした黛さんを訪ねました。それで趣旨を話したら、「映画音楽っていうのは作ったらそのまま終わっちゃうものだと思ってたんだけど、それをレコードにしてくれるのがとっても嬉しいです」って言ってくれた。さらに「ところで君、それは東宝だけで作るの?」 と言われましてね。僕は撮影所に並んでたテープをそのまま借りてきて作ろうと安易に考えてたんだけど、黛さんは「僕はあの頃、今村昌平作品とか、日活でも松竹でも音楽をやってたから、そういうのも入れようよ。僕が連絡しとくから」って言われて。

――企画としては一気に膨らむことになったんですね。いろいろなご調整などは大変になったかと思いますが。
珍しかったんでしょうね、大新聞とかメジャーな媒体が採り上げてくれて。当時の東宝レコードではアルバムは2000枚売れればまず合格だったんだけど、それよりもうちょっと売れちゃったりして。既にある音源だから費用対効果も良いわけですよね。そこでキネマ旬報の前年に公開された映画のリストが載る号を何年分か調べて作曲家の名前を書き出して、その方々に手紙を書いたんですよ。それで返事をいただいて具体的になった人から作っていったんです。 最初は黛敏郎さんで、次が林光さん、その次が佐藤勝さん、そしてその次が伊福部先生になりました。先生は『ゴジラ』の作曲家っていう程度しか僕はまだ知らなかったんですよね。ところがレコードが出てみると営業から、「なんかお前の作った伊福部昭のレコードが新宿の帝都無線(=紀伊國屋書店の中にあったレコード店)で1位になってるぞ」って言われたんです。それまでの3人の方のよりも3倍ぐらい売れたんですよね。で、そうしたら会社にファンたちがたくさん来て、何々という雑誌で紹介させてくださいとかすごい反響があった。で、その中に竹内博君がいたんですよ。ペンネームは酒井敏夫だったけど。映画や漫画評論家の小野耕世さんも彼のことを評価していて、その竹内君が「ゴジラで1枚作りましょうよ」って提案してきたんですね。まだ家庭用のビデオもそれほど普及してない頃だから、効果音とかセリフも入れて音だけでゴジラの世界を作れないかなっていうのはアイデアとしてはあったんですよ。そうしたら竹内君が具体的に選曲してきて、セリフもかっこいいのありますよって、『キングコング対ゴジラ』でヘリコプターが寄ってきて「Oh、It’s Godzilla!」て叫ぶところ。

――音だけで聴いても強烈なシーンですよね。それで出来たのが1978年に出された1枚目の『ゴジラ』だったわけですね。並行して作曲家毎のシリーズ(『日本の映画音楽』)も続けられて。
邦画のサントラをこういう形で作ったのはたしかに初めてだったらしいです。でも僕はそんなことは解らずに高名な作曲家の人たちに会えるのが面白くてね。ライナーノーツをまとめて下さった貝山さんから映画音楽界の実情とかいろんな話を聞くのも楽しかった。全部で11枚。それと並行して『ゴジラ』から『ゴジラ2』『ゴジラ3』と出したんですけれども、『ゴジラ』は続編を作れるとは思ってなかったから、最初の1枚にシリーズの主要曲を詰め込み過ぎて、2枚目からの構成に苦労しました。3枚目になると70年代になってからの主題歌も入れたりして苦肉の策だったけれども、それが意外と好評だったりもしましたね。東宝特撮が終わったら大映の『ガメラ』とかもう根こそぎやりましたね。実は伊福部先生は最初はあまり快く思っていらっしゃらなかったようなんですよ。やっぱり、伊福部昭とか早坂文雄っていう当時まだ若かった世代の作曲家は純音楽を書くのが最終的な目標で、その手前にある映画音楽は最終目標ではなかった。ある種生活のためといいますかね。でも決して手を抜いたとかそういうことではない。実際映画音楽の現場はスケジュールも仕事量も過酷ですよ。その辺りは大衆性と芸術性の兼ね合いもあって難しいところなんだけれども、 そこはどうしたって、『ゴジラ』や『七人の侍』があったからこそ、伊福部昭や早坂文雄の名が一般的にもここまで浸透したということは事実なんでしょうね。

一一ちょうどその頃興っていた第3次特撮ブームと呼ばれる、マニア視点で作品が見直される時期と重なったことも大きかったと思います。そういった若い新たなファンの出現を伊福部先生はどう思われていたでしょうか。

それはもちろん嬉しかったんだろうと思いますよ。1983年に伊福部先生の映画音楽のコンサート(『伊福部昭:SF特撮映画音楽の夕べ』)が催された折、僕も手伝いに行って会場にいたんだけど、音楽業界の方々も見にいらしていて。ファンが多かったということですよね。先生は博学だから、世代が違う相手と話をする時もありとあらゆる話題に合わせられる、そういう知性を持ってる方でしたからね。 話術も巧みで、こちらが思いついた話題をちょっと振ってもすぐに対応して下さる。いつもそんな風に感じていました。

(後編はこちら)


【Release Information】

『ゴジラ』と『キングコング対ゴジラ』のオリジナル・サウンドトラックがLP再発売&初CD
2014年に、当時、東宝ミュージック社長岩瀬政雄氏が管理していたマスターテープを基のテープの音に近い状態で丁寧にリマスタリングしたものでLPとして発売した。今回はそのマスターテープを使用してのLP再発売と初めてのCDの発売となる。

「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック

・LP(KIJS-90043) 定価:¥5,500(税込) 11月3日(日)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIJS-90043/
・CD(KICS-4171) 定価:¥3,300(税込) 11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4171/

「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック

・LP(KIJS-90044) 定価:¥5,500(税込)  11月3日(日)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIJS-90044/
・CD(KICS-4172) 定価:¥3,300(税込)  11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4172/

SACDハイブリット盤「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤も発売!
1983年8月5日、日比谷公会堂で行われた、伊福部昭ルネサンスのきっかけとなった伝説のコンサートの実況録音盤をSACDへ完全復刻。
デジタル録音の最初期でもありデジタルテープとアナログテープの両方が同時に廻されていた。今回は、アナログテープを採用してSACD用に新たにマスタリングを施している。また、アートワークは、最初に発売されたLPを完全に復刻しており、豊富なステージ写真も封入。

「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤

・SACDハイブリッド盤KIGC-37 定価:¥4,400  11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIGC-37/

【キング伊福部まつり 絶賛開催中!】
キング伊福部まつり オリジナル特典「オリジナルチケットホルダー」もついてくる!

詳細はこちら
https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t15420/

ARTIST

  • 伊福部昭

    AKIRA IFUKUBE

BACK TO LIST