JA

COLUMN

COLUMN

【イベントレポート】『「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤』トーク&リスニングイベント

2024年11月24日にSOUND FUJI初のイベント『「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤』リリース記念 トーク&リスニングイベントを開催。
本イベントに客席で参加し、急遽サプライズ登壇したのが特撮音楽研究家の西脇博光氏。
本作に収録されている1983年のコンサートにも企画段階から関わっていた西脇氏に、当時の秘話を交えながら本イベントのレポートを寄せていただいた。

文:西脇博光 / 写真:Ryoma Shomura

2024.11.29

11月24日、秋葉原にあるPCオーディオショップ・オリオスペックイベントスペースにおいて1983年8月5日日比谷公会堂で演奏された『「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤』のSACDハイブレッド盤発売・ハイレゾ配信開始を記念し、演奏会当時担当ディレクター(以下、ディレクター=Dr)の藤田純二氏、今回リマスター化を担当したキング関口台スタジオのエンジニア辻裕行氏、キングレコードディレクターの松下久昭氏を迎えてのトークを聞き、多種のフォーマットで聴き比べてみようイベントが開催された。

当初一回15名限定の予定であったが申込者が予定よりも遥かに多かったので、二回に分けられて開催された。この時はまさか筆者自身がトークに加わるとは夢にも思わなかった。
最初に今回のイベント趣旨、試聴機器の説明があり個々の詳細について書くとそれだけで字数を消費してしまうので省かせてもらうが、イベントに使用した機材総額700万円(すべて国産メーカー品)との事だ。

次に83年に行われたコンサートの経緯について藤田純二さんから「伊福部先生の特撮映画音楽をフル・オーケストラ演奏で是非しましょうよと怪獣倶楽部の竹内博君や筆者から会う度に言われていて一種の洗脳とか呪いのようでした」と・・・

「ゴジラ」「SF映画の世界」LPを東宝音楽出版(現:東宝ミュージック)で、キングレコードから「ウルトラQ・ウルトラマン」LP他制作していたので、竹内博君と筆者は当時 同社Drの藤田純二さんに会うと前述の要望を言っていた。東宝音楽出版のDr大石稀哉さん、同 岩瀬政雄さんも同様の目に遭っていた。83年2月に五反田ゆうポートで伊福部先生のクラシックコンサート終了の後日、藤田さん、大石さん、東京交響楽団の寺元宏さんの三名が伊福部先生宅へ依頼に行き、コンサート開催の許諾を得ることができた。
コンサート開催は決定したものの、藤田さんは具体的に音楽構成をどうしたらいいか分からなかった為、竹内君に依頼した。すぐさま筆者が当時勤務していた信用金庫の営業部屋に竹内君から「コンサート用デモテープを作成して伊福部先生宅に届けてくれ、急げ!急ぐんだ!」とナタール人みたいな口調で電話があった。片面30分両面合わせて60分のカセットテープに筆者なりに起承転結を付けて二晩徹夜し、レポート用紙に個々の曲の作品名、曲分数、映画のどのシーンかを書いて伊福部先生宅に届けた。(音源や説明書データをパソコンで送れる時代ではなかったので。)

そして、伊福部先生の譜面探しが始まったが、探すのに寺元さんの尽力はあったものの苦労したとのこと。曲と曲をスムーズに繋げ一曲に紡がれた結果、第1番から第3番までの組曲となった。ピアノラフ・スケッチ進捗状況を竹内君、筆者が幾度となく先生宅を訪れ曲の確認作業をした。その後、コンサート会場で配布するパンフレット原稿を書き、先生に内容をチェックして頂いた後 竹内君に渡し、彼が増補改訂してくれた。

コンサート前日の8月4日、新大久保にある東京交響楽団の建物でリハーサルが行われた。
推敲に推敲を重ねギリギリまで粘られた結果 前日リハとなり、竹内君、筆者に加えて、コンサート翌日6日朝に放送されるNHKニュースの担当Drとニュースアナウンサーも同席し、竹内君がDrに曲の説明解説をしていた。念のため筆者はリハの音を録音した。 コンサート当日晴天、スタッフTシャツを身につけ日比谷公会堂正面に向かって左側の階段下で来場客誘導を任された。

坂本龍一さん、戸川純さん他有名人が来場されたらしいが全く見ておらず、従って予告編上映も平田昭彦氏、田中友幸氏、本多猪四郎氏の登壇、伊福部先生への花束贈呈も見ていない。物販の盛況さも知らなかった。階上から竹内君が演奏始まるぞと声を掛けられ、慌てて入り口扉を背に竹内君、池田憲章君、筆者の三人立ち見でコンサートを全集中の呼吸で聴き入り、来場者の熱気を背中で感じ取った指揮者汐澤安彦氏が第3番終盤の海底軍艦マーチからの地球防衛軍マーチに至るアレグロ曲を信じられない位アップテンポで指揮され、終わった後 観客の割れんばかりの拍手に感動し、筆者の真横にいた池田君は滂沱の涙を流していた。
リハーサルでは数小節毎丁寧に譜面を確認しながら演奏し、気になった箇所があると伊福部先生が汐澤さんの指揮台に行き調整したり、演奏者の所へ行って指示したりしていた。

コンサート終了後、数日経って竹内君が筆者に謝った。なにかと言うと「パンフレットの製作スタッフ記載で竹内博、筆者の順になっているが筆者を先頭にしたかったが叶わなくてごめん」だった。「そんな事は気にしないでいいよ」と。後にも先にも彼が筆者に詫びたのはこれだけであった。オーケストラによる演奏会の希望や先生の曲作りの参考デモテープを作成した労苦に応えたかったのではないかと今となってはそう思うばかりである。
SACD・ハイレゾのマスタリングを担当した辻裕行さんはこの音源を初めて聴き「余り音処理を必要以上に加えず作業しました 」とのことだった。

比較試聴に用いたフォーマットは、14:00の回の一回目はLPレコード、PCMハイレゾ。二回目CDレイヤー、SASDレイヤー、PCMハイレゾを聴き比べ、17時30分の回ではLPレコード、旧譜CD、CDレイヤー(SACD)、PCMハイレゾ、SACDレイヤー(SACD)で聴き比べ、それぞれの感想を観客に聞き耳の肥えた率直な意見に聞き入り、進行担当のオリオスペック・佐藤智将さんも忌憚ない感想に深く感銘をされていた。

筆者なりの感想はそれぞれのフォーマットは意義あるものであるものの、SACD再生された際は横の広がりではなく音の奥行きを感じた。楽器の配置がわかる感覚を持ち、しかも各楽器が主張しすぎず素直に耳に入ってきたと思ったのである。リスナーにとって自らの好みの音もあるには違いないが優劣をつけるのは困難だろう。SACDプレーヤー本体は高額商品であるが、リスナーの好みの音と環境で楽しんでもらえるのなら幸いである。因みにアンコールの一曲フル尺で聴きたい曲に選ばれたのはイベント二回とも第3番であった。

83年の演奏会はデジタル録音と保険の意味もあってアナログ録音をしたのが幸いし、アナログテープは損傷も殆どなかったが、テープの磁性体をベースにくっつけるノリが浮いてきた為に起こる“ベタツキ”が見られたので、アナログテープに50度の熱を二時間加えて定着させて、リマスター化作業に入ったと辻裕行さんは述べていた。

キングレコードの松下久昭さんは高校生時代に当該LPを購入され、本イベントを企画したキングレコードの中山良輝さんはまだ産まれていなかった。今回の試聴会企画を佐藤智将さんと中山良輝さんとの話し合いで生まれたのは意義深く、若い世代に本CDを聴いてもらいたいものである。

SACDが高音質と言えども、83年8月5日のコンサートが心に刺さり、強烈な演奏と卓越した技術によって録音されたものであったからこそ、現在でも受け継がれているものと確証するのである。


現在 キングレコードはゴジラ生誕70年伊福部昭生誕110年記念企画「キング伊福部まつり」を開催中で、松下さんの話では来年先生の誕生日5月31日に向かって様々な企画を検討しているとのこと。楽しみが増えるばかりである。

 

特撮音楽研究家 西脇博光



※こちらの集合写真のみ編集部 撮影(左から松下氏、藤田氏、西脇氏、辻氏)


【Release Information】

SACDハイブリット盤「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤も発売!
1983年8月5日、日比谷公会堂で行われた、伊福部昭ルネサンスのきっかけとなった伝説のコンサートの実況録音盤をSACDへ完全復刻。
デジタル録音の最初期でもありデジタルテープとアナログテープの両方が同時に廻されていた。今回は、アナログテープを採用してSACD用に新たにマスタリングを施している。また、アートワークは、最初に発売されたLPを完全に復刻しており、豊富なステージ写真も封入。

「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤

・SACDハイブリッド盤KIGC-37 定価:¥4,400  11月6日(水)発売
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIGC-37/
・配信はコチラ(ハイレゾ購入特典あり)

【キング伊福部まつり 絶賛開催中!】
キング伊福部まつり オリジナル特典「オリジナルチケットホルダー」もついてくる!

詳細はこちら
https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t15420/


SOUND FUJI 公式Xにてプレゼントキャンペーン実施中!応募締切は11月30日!


SOUND FUJI 公式X:https://x.com/_soundfuji

BACK TO LIST