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Little Black Dressが選ぶAVANTGARDE(アヴァンギャルド)な名曲たち【前編】
高校3年の春に上京し、奈良県春日大社で開催された音楽フェスティバル『MISIA CANDLE NIGHT』のオープニングアクトを務めたことが、デビューへの足掛かりとなり、彼女のライブを見ていたグラフィックデザイナーの故・信藤三雄氏が、インスピレーションでつけたアーティスト名がLittle Black Dressだという。
そんな異色の経歴を持つLittle Black DressがSOUND FUJIに初登場!
今回は、7月23日に発売された移籍第一弾アルバム『AVANTGARDE』にちなみ、“Little Black Dressが選ぶAVANTGARDE(アヴァンギャルド)な名曲たち”と題し、昭和の楽曲をこよなく愛する彼女に8曲のアヴァンギャルドな楽曲を選んでいただいた。1998年生まれの彼女が、昭和の楽曲についてどのような視点で語ってくれるのか。とても興味深いインタビューとなった。
進行・文:長井英治 / 写真:Ryoma Shomura
2025.8.1
――遼さん(Little Black Dress)は、昭和の楽曲から多大なる影響を受けているそうですが、そういった楽曲を聴くようになったきっかけはなんでしょうか。
Little Black Dress:両親や祖母の車の中でいつも音楽が流れていたので、その影響が大きいと思います。フォーク、GS、ニューミュージックが多かったのですが、両親が竹内まりやさんが好きなので、私も好んで聴くようになりました。竹内まりやさん「返信」、久保田早紀さん「異邦人」、槇原敬之さん「Hungry Spider」や中島みゆきさんなど、マイナーコードの曲が好きなようです。Little Black Dressのダークな世界観は、これまでに聴いてきた曲から影響を受けていると思います。
――Little Black Dressのメロディーには、ふとしたフレーズに昭和歌謡のエッセンスを感じることがあります。
Little Black Dress:自然に自分の中に沁み込んでいるのかもしれません。昭和歌謡は歌い手がいて、プロの作家と編曲家がいて、ひとつの世界観を作り上げるチーム感やスピード感のようなものに憧れを感じますし、今の音楽制作にはない部分が最大の魅力だと思います。
――お気に入りのシンガーを教えていただけますか。
Little Black Dress:アイドルでは、山口百恵さん、中森明菜さん、シンガー・ソングライターでは、中島みゆきさん、竹内まりやさん、シンガーでは、ちあきなおみさんです。ビジュアル面やカリスマ性で言うと、沢田研二さんから影響を受けています。
――今回、“Little Black Dressが選ぶAVANTGARDEな名曲たち”ということで、8曲のアヴァンギャルドな楽曲を選んでいただきました。
Little Black Dress:「アヴァンギャルド」というタイトルを自分がつけてしまったばかりに、すごく壮大なものになってしまいました(笑)。ただ好きな曲を選んでくださいというお題だったらまた違った選曲になったと思います。私自身がポップスというジャンルを目指して音楽をやっているので、今回は誰もが知るアヴァンギャルドなアーティストや楽曲を選びました。
――どの楽曲も名曲ばかりだと思いますが、まずは、ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」(1963年)ですが。1960年代の歌謡曲もお好きなんですね。
Little Black Dress:声、ビジュアル、曲のクオリティ含めてすべてが好きです。ザ・ピーナッツは、国民的な女性ポップスデュオとしては先駆者というか、アヴァンギャルドで、確実に日本の女性グループの文化の礎(いしずえ)的な存在だと思います。ずば抜けて技術力が高く、しかも歌のタイミング、ニュアンス、細かいリズムまで全部ぴったりなのが本当に素晴らしいと思います。私も自分のレコーディングで、ユニゾンで歌うことがありますが、自分の歌でさえ難しいのに、これほどまでにきれいなユニゾンはもはや芸術的です。
――次は、はっぴえんど/さよならアメリカ さよならニッポン(1973)ですが、とても意外な選曲でした。アルバム『HAPPY END』に収録された1曲ですね。
Little Black Dress:このアルバムはベルウッド・レコードからリリースされたアルバムですが、はっぴえんどは日本語ロックを作り上げたグループで、本当に深みがあると思います。シティポップの代表格として語られることも多いですが、真骨頂は当時の社会情勢に対するアンチテーゼや反戦歌的な要素の楽曲だと思います。のんびりした楽曲ゆえに言葉選びも繊細で品がいいから、そういう風に捉えられにくいかと思いますが。そして、真似のできないような緊張感と脱力感のバランスが絶妙だと思います。「さよならアメリカ さよならニッポン」は同じフレーズを繰り返しているだけなんですが、あのリズムと音色がもろに“アヴァンギャルド”なんです。
――次は、ちあきなおみ/夜へ急ぐ人(1977)ですが、この曲が”アヴァンギャルド“というのはよく理解できます。この曲は友川かずきさんの作詞・作曲ですが、このあたりのフォークもお好きなんですか。
Little Black Dress:好きなんですが、聴くとすごくエネルギーを取られてしまうので、聴くタイミングを選びます。ちょっと落ち込んでいる時に聴いたりすると、沼からなかなか抜け出せなくなるので(笑)。
――ちあきなおみさんの原体験はやはり「喝采」でしょうか。
Little Black Dress:そうですね「喝采」を最初に聴いたと思いますが、あれほど映像が浮かんでくる曲もなかなかないですよね。ちあきなおみさんはある日突然、表舞台から姿を消したじゃないですか。ミステリアスさというよりも、命懸けで歌と向き合ってステージ上で死んでもいいくらいの、“もがき”のようなものを感じるんです。「夜へ急ぐ人」を含めて、ちあきさんはレコード音源より、ライブ映像の方が断然好きですが、ちあきさんの強烈なメッセージを感じます。
――「夜へ急ぐ人」は、女の情念のようなものを感じますし、まさに女優級の表現力ですよね。このまま倒れて死んでしまうんじゃないかと錯覚してしまいます。
Little Black Dress:今でこそ憑依型のアーティストは当たり前ですが、自分の中に何かをおろして、身体ごとで憑依して歌うというのは、ちあきさんが元祖なんじゃないかと思います。
――ちあきさんの持つ“女の情念”のようなものに共感する部分はありますか。
Little Black Dress:とても共感する部分が多いです。自分が体験していなくても、女性に生まれ、女性に育ち、心の奥底に必ずある業のようなものを強く感じます。
――次は、ピンク・レディー/UFO(1977)ですが、あまりにもメジャーな曲で、面食らっております(笑)。
Little Black Dress:この曲は有名すぎて、意外な選曲かもしれませんが。タイムマシーンがあったら当時の衝撃を味わってみたいほどです。だってこの曲ヤバいですよ、詞も振り付けも(笑)。実家にピンク・レディーの振り付けのDVDがあるんですが、これを見て練習したので完璧に踊れます。私は” アヴァンギャルド“なピンク・レディーから影響を受けているんですが、阿久悠さんという作詞家の存在も大きいです。当時はおそらく子供向けに書いたと思うんですが、大人になり改めてこの歌詞を読み込んでみると深い含みがあると思います。
――歌手だけではなく、昭和の作家の先生にもとても影響を受けているようですね。
Little Black Dress:阿久悠さんは“アヴァンギャルド“の先駆者だと思っています。作曲は都倉俊一さんですが、この曲は変拍子のリズムがボレロ調なんです、さりげないフレーズにクラシック音楽が感じられるところも大きな発見でした。
――メジャーな曲を、若い世代の方が分析すると、今まで気付けなかった新たな解釈で曲を再認識できるので、とても新鮮ですし、勉強になります。
(後編につづく)
【Release Information】
Little Black Dress『AVANTGARDE』
2025年7月23日発売
▼KING e-SHOP限定SET(CD+オリジナルTシャツ[M/L])
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gECB-1790/