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【伊福部昭 特集】和田薫インタビュー(特別編) 「キングレコードと伊福部音楽」~和田薫(作曲家)×松下久昭(キングレコード)インタビュー[後編]~
その第1弾リリースとして、11月に『「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤』(SACDハイブリッド)、『「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック』、『「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック』の3タイトルが発売された。
これらは令和の今、新たに興味を持ったファンにとっても、伊福部昭によるゴジラ及び東宝SF特撮映画音楽の基本を知るための”三種の神器”といっても良いだろう。
伊福部昭から教えを受けた作曲家・和田薫に伺う“伊福部先生”の素顔に迫るインタビューを前編、後編の2回に分けて公開中。
今回はさらなる(特別編)として、キングレコードの『伊福部昭の芸術』シリーズなど多くの伊福部昭作品を手がけ、「キング伊福部まつり」の仕掛け人でもある同社のプロデューサー&ディレクター松下久昭も加わったパートをお届けする。
『「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤』(SACDハイブリッド)、『「ゴジラ」 オリジナル・サウンドトラック』、『「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック』の他、お二人が関わったキングレコードの伊福部昭作品のエピソードを伺った。
進行・文:高島幹雄 / 写真:Ryoma Shomura
2025.1.30
(前編はこちら)
【『映画「ゴジラ」(1954)ライヴ・シネマ形式全曲集』(2016)】
「ゴジラ・シネマコンサート」にて和田薫によるスコア作成、再現演奏された『ゴジラ』(第1作)の伊福部音楽の全てと、同じく和田薫編曲による「SF怪獣ファンタジー」をボーナス・トラックとして収録した『映画「ゴジラ」(1954)ライヴ・シネマ形式全曲集』(2016年)のメイキングについて伺いました。
――『映画「ゴジラ」(1954)ライヴ・シネマ形式全曲集』(2016)はこのコンサートで用意したスコアを元にレコーディングしたものですね。
和田薫(以下、和田):『ゴジラ』のシネマコンサート は2回目をNHKホールでやって(2015年1月18日『生誕60周年記念 ゴジラ音楽祭』)、3回目をロームシアター京都でやったんです(2016年5月2日『ゴジラ音楽祭in京都 ~伊福部 昭 没後10年に寄せて~』)。この時に日本センチュリー交響楽団の練習場、センチュリー・オーケストラ・ハウスでセッション・レコーディングができるからそこで録ろうということになりました。
松下久昭(以下、松下):コンサートでは映画の上映中なので、制限なくマイクを使って録音ができなかったこともあって、きちんとした形で残しておこうということで、別日にセッション・レコーディングを行いました。
――シネマコンサートをライヴ・レコーディングしようとすると、シンクロしている映画の台詞などの音も入ってしまいますからね。
松下:それもありますね。
――『ゴジラ』第1作の音楽全曲をステレオで再現録音ということでも、この『映画「ゴジラ」(1954)ライヴ・シネマ形式全曲集』は画期的でしたね。
和田:でも、オリジナルのサントラ音源と違う部分もあって、まずオープニングのところは映像の尺に合わせて変えたんです。映画では冒頭にドン、ドン、ガオーというゴジラの足音や鳴き声があって、スタッフ・クレジットの伊福部先生の名前のところから音楽が始まって、中途半端なところで音楽が終わってますよね?
――確かにフェイドアウトされてますね。
和田:伊福部先生が書かれた本来のスコアでは、『ゴジラ』のタイトルが出てからクレジットの最後でちょうど音楽が終わるように作ってあったんです。でも足音などが入ったために音楽の長さが余ってしまって、ダビング(映像へ音楽などの音を重ねること)ではあのような処理になったと思います。今ならPro Tools(※音楽制作ソフト)でピッタリと終わるように編集できると思うんですが、当時は光学録音なので編集ができず、あのようになったと思います。シネマコンサート では、最後まで完奏にしてます。それと最後の海に潜った芹沢博士(平田昭彦)によるオキシジェン・デストロイヤーでゴジラが最期を迎えるシーンですね。このシーンが7分近い壮大な音楽(曲名「海底下のゴジラ」)があるのですが、映画では音楽の音量をかなり下げている部分が多いので、コンサートではフルレベルの演奏にしましたね。
松下:オリジナルとの違いもけっこうありますね。
和田:後はコンサート用に編成を大きくしちゃってます。当時の音楽では40数人だったと思うんですが、シネマコンサートではホールでの演奏効果を上げるために、70人のフルオーケストラの編成にしましたから。それも大きな違いです。
松下:『ゴジラ』のシネマコンサートも定着してきましたね。
和田:2024年の夏に東京芸術劇場でやったのが確か8回目ですからね(2024年8月11日『特別メモリアルコンサート ~『ゴジラ』シネマ・コンサートと伊福部昭の世界~』)。
――『映画「ゴジラ」(1954)ライヴ・シネマ形式全曲集』では、これまで『ゴジラ』の音楽を完全収録したCDには無かった「栄光丸船員の休息」というハーモニカの曲を録音して網羅されてるのもすごいなと思いました。
和田:伊福部先生がスコアを書かれた音楽は全て生演奏でやろうということで、栄光丸の船員たちのハーモニカの曲も演奏しました。東京湾の遊覧船でのハワイアンなど、伊福部先生の曲ではない曲は生演奏の対象外ですね。この「栄光丸船員の休息」は実はすごく重要で、芹沢博士が恵美子(川内桃子)にオキシジェン・デストロイヤーの告白をするシーンでのあのチェロのメロディーは、ハーモニカと同じなんです。
松下:ああ、そうか!
和田:伊福部先生はそういう部分でもきちんと音楽構成をしていたんです。このハーモニカの曲は映画では20秒くらいで消えてますし、シネマコンサートでもそのくらいしか出番が無かったのですが、この曲は全曲版(フルサイズ)があって、告白シーンのチェロのメロディーもそこにあるんです。セッション・レコーディングでは伊福部先生のスコア通りに約1分半の全曲版を録音しました。このライヴ・シネマ形式全曲集が聴ける唯一のCDなんです。
松下:シネマコンサートのCD即売では、今でもこれがいちばん売れますね。
――コンサート会場では「今日演奏した曲が入っているCDはどれか」とたずねる方が少なくないですし。
松下:幸いなことに、(ジャンル的に)今もモノとして欲しい方が多いですね。手に入れたい音楽なんです。
【『「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック』『「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック』】
「キング伊福部まつり」 を機に2014年にリリースされたアナログ・レコードが、この商品としては初CD化となった『「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック』『「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック』について、エピソード、制作コンセプトを伺いました。
――こちらの2タイトルは2014年にアナログ・レコードで発売したもののCD化ですが、まずレコードを発売した時の話をお伺いしたいと思います。
松下:この2作品をレコードで発売したのがもう10年前ですね。当時、東宝ミュージック社長の岩瀬政雄さんから、『ゴジラ』や『キングコング対ゴジラ』のマスターテープ(磁気テープ)があるので、発売しませんかといったお話をいただいたのがきっかけです。磁気テープをパラで回して録ってあった(この場合のパラとは、東宝映画は正と副の2本のテープを録音してあったこと)ので、テープの状態は良いのではないかと思ったのと、出すならばCDではなく、アナログで、LPレコードにしようと考えたんです。『キングコング対ゴジラ』は当時としては珍しくステレオで録音されたテープでした。他社で発売されたこの映画の完全収録CDはモノラル録音のマスターテープを使ったものが多いので、是非、ウチでこのステレオ録音版を出したいと思いました。磁気テープをスタジオで丁寧にチューニングをして、製造マスターを作っていきましたね。LPレコードにしたのは、『ゴジラ』も『キングコング対ゴジラ』も公開当時には、サントラLP盤が発売されていなかったので、バーチャルと言いますか、もしもこの当時にサントラLP盤があったらという発想で作りました。ジャケットに使ったのは『ゴジラ』は映画には無い場面ですが、当時の宣伝用に作られた絵柄を使いました。LPレコードはおかげさまで2014年発売分は完売しました。
――東宝レコードの『日本の映画音楽 伊福部昭の世界』(1977)や『ゴジラ オリジナル・サウンドトラック』(1978)に収録された曲しか聴けなかった1979年に、新宿の小田急百貨店で『大ゴジラ博』という催事があって、そこに最初の『ゴジラ』の音楽マスターテープが展示されていたんです。この中味を全部聴きたいって思いながら見てました。その頃の感覚からすると、この『ゴジラ オリジナル・サウンドトラック』は夢のまた夢のようなアルバムです。
【キング伊福部まつり】
昨年秋から展開している「キング伊福部まつり」と、松下氏が思う今後の構想などを伺いました。
――この度の「キング伊福部まつり」は、このネーミングも松下さんの発案だそうですね。
松下:子供の頃に観に行っていた『東宝チャンピオンまつり』へのオマージュなんです。それと弊社では他の部門でもキング・スーパー・ライブやキング〇〇など社名をつけた展開があるので、それにあやかって、全社を挙げて盛り上げることができればと思って、このタイトルにしました。このタイトルによって、僕が1995年から始めた『伊福部 昭の芸術』よりも以前からキングレコードは伊福部先生と関係が深かったということを知ってほしかった。新録音も考えていますが、弊社には過去の良い音源が豊富にあるので、それをもう一度、皆さんに知って頂くのも意義があると思いました。そこで第1弾リリースとしては『伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ 実況録音盤』のSACDハイブリッドと、『ゴジラ オリジナル・サウンドトラック』『キングコング対ゴジラ オリジナル・サウンドトラック』 のCD化にしました。「キング伊福部まつり」は期間を2025年5月31日まで、伊福部先生の生誕111周年までやることにしていますので、5月には盛り上げたいと思います。その時は和田さんにもご協力をお願いできればと思っています。
――和田さん、いかがですか?
和田:何かお手伝いできることがあれば良いですけど。
松下:思い出したのですが、ゴジラや伊福部先生の音楽は子供も喜ぶというのを何人かの方から伺ったことがあります。自分が子供の頃は、テレビで『東宝チャンピオンまつり』のCMをやっていて、そこで伊福部先生のマーチが流れてくると映画館に行きたくなったりしましたからね。それで『こどものためのいふくべあきら』というようなCDを作ろうかなと思っています。
――それは面白そうですね!確かに子供の頃にテレビで放映されたゴジラ映画を観ていても印象に残る音楽がありました。
松下:子供に聴かせる伊福部先生の音楽をまとめたものですね。子供がすぐに覚えられるメロディーなので、歌ったり踊ったりする子供もいるそうなんです。なので、子供のための伊福部先生のCDを作りたいですね。
――実現したら良いと思います。序でみたいですみません、SACDハイブリッド版『「伊福部昭 SF特撮映画音楽の夕べ」 実況録音盤』を見て思ったのですが……井上誠さんと上野耕路さんがプロデュースして、伊福部先生のスコアをもとにレコーディングしたという『東宝特撮未使用フィルム大全集サウンドトラック オスティナート』(1986)をSACDハイブリッド化して頂くのも良いかなと思ったりしました。「SF交響ファンタジー」に組み込まれていない曲もここに多数あるんです。
【ビギナーのための伊福部昭入門】
――昨今の『シン・ゴジラ』『ゴジラ −1.0』にも伊福部先生のメロディーが使われて、大ヒット映画ですから、コア・ユーザーだけでなく、ここから『ゴジラ』や伊福部音楽に関心を持った方もたくさんいるはずです。ビギナーの方に向けて、伊福部音楽の入門的な言葉を頂ければと思いますがいかがでしょうか?
和田:『ゴジラ』と『キングコング対ゴジラ』のアルバム、それに『「伊福部昭 SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤』は、これぞ原点という感じですね。伊福部先生の映像音楽の様々なコンセプトがある中で、『ゴジラ』(第1作)は象徴的な作品ですし、インタビュー(和田薫インタビュー後編 )でもお話ししたドラマトゥルギーの効果をいちばん端的に狙っている作品でもあるんですね。また、リズムや低音に焦点を当てて映像を盛り上げていくという日本の特撮映画音楽の独自のスタイルを作った音楽でもあるので、まずここから観て聴いて頂いて、『シン・ゴジラ』や『ゴジラ −1.0』に至るトータルな歴史も知って頂きたいですね。
松下:そういう意味でも、この3タイトルをまずは聴いて頂ければと思います。
――本日はありがとうございました!「キング伊福部まつり」の今後の展開も楽しみにしています。
【Release Information】
『ゴジラ』と『キングコング対ゴジラ』のオリジナル・サウンドトラックがLP再発売&初CD化
2014年に、当時、東宝ミュージック社長岩瀬政雄氏が管理していたマスターテープを基のテープの音に近い状態で丁寧にリマスタリングしたものでLPとして発売した。今回はそのマスターテープを使用してのLP再発売と初めてのCDの発売となる。
「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック
・LP(KIJS-90043) 定価:¥5,500(税込) 発売中
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIJS-90043/
・CD(KICS-4171) 定価:¥3,300(税込) 発売中
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4171/
・配信はコチラ
「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック
・LP(KIJS-90044) 定価:¥5,500(税込) 発売中
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIJS-90044/
・CD(KICS-4172) 定価:¥3,300(税込) 発売中
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4172/
・配信はコチラ
SACDハイブリット盤「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤も発売!
1983年8月5日、日比谷公会堂で行われた、伊福部昭ルネサンスのきっかけとなった伝説のコンサートの実況録音盤をSACDへ完全復刻。
デジタル録音の最初期でもありデジタルテープとアナログテープの両方が同時に廻されていた。今回は、アナログテープを採用してSACD用に新たにマスタリングを施している。また、アートワークは、最初に発売されたLPを完全に復刻しており、豊富なステージ写真も封入。
「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤
・SACDハイブリッド盤KIGC-37 定価:¥4,400 発売中
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIGC-37/
・配信はコチラ
【伊福部昭 特集】
寄稿『私と伊福部音楽』/
岩瀬政雄 インタビュー(前編)/(後編)
和田薫 インタビュー(前編)/(後編)
『キングレコードと伊福部音楽』(前編)/(後編)
『「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤』トーク&リスニングイベント