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SOUND FUJI×柴崎祐二『 Unpacking the Past vol.1』”J-FUSION” part1 対談 ゲスト:トリプルファイヤー鳥居真道

音楽評論家の柴崎祐二氏と共に過去の音源を探求し、日本の音楽の奥深さと魅力に迫っていく連載『Unpacking the Past』
記念すべき第一回目のテーマは"J-FUSION"

長きに渡り続くシティポップの盛り上がりの次に、国内外で再評価の兆しが高まる日本のフュージョン。
70年代後半、当時最先端のサウンドを世に送り出していた、
エレクトリック・バードレーベルの音源を中心にフュージョンにまつわる対談を実施。

文・構成:柴崎祐二 / 写真:松永樹  / アートワーク:清水真実

2024.8.29


ピックアップされた楽曲のプレイリストと共にお楽しみください

Unpacking the Past vol.1:ELECTRIC BIRD
Unpacking the Past vol.1:Another side

記念すべき「Unpacking the Past」第一回目J-FUSION編の対談には、先ごろ7年ぶりのニューアルバム『EXTRA』をリリースしたバンド=トリプルファイヤーから、作曲/ギター担当の鳥居真道をお招きした。
かつては「高田馬場のジョイ・ディビジョン」の異名を取ったトリプルファイヤーだが、近年は鳥居の采配の元に音楽性を大きく変化させ、ファンクやアフロビートなどへ接近、多くのファンを驚かせている。
また、新旧ポップミュージックについての評論活動を行っていることでも知られる鳥居は、ここ最近では『レコード・コレクターズ』誌2024年5月号特集「フュージョンベスト100 洋楽編」および6月号の同邦楽編でも健筆を振るうなど、フュージョン全般についての見識も深い。
エレクトリック・バードレーベルに残された数ある邦人アーティスト作品について、様々な視点から語り合った。

柴崎:まずは、エレクトリック・バードのカタログに限らず、どうやってフュージョンというジャンルに出会ったかを話しましょうか。僕は1983年生まれ、鳥居さんは1987年の生まれなので、当然ながらフュージョンの全盛期である1980年前後はリアルタイムに経験していなくて、ふたりとも後々その魅力に開眼した世代なんですよね。

鳥居:そうですね。本当にギリギリでフュージョンブームの残り香を嗅ぎながら幼少期を過ごしていた感じですね。一番印象に残っているのは、フジテレビの『F1グランプリ』(1987年-1998年放送)のテーマ曲だったT-SQUAREの「TRUTH」

柴崎:あれはもう、僕らの世代にとっては刷り込みみたいなところがありますよね。ある時期まで日本のフュージョンっていうと自動的にF1の映像が脳内で再生されてました。あとはやっぱり、スーパーマーケットとかホームセンターのBGMの印象が強い……(笑)。

鳥居:それと、ニュース番組のオープニングとか天気予報のBGMとか(笑)。

柴崎:そうそう。包み隠さずにいえば、当時のティーンエイジャーの感覚だと、日本産であるかどうか関係なく、フュージョンって「ダサい」音楽の象徴みたいなところがあって。今思えば、完全に仮想敵として考えてました。

鳥居:そうですね。オルタナロックとかパンクと出会ったばっかりの頃の感覚からすると、あまりにも自分の日常に密着しすぎていて、そもそも「鑑賞」の対象として考えたことすらなかったんですよね。

柴崎:大体2000年前後がそういう「フュージョン冷遇」的な空気のピークだった気がします。でも、それが音楽シーン全体の雰囲気的にも個人の好み的にも、徐々に変わっていって……。

鳥居:そうですね。僕の場合、最初はやっぱりヒップホップの元ネタとかレアグルーヴ的な解釈で関心を抱くようになった感じです。ハープ・アルバートの『ライズ』(1979年)っていうアルバムのタイトル曲が、ノトーリアスB.I.G.の「ヒプノタイズ」(1997年)でサンプリングされているのを知って、フュージョンの曲がネタになるんだ、と驚いたんです。リフとかビートとか、部分部分で聴いたらめちゃくちゃカッコいいところがあるじゃんと思って。

柴崎:本来フュージョンの命であるはずの巧みなソロとかじゃなくて……(笑)。それって「邪道」かもしれないけど、レアグルーヴ以降の聴き方としてはもはやそっちが主流でしたからね。

   柴崎祐二

鳥居:そう。あとは、AORの良さを理解できるようになったので、それと不可分の存在であるフュージョンが偏見なく聴けるようになったっていうのもあるかもしれません。

柴崎:僕の場合も、明確な転換のポイントがあって。多分2000年頃に、エレクトリック・マイルスとかジャズファンクからの流れでハービー・ハンコックの『ヘッド・ハンターズ』(1973年)を初めて聴いて、恐ろしくカッコいいじゃん!と感動したのがきっかけですね。作曲もリズムアレンジも、リフもハーモニーも、音色も、それこそ各奏者のソロも最高。そこからウェザーリポート一派を聴き始めて。気付いたら苦手意識もだいぶ薄まっていました。正確にいうと、フュージョンと名付けられる以前の「クロスオーバー」という音楽にハマって、そこからデジタル色の強い1980年代産のフュージョンも次第に聴けるようになったという流れで。

鳥居:ジャズファンクからのルートは重要ですね。僕もチャック・レイニーとかバーナード・パーディが演奏に参加しているレコードを聴いていた流れで、気づいたらクロスオーバー期のドナルド・バードを聴いていたりとか。

柴崎:日本のフュージョンへの入口になったのは?

鳥居:僕は完全にはっぴいえんど中心史観なので(笑)、やっぱりティン・パン・アレー周辺や、坂本龍一さんのカクトウギセッションや、渡辺香津美さんのKYLYNあたりから入っていきました。あとは、山下達郎さんのバックのメンバーを調べていくと、みんな割とフュージョンに近いところにいるじゃないですか。六本木ピットインっていう聖地があったんだ、みたいなことも分かってきて。

柴崎:自分も似たような感じかもしれないです。ティン・パン・アレーの1st『キャラメル・ママ』(1975年)に入っている「チョッパーズ・ブギ」を聴いて、これってもしかしてフュージョンとして聴くべきなのかな?と思った記憶があります(笑)。あとは、サディスティックスの存在も大きかったですね。そこから高中正義さんのソロを聴くようになったので。そういう体験を経て、だいぶ後になって「YMOのファースト(1978年)もジャパニーズフュージョンの亜種として聴けるよなあ」と気付いたり……。

鳥居:YMOのファーストはメンバー自身がフュージョンとして売り出されるのを嫌っていたっていうエピソードが頭にあったので、僕も当初は「これをフュージョンとして聴いちゃいけないんだ」と自分にバイアスをかけてましたけど(笑)、特にミックス違いのUS盤にはフュージョン的なカラーが滲んでますよね。

鳥居真道

柴崎:ということで、ようやくエレクトリック・バードの話に移れるところまで来ました(笑)。鳥居さんのエレクトリック・バードとの出会いは?

鳥居:割と最近なんです。日本のフュージョンの曲をまとめたプレイリストをなんとなく聴いている中で、増尾好秋さんの曲だったり、本多俊之さんの曲だったり、「あ、これもエレクトリック・バードだったんだ」と気付いていった感じですね。

柴崎:僕は、今から10年位前に、当時A&Rを担当していたOGRE YOU ASSHOLEが、「RECORD YOU ASSHOLE」っていう自分たちの好きなレコードを紹介する配信番組をやっていて、そこで森園勝敏さんの『バッド・アニマ』(1978年)に収録されている「スペース・トラヴェラー」を聴いたのがきかっけですね。「なんだこの浮遊感に満ちたクールな曲は!」と完全に心を掴まれてしまって。ジェイムズ・ヴィンセントのオリジナル録音が元々好きだったのも大きかったんだけど、森園さんのバージョンには、アンビエント的とすら言える静謐なメロウネスを感じたんです。それですぐに再発CDを買って。ブライアン・オーガーとかブッカー・T&ザ・MG’sのカバーをやっていたり、選曲もアレンジも素晴らしくてめちゃくちゃハマりました。

鳥居:森園さんの抑え気味のヴォーカルもいいですよね。

柴崎:そうそう。正直、和フュージョンの名盤っていうよりも、不思議な浮遊感のあるサイケデリックな音楽として聴いてました。これもまた、「フュージョンを非フュージョン的な耳で聴く」という「邪道」ではあるんだけど……(笑)。鳥居さんが「私的エレクトリック・バード名盤」を選ぶとしたら何ですか?

鳥居:『レコード・コレクターズ』誌2024年6月号の「フュージョン ベスト100 邦楽編」でも選んだんですが、大野俊三さんの『アンターレス』(1980年)が特に好きですね。日本のフュージョンならではの魅力ってなんなんだろうなと考えた時にパッと頭に思い浮かぶのが、ツルツルしていてスムーズな質感なんです。その点、このアルバムは理想的な耳触りを持っているんです。ジャケット通り、空間的な広がりがあってスペーシーな感じもありますし。マーカス・ミラーはじめ、参加メンバーも本当に豪華で。

柴崎:ケニー・カークランドの鍵盤もすごく色彩豊かですよね。以前、クニモンド瀧口さんが金澤寿和さんとの対談で、大野さんの前作『クォーター・ムーン』(1979年)についてロニー・リストン・スミス的に聴けるとおっしゃってましたけど、言いえて妙だなと思いました。

鳥居:たしかに、DJ的な目線で言うとアフロコズミック風の魅力もありますよね。

柴崎:そう考えると、森園さんにしても、大野さんにしても、エレクトリック・バードのカタログの特徴として、過剰にポップ過ぎないっていうのを挙げられるかもしれませんね。THE SQUAREとかカシオペア的な徹底したキャッチーさと比較すると、少しドープっていうか。

鳥居:必ずしもハイファイさや派手なポップさを第一優先にしているわけではない感じがしますよね。アメリカ西海岸の明るさに対する、東海岸の陰りの美学と言うか。そういう意味でいうと、やっぱりデヴィッド・マシューズのキーマンぶりが目立ちます。

柴崎:自分のリーダー作を含めて、大量のエレクトリック・バード作品に参加していますからね。彼のセンスこそがエレクトリック・バードのイメージの重要な部分を形作っていた、とも言えそうです。

鳥居:マシューズの初参加作品である益田幹夫さんの『コラソン』(1978年)も、あくまで抑制的で、スモールコンボの枠組みを決して邪魔しないコンパクトな渋さがあって自分好みです。あえて言うなら、インディーズ的な感覚が滲んでいるような気さえして。そこが今っぽさに繋がっているのかもしれません。

柴崎:なんといっても、元々ジェームス・ブラウン関連作のアレンジをやっていた人ですもんね。もちろん、CTI関連の洗練されたスコア仕事も素晴らしい。

鳥居:硬軟両方に精通している。その両面性がエレクトリック・バードのカラーに合致している気がします。

柴崎:コア寄りの層に受けるっていう話でいうと、エレクトリック・バードのレコードって、当時盛り上がっていたイギリスのクラブカルチャーである「ジャスダンス」のシーンでも人気があったんですよね。当時のDJチャートを見ると、同時期の他の日本産フュージョン作品に混じって、例えば、本多俊之さんの『バーニング・ウェイヴ』(1978年)のタイトル曲とか、同じく本多さんの「ココナッツクラッシュ!」(1981年作『ブーメラン』収録)、益田幹夫さんの「シルヴァーシャドウ」、「マイ・ディライト」(1980年作『シルヴァーシャドウ』収録)、上田力ウィズ・ニュー・バードの「Qué Lastima」(1981年作『ハートランド』収録)等がプレイされていたことがわかるんです。

鳥居:へえ、そうだったんですね。面白い。

柴崎:中でも特に熱く支持されていたのが沢井原兒&ベーコン・エッグの『スキップジャック』(1981年)だそうです。このアルバムの人気ぶりについては、柳樂光隆さんによるジャイルス・ピーターソンへのインタビューでも触れられていましたね。https://rollingstonejapan.com/articles/detail/35733/9/1/1

鳥居:確かに、かなりファンク色が強くて踊れる内容ですもんね。

柴崎:当時の日本のフュージョンファンがプレイヤー志向の強い受容の仕方だったのとは対象的ですね。まず、いかに踊れるかで判断するっていう。

鳥居:ここ最近のフュージョン再評価もそういう視点が流れ込んでいる気がします。

柴崎:そうそう。YouTubeとかネットを介した再評価とはいえ、基本的には、パッと聞いた時に身体が揺れるようなグルーヴが刻まれているかどうかというのが一番大きいと思います。一方で、鳥居さんは自身もギタリストであるわけだし、当然プレイヤー目線からの評価軸もありますよね?

鳥居:みなさん上手すぎるので自分の演奏の参考にする感じではないですが……(笑)。とはいえ、それぞれのプレイの個性に注目しながら聴くのはやっぱり面白いですね。

柴崎:一般的に、エレクトリック・バードの代表アーティストといえば増尾好秋さんの名前が最初に挙がると思うんですが、プレイについてはどう思いますか?

鳥居:当たり前すぎることをあえて言うなら、ジャズという音楽を完全に内面化している人だなあ、と思います。この時代の日本のフュージョン系ギタリストの人たちって、ジェフ・ベック以降というか、割とロックっぽいニュアンスが軸にある場合が多い気がするんですが、増尾さんの場合、リズムやフレーズがどんなにフュージョンっぽくなろうとも、ちゃんと歴史的なイディオムが肉体化されているというか、まさに「ジャズギターの発展型」という印象です。

柴崎:トーンも比較的まろやかですしね。

鳥居:そうそう。音のまろやかさが可愛らしい曲調ともすごくマッチしていて。人気度でいえば『グッド・モーニング』(1979年)がこの時代の代表作になると思うんですが、個人的には、エレクトリック・バード第一弾作の『セイリング・ワンダー』(1978年)を推したいです。あの爽やかさと小回りの効く感じは他にない魅力だと思います。

柴崎:森園勝敏さんはどうですか?かなりタイプの異なるギタリストだと思うんですが。

鳥居:やっぱり、四人囃子のメンバーっていうこともあって、プログレ的なカッコよさがありますね。かといって、ただ弾き倒すタイプとも違っていて、自分の中ではデヴィッド・ギルモアの存在にも近いものを感じます。

柴崎:アルバムでいうと何が好きですか?

鳥居:森園勝敏ウィズ・バーズ・アイ・ヴュー名義の『スピリッツ』(1981年)かな。冒頭の「ギヴ・イット・アップ・ラヴ」からして80’sロック感全開で、初めて聴いたときにはかなり驚きました。

柴崎:このアルバムの曲はバラエティに富んでいてとてもいいですよね。僕は「イマジェリィ」っていう曲を是非推したいです。カリンバの入ったミニマルなエレクトロニック曲で、ほとんどテクノ。めちゃくちゃカッコいい。

鳥居:この時代のフュージョンのアルバムって、さりげなくこういうオーパーツ的な曲が収録されていることが結構ある印象です。

柴崎:そう。「邪道」側の人間からすると、そういうのにこそ反応してしまう(笑)。やっぱりフュージョンって、ジャンル名に象徴されている通り、本当に多様な要素を飲み込んで融合してしまう懐の深さがあるんですよね。

鳥居:本多俊之さんや益田幹夫さんの作品に顕著ですが、ラテン〜ブラジル的な要素もどんどん取り入れていきますもんね。音色の面でも、目新しい楽器を積極的に使っているのがわかりますし。

柴崎:当時の電子楽器の飛躍的な発展と並走したジャンルだったっていうのも大きいでしょうね。しかも、その電子楽器開発の最先端を走っていたのが日本の楽器メーカーだったわけで、新製品がバンバン使えたっていう環境的なアドバンテージもあった。このあたり、金澤寿和さんが件の『レココレ』6月号で詳しく論じられていました。

鳥居:森園さんの1982年作『ジャスト・ナウ・アンド・ゼン』とかは、ほとんどテクノポップみたいなアレンジの曲も入っていますよね。

柴崎:そういう視点でいうと、沢井原兒さんの『Yellow』(1982年)も素晴らしい。特に「ANTI BE-BOP」っていうラスト曲がヤバくて、ふんわりした鍵盤から始まって、途中からエレクトロニック色の強いレゲエに移行するという異色ぶりです。

鳥居:まさに、シンセサイザーと生演奏の楽器でレイヤーを作っていく手法は、この時代のフュージョンならではの面白さだと思います。

柴崎:一方で、電子楽器をの積極的な投入って、楽器演奏を前提にしたフュージョンというジャンルの自己否定とも表裏一体なんですよね。その辺りの微妙なバランスというか、独特の綱渡り感がスリルに繋がっている部分もあるんじゃないかな、と。

鳥居:それはあると思います。MIDIを駆使するはするけど、シーケンサーとかはあまり使わないで、通常のエレピと同じように超絶テクで手弾きしたりとか。

柴崎:そういう意味で極北的存在とも言えそうなのが、カシオペアの鍵盤奏者・向谷実さんのソロ作『ミノルランド』(1985年)。これはもはやコンボ形式ですらなくて、一人多重録音なんですよ。

鳥居:ザ・デジタル!っていうサウンドですよね。

柴崎:DX-7等のデジタルシンセサイザーはもちろん、ドラムマシーン、果てはサンプラーまで使っているという。雑多なSEを交えたアート・オブ・ノイズ的音像なのに、ヴァーチュオーゾ的な見せ場だらけっていう摩訶不思議な内容で……僕みたいな「邪道」主義者からすると端的に言って最高。これもオーパーツ的な一枚だと思います。

鳥居:「脱フュージョン」感っていうことでいうと、清水靖晃さんも象徴的な存在ですよね。個人的に、後の『案山子』(1982年)とかマライアの『うたかたの日々』(1983年)のオブスキュア目線からの世界的な再評価にはちょっと乗り切れないところがあるんですが、それでも、二作目のリーダー作『ベルリン』(1980年)の異色感には否応なく耳を奪わるものがあります。

柴崎:ほとんどレコメン系といってもいいような前衛的な世界ですよね。かといって同時期のマライアのプログレ感とも少し違って、もっと抽象的でクラシカル。後にバッハの曲に取り組む兆しが既に見えている気がします。こんな尖った作品も出していたっていうのが、エレクトリック・バードの奥の深さですね。

鳥居:その一方で、歌ものの作品も結構出していたり。今回の対談にあたって配信で聴ける歌もののカタログをいくつか聴いたんですが、新鮮な驚きがありました。

柴崎:加納洋さんのEP『Manhattan Island』(1987年)とか、水原明子さんの『Love Message』(1982年)とか、まだ一部のマニアにしか知られていない感じがします。このあたりはシティポップ的な感覚で聴いてもかなり面白い。それ以外にも、後日掲載のコラムで触れる予定の、ニューエイジ的なものだったり、エキゾ的なものだったり、主要アーティストが離れていくのと入れ替わるように、1980年代後半以降はいい意味で雑多なリリースも増えていくんですよ。

鳥居:歴史あるレーベルならではの試行錯誤があったわけですね。

柴崎:そうなんでしょうね。今日は和モノ中心のテーマなのでほとんど触れられていないけれど、デヴィッド・マシューズをキーマンとして海外アーティスト作品の原盤制作も継続的にやっていたり、繰り返しになりますけど、やっぱりレーベルカラーの奥底に骨太のジャズスピリットが生き続けているのを感じます。


-Pickup Review-

●Selected by 柴崎 祐二

HANG RAIJI ‎/ HANG RAIJI  (ELECTRIC BIRD / 1983年)

ジャズドラム界のレジェンド、ジョージ川口の息子川口雷二(Dr.)率いるバンド、ハング・ライジの1983年作。新世代ならではの若々しい演奏センスが眩しく、オハイオ・プレイヤーズ風の「DANCE」や、「CREDIT MAN」など、ファンク系の曲が特に魅力的だ。その一方で、ムーディーなスロウ「Night Flight」では極上のメロウネスを聴かせるというバランスの良さ。白眉は、ラスト曲「Drop You Off」。軽やかなファンキーレゲエとして幕開けするが、プログレッシブな演奏を経た後、ガムラン風のミニマルな展開へと流れ着く。バレアリック視点でもバッチリの隠れ名曲だ。

RIGHT STAFF / RIGHT STAFF  (ELECTRIC BIRD / 1985年)

宮野弘紀(G.)、野力奏一(Key.)、高橋千治(key.)、藤田明夫(Sax)、渡辺建(B.)、中村秀樹(Ds.)、三沢またろう(perc.)という面々が集ったプロジェクトバンドによる1985年作。「フュージョンのさらなるポップス化」という時代の趨勢に共鳴しつつも、各プレイヤーの矜持みなぎる職人芸的な演奏が聴ける。この抑制されたみずみずしさ、透明感は他ではなかなか味わえない類のもの。チャリート(Vo.)参加の歌もの「Endless Summer Night」や「MILD STUFF」は、DJ歓喜のキラー曲。aestheticなジャケットアートワークも素敵。

DJ NOTOYA / Funk Tide:Tokyo Jazz​-​Funk From Electric Bird 1978​-​87  (Wewantsounds/2024年)

今年3月にフランスのリイシューレーベル「Wewantsounds」からリリースされたばかりの最新コンピレーションアルバム。ジャパニーズブギー発掘の先駆者にして和モノマスターであるDJ Notoyaが選曲を担当しており、大野俊三や益田幹夫、清水靖晃、本多俊之、森園勝敏らのエレクトリックバード音源へ、現代のダンスミュージックの視点から新たな光を当てている。その選曲センスは流石の一言で、新世代リスナーの入門編にもピッタリだ。ロニー・フォスターやボビー・ライル・トリオなど、海外アーティスト楽曲を混ぜ込んでいるのも心憎い。


●Selected by 鳥居 真道

大野俊三 / クォーター・ムーン(ELECTRIC BIRD / 1979年)

1974年にアート・ブレイキーから誘いを受けてニューヨークへと渡ったトランペット奏者、大野俊三の3作目のリーダー作で、エレクトリック・バードでの第一作。NYで録音が行われ、ケニー・カークランドやマーカス・ミラー、T.M.スティーヴンスといった一流ミュージシャンが参加している。ストレートなファンクの「ファット・バック」は、ヴルフペックのファンに刺さるに違いない。「ジェフ」は、サウンドからしてクロスオーバー期のジェフ・ベックに捧げられたものだろう。大野はワウをかけた電化トランペットでディープなソロを披露している。ディープなブラジリアン・フュージョン調の「夜明け」はドロドロしたジャムが聴きものだ。

益田幹夫 / コラソン  (ELECTRIC BIRD / 1979年)

ミッキーの愛称で知られるジャズピアニスト、益田幹夫のエレクトリック・バード移籍後第一弾となったアルバム。録音はニューヨークで行われた。CTI/KUDUのアレンジャーとして活躍したデイヴィッド・マシューズがアレンジで参加している。そして、リズム隊はバーナード・パーディとアンソニー・ジャクソンというブラック・ミュージック愛好家を笑顔にするコンビだ。タイトルトラックはキャロル・キングのブーガルー調の楽曲のカバーだ。「ビフォー・ザ・レイン」はリー・オスカーのカバー。「サンバ・エム・プライア」は渡辺貞夫のカバー。渋いジャズ・ファンクの「レッツ・ゲット・トゥゲザー」のような自作曲も素晴らしい。

増尾秋好 / セイリング・ワンダー  (ELECTRIC BIRD / 1978年)

渡辺貞夫グループに参加したのち、1971年に渡米した在籍したジャズギタリスト、増尾好秋の4作目。エレクトリック・バードが第一弾アーティストとして専属契約したのが増尾だった。『セイリング・ワンダー』はレーベルにとっても一発目の作品にあたる。トロピカルなムードが全編にわたり漂っているが、レコーディングが行われたのはニューヨークだ。リチャード・ティー、エリック・ゲイル、スティーヴ・ガッドなど”スタッフ”の面々やデイヴ・グルーシンがバックを固めており、レーベルの気合の入りようが窺える。「豪風(ロリンズに捧ぐ)」は、タイトルのとおり、かつて増尾がそのグループに参加していたソニー・ロリンズに捧げられたものだ。ドロドロのフュージョン・サウンドが展開される。

■プロフィール

柴崎祐二(しばさきゆうじ)
1983年、埼玉県生まれ。評論家/音楽ディレクター。2006年よりレコード業界にてプロモーションや制作に携わり、多くのアーティストのA&Rを務める。単著に『ポップミュージックはリバイバルをくりかえす 「最文脈化」の音楽受容史』(イースト・プレス 2023年)、『ミュージック・ゴーズ・オン~最新音楽生活考』(ミュージック・マガジン、2021年)、編著書に『シティポップとは何か』(河出書房新社、2022年)等がある。

鳥居真道(とりいまさみち)
バンド「トリプルファイヤー」のギタリスト。 1987年6月16日生まれ、愛知県出身。 バンドでは楽曲の殆どの作編曲を手がける。 他アーティストのレコーディング・ライブへの参加および楽曲提供、文筆業、選曲家としての活動もおこなっている。

ARTIST

  • 増尾好秋

    YOSHIAKI MASUO

  • 増尾好秋 ウィズ・ヤン・ハマー

    YOSHIAKI MASUO WITH JAN HAMMER

  • 本多俊之

    TOSHIYUKI HONDA

  • 本多俊之&バーニング・ウェイヴ

    TOSHIYUKI HONDA & BURNING WAVES

  • 森園勝敏

    KATUTOSHI MORIZONO

  • 森園勝敏ウィズ・バーズ・アイ・ヴュー

    KATSUTOSHI MORIZONO WITH BIRD’S EYE VIEW

  • 大野俊三

    SHUNZO OHNO

  • 益田幹夫

    MIKIO MASUDA

  • 上田力ウィズ・ニュー・ハード

    CHIKARA UEDA WITH NEW HERD

  • 沢井原兒とベーコンエッグ

    Genji Sawai & Bacon Egg

  • 向谷実

    MINORU MUKAIYA

  • 清水靖晃

    YASUAKI SHIMIZU

  • マライア

    MARIAH

  • Yo Kano

    YO KANO

  • 水原明子

    AKIKO MIZUHARA

  • HANG RAIJI

    HANG RAIJI

  • RIGHT STAFF

    RIGHT STAFF

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