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中山美穂の音楽探求 ――新たな視点で浮き彫りにする12枚の魅力
気鋭のライター4人(栗本斉、つやちゃん、TOMC、ノイ村)が新たな視点でその魅力を浮き彫りにする。
文・構成 栗本斉 アートワーク:清水真実
2025.2.6
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ピックアップされた楽曲のプレイリストと共にお楽しみください
*中山美穂の音楽探求 Exploring Miho Nakayama’s Music
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『「C」』(1985年8月21日)
ツッパリ少女像だけではない変化球満載の記念すべきデビュー作
女優デビューは1985年1月クールの問題作『毎度おさわがせします』。そのインパクトを受けての歌手デビューだった。この1stアルバムは当時の他のアイドル同様に様々なタイプの楽曲が混在しているが、ドラマの役柄と同じくツッパリ少女像は彼女の中核だったはず。そういった意味でも、アルバム・タイトルに冠されたデビュー曲「「C」」は重要だ。詞曲編曲が松本隆=筒美京平=萩田光雄というこれ以上ない最高のプロダクションであり、幼さが残る歌声が映える疾走感たっぷりの不良系歌謡ロックに仕上がっている。そもそもタイトルが「C」であり(松本隆は“CloseのC”と語っているが絶対セクシュアルな意味を込めたはず!)、<抱きしめて ささやいて>というフレーズから立ち昇る青く生々しい余韻が見事。この曲が持つスピード感覚は林哲司による’80sロック風のシングルB面曲「スピード・ウェイ」にも繋がる。A面を凌駕する気合の入ったベスト・トラックだ。加えて、アニメ系の作家として知られる馬場孝幸が手掛けた「あいつ」と「ガラスの雨」の2曲もこの路線を踏襲している。一方で、キュートなテクノポップの「センチメンタル通信」や後のブラコン路線を彷彿とさせる「海を感じる瞬間」は、萩田光雄&鷺巣詩郎というパンチの効いた組み合わせ。網倉一也が楽曲を手掛けたレゲエ・ナンバー「ロンリー・バースディ」も含め変化球満載で、凡庸なアイドル・ポップでない仕上がりは今なお新鮮だ。(栗本斉)
『SUMMER BREEZE』(1986年7月1日)
角松敏生を起用し、本格的なシンガーを目指した最初の一歩
中山美穂と角松敏生のコラボレートは、1988年の『CATCH THE NITE』が決定打だが、その先駆けが3作目の本作である。硬質なスラップ・ベースと鋭角に切り込むカッティング・ギターを配してゴリッとしたファンキーなサウンドの「Leave Me Alone」、軽快なパーカッションのリズムと野太いシンセ・ベースのコンビネーションがグルーヴを生む「Rising Love」は、いずれも角松自身が詞曲編曲だけでなくコーラスまで参加。彼のブラック・コンテンポラリー志向がしっかりと刻み込まれている。同時期に彼は先鋭的なラップやダンス・ミュージックを経てアイデンティティを確立した傑作『TOUCH AND GO』を発表しており、プロデュース・ワークに関しても最先端でありながらエバーグリーンなポップスへの回帰を感じる。その最たる楽曲が「You’re My Only Shinin’ Star」のオリジナル・ヴァージョンだ。メロウでゴージャスでドラマティックなアレンジに乗せて、初々しいヴォーカルが聴ける。後に新録してヒットするのも納得の名曲だ。おそらく、中山美穂自身も制作陣も、アイドルから脱皮し本格的なシンガーへの一歩と考えていたのではないか。来生たかおが手掛け、そこはかとなく憂いを感じさせる「ひと夏のアクトレス」と「わがまま」の2曲もアダルト路線の一環だろう。本作収録のヒット・シングル「クローズ・アップ」は財津和夫による溌溂とした良質なポップ・ソングだが、他の楽曲とのギャップが感じられ、それがまた過渡期ならではの面白さと言える。(栗本斉)
『EXOTIQUE』(1986年12月18日)
松本隆、筒美京平、船山基紀がタッグを組んだダンサブルなシンセポップ
中山美穂のディスコグラフィにおいて、アーティスト性という観点でブレイクスルーが起きた一枚だろう。全曲で松本隆と筒美京平がタッグを組んだのもそうだが、シンセサイザーに長けた船山基紀がアレンジャーとして入ったことからも分かる通り、時代性を反映したダンサブルなシンセポップ作品を作り上げようという意思が伝わってくる。船山は1985年のシングル「生意気」ではストロングなリズムを聴かせていたが、今作においては手を替え品を替え多彩なエレクトロ音を繰り出しながら、実に繊細で柔軟なサウンド作りを展開。タイトル通り、異国情緒をテーマに各国での出来事をコンセプチュアルに描いていくという、その機微がすばらしい手腕で表現されるのだ。例えば、「黄金海岸」。シンセによるムード醸成が巧みで、中山美穂の強弱はっきりした歌唱も相まってうっとりするようなドラマティック・ムードを作っている。<青いエアメイル 封筒の底に 金色の砂をひとつまみ入れた>という冒頭のロマンスあふれる歌詞とメロディなど、見事な演出力だ。「WAKU WAKUさせて」「SWITCH ON(ハートのスイッチを押して)」のシングル曲はとりわけポップで、作家陣のクリエイティビティに応じて中山美穂も七変化のパフォーマンスを見せる。紛うことなき、初期の傑作。(つやちゃん)
『ONE AND ONLY』(1987年7月15日)
現代を象徴する女性アーティストの力強さとも重なるコンセプト・アルバム
以降の作品では収録曲の多くを占める中山美穂自身の作詞曲だが、その最初の楽曲がスターであることの抑圧やしがらみを振りほどき、“自由な少女”を宣言する「Liberty Girl」である大胆さに、今なお鮮烈な驚きを感じる。久保田利伸、小室哲哉といった著名なアーティストが楽曲を提供し、LAで録音された本作は、80年代らしい弾けるようなニューウェイヴ/ファンク・ポップと、たっぷりとエコーのかけられた中山美穂の歌声の相性に魅了される高品質なアイドル作品であることは間違いない。だが、輝くグルーヴの向こう側に見えるのは、辛い別れを経て一人で海外を旅し、時には一夜限りのロマンスに溺れながら、かつて他者に求めていた自分らしさ(「ONE AND ONLY」)を模索する中山美穂の姿だ。爽やかに別れを告げる「By-By My Sea Breeze」などの至高のポップ・ソングを詰め込みながらも当時のヒット・シングル(「「派手!!!」」など)を一切収録していないのは、本作が一つの物語を描いたコンセプト・アルバムであることを裏付ける。終盤のハイライトを飾る「決心」で<自由を手にして 喜んでいる それは私の方だもの>と力強く歌う姿は、近年のBLACKPINKやアリアナ・グランデといった現代を象徴する女性アーティストとも重なるものであり、本作が約40年前にリリースされたという事実にただただ圧倒される。(ノイ村)
『CATCH THE NITE』(1988年2月10日)
ダンス・ミュージックの流行を見事に捉えた角松敏生プロデュースの代表作
角松敏生プロデュース作品としても著名で、中山のファン以外にも高い知名度を誇る1988年作。角松は今で言うシティポップやフュージョン〜R&Bなどの洗練されたサウンドで主に知られるが、本作の白眉は彼が80年代後半──ユーロビート/イタロディスコ隆盛後の国内ダンス・ミュージックの流行を見事に捉えていることだろう。当時一世を風靡したPWLにも通じるアッパーなシングル「CATCH ME」はその分かりやすい例だが、他にも「MISTY LOVE」「JUST MY LOVER」など、シンプルなシンセ・フレーズの反復が効果的に用いられることで、テクニカルさをあえて全面に出さない“抜け感”が巧みに演出されている。元来そうしたサウンド・デザインを得意とする佐藤博に2曲の作編曲を委ねているのも納得。杏里「悲しみがとまらない」担当時に自身があえて作詞・作曲を行わず康珍化・林哲司に委ねたエピソードにも通じる、角松ならではの名采配だろう。当時アルバム・チャートで3週連続1位を獲得し、うち第2週はシングル「You’re My Only Shinin’ Star」と同時の首位獲得。発売日の異なるシングル・アルバムでの同日付1位は当時の新記録であった。また、第1週には角松のアルバム『BEFORE THE DAYLIGHT』が2位であり、所謂 “ワンツー・フィニッシュ” を飾るなど、チャートの記録・トリビア面で話題に事欠かない作品でもある。(TOMC)
『Hide’n’ Seek』(1989年9月5日)
それまでのキャリアの集大成でありダンス・ミュージック路線の最高傑作
企画盤を除くと中山の10代最後、そして80年代最後となる通算9枚目のスタジオ・アルバム。楽曲提供にCINDYや杏里、編曲に鳥山雄司といった近年海外からの再評価も著しいメンツが集い、当時の先端をゆくニュージャックスウィング〜コンテンポラリーR&Bが中心の作品となっている。鳥山のアレンジはタイトル曲の鋭利な打ち込みをはじめ、当時のジャネット・ジャクソン〜ジャム&ルイス・プロデュースの諸作に通じる、決してメロウ一辺倒ではないファンクネスが随所に宿っている点が白眉。主にアルバム後半の編曲を手がけた小林信吾は、TR-808の打ち込みが牽引するバラードから中山が元来得意とするシンセ・ディスコまで、幅広い層にアルバムを届けるためのバランサー的な重要な役割を果たしている。このような都会的なデジタル・サウンドが主体の一方、かつてこうした作風の契機となった角松敏生のペンによる「You’re My Only Shinin’ Star」は、大谷和夫 (SHŌGUN) による生音中心の普遍的なニューアレンジでアルバムのラストに収録。『Mind Game』(1988年)でも試みた、ほぼ全編が同性の作詞陣(or 自作)による大人びた世界観で貫かれている点も含め、本作は中山が20代を前に所謂「アイドルからアーティストへ」の変化を完成させた作品であり、それまでのキャリアの集大成、そしてダンス・ミュージック路線の最高傑作だろう。(TOMC)
『Dé eaya』(1991年3月15日)
あらゆるジャンルの音楽をミックスし見事なポップスとして機能させた
同年のプライマル・スクリーム『Screamadelica』を彷彿とさせるアシッドな「BINGO」や、ファンキーなブレイクビーツが唸る「COCKATOO」など、本作の大きな影響源の一つがセカンド・サマー・オブ・ラブ(80年代後半のUKにおけるムーヴメント)であることは想像に難くない。だが、さらにラテンや民族音楽など、あらゆるジャンルの音楽をミックスし、当時どころか現代基準でも斬新なサウンドを作り上げ、それでいて見事なポップスとして機能させているというのが本作の何よりも凄まじいところだ。本作における最重要人物が(ほぼ)全曲の編曲を手掛けたATOM(井上ヨシマサ&久保幹一郎)なのは間違いないが、帯コメントにも採用された<いいわ いいわ ダメね>という言葉が光る「JOKER」を筆頭に、中山美穂自身も作詞や歌唱を通して作品全体を貫く唯一無二の解放感を見事に表現している(特にラテンとの相性は抜群だ)。また、こうした楽曲群を「メロディ」(大貫妙子が作詞・作曲)と「Special Ever Happened」(前年にリリースされたCINDYの楽曲のカヴァー)という、安らぎに満ちたバラードで挟むという全体の構造は、この音楽こそが中山美穂にとっての理想郷の投影であることを示しているようにも感じられる。そして、本作での充実した音楽的実験の数々は、新たな代表曲となるジャパニーズ・ハウスの名曲「Rosa」へと繋がっていく。(ノイ村)
『Mellow』(1992年6月10日)
スムーズなAOR調の楽曲が多くを占める初のセルフ・プロデュース作
初のセルフ・プロデュースとなった、LA録音の1992年作。某ロック・アンセムのリフを大胆に引用しつつ、それと相反するように“Mellow”と名付けられた冒頭のタイトル曲にまず圧倒される。しかも、そのギターは派手なプレイにも関わらず音量が極端に絞られ、非常に遠く、音像の奥深くで演奏されているように聴こえる──それゆえに、一般的な“ロック・バラード”とはまったく異なる、音響的な奥行き〜雄大なスケール感が演出されているのが実にユニークだ。この意表を突く編曲は井上ヨシマサによるもの。彼は他にアシッド・ハウスをバブリーに飾り立て、リル・ルイス的なスローダウン展開も盛り込んだ「Platinum Cat」も手がけており、アルバムに強烈な個性を注入している。もっとも、本作中で多くを占めるのはスムーズなAOR調──文字通りメロウな楽曲たちだ。サビ裏でテクニカルなシンバル・ワークが主張する至高のミディアム・グルーヴ「ゆっくりMy Love」、エレピが効果的に用いられた隠れた名バラード「Silent」など前半だけでも聴き応え満点だが、特に終盤、「はなしをきいて」からラストまでの流れは、すべて異なる作曲陣ながら統一感に満ちており必聴。この後「世界中の誰よりきっと」のメガヒットを挟み、より人肌を感じさせるポップスに接近していく直前の、良い意味で神秘的〜浮世離れしたスター性に満ちた過渡期の名盤。(TOMC)
『Mid Blue』(1995年9月30日)
どこか寂しさを感じさせる音像の中で優しい歌声を聞かせる繊細な作品
遠くから過去の自分を見ているかのような「16ブランコ」で幕を開ける本作は、穏やかでありながらも、どこか寂しさを感じさせる音像の中で優しい歌声を聞かせる中山美穂の姿が印象に残る、極めて繊細な作品だ。ロサンゼルスで制作されたこともあってか、編曲にはマドンナやフリオ・イグレシアスの作品に関わってきた重鎮が集う一方で、作詞曲はCINDYやMariaといった親交の深い女性アーティストが中心になっているのも、本作の位置付けをよく表している。<今まで愛してた大人とは違う>と運命的な恋に落ちる瞬間を描く「抱きしめたい」から、<なんにも無かった素振りのままで 彼女の隣に座るのね 今夜は>と呟く「イタイ」へと移りゆく流れは、(歌詞とは裏腹に軽快な曲調も相まって)本作の魅力である残酷で美しいコントラストを見事に象徴している。作品全体を貫くのは、かつての無邪気な自分を思い出しながら、一度は手にしたはずの愛が失われゆく光景をそっと見つめる当時の中山美穂の姿であり、<あなたのbrown shoes踏みつけてみた イヤダ…胸が ドキドキするの>という言葉に胸を掴まれる「BROWN SHOES」は本作屈指のハイライトだ。シングルとして発表された「Hurt to Heart 〜痛みの行方〜」が、悲しみを振り切ったはずの自分に最後の一撃を与えるかのように、あまりにも美しく、切ないエンディングを飾る。(ノイ村)
『Groovin’ Blue』(1997年6月21日)
絶妙なバランスのヴォーカルが全体をまとめ上げた後期屈指の傑作
中山美穂作品はアレンジャーのハマり具合によって躍動感が大きく左右される印象なのだが、その点、今作は『OLIVE』(1988年)とともに後期屈指の傑作といってよい出来。トータル・アレンジは武部聡志で、リズミカルな太いグルーヴがたまらない。シングルの「マーチカラー」に顕著な通り、導入部の加工したサウンド、変化するリズム、本人作の断片的な歌詞世界といった様々な要素が繋ぎ合わされ、存在感あるベース音で一本の筋が貫かれるという見事な構成。加えて、中盤の流れにも注目したい。「マーチカラー」のカップリングとなった「SHINING FOR YOU」ではジャジーな鍵盤を聴かせつつ、次の「嘘はやめた〜DISAPOINTED LOVE」ではディープなダンス・ナンバーを持ってくるのだが、この落差を違和感なく接続させる腕前はなかなかのもの。前者では<風邪をひかないようにね 遠くにいたら看病も出来ないから一人でしっかりいて 輝きをあなただけ…愛してるよ>というまっすぐな歌詞が沁みるし、後者になると“いい女”を演じつつクールに決める姿勢がカッコいい。細部まで凝っており起伏に富んだアルバムだが、統一感が感じられるのは声の力も大きいはず。当時のJ-POPの基準から考えると相当に強い低音が出ていながら、か弱過ぎず、かといって張り合いすぎない絶妙なバランスのヴォーカルが全体をまとめ上げている。作曲は内藤慎也や宮田繁男といった面々が参加しているが、中山美穂の歌唱は誰と組んでも揺らぐことはない。(つやちゃん)
『manifesto』(1999年9月16日)
リトル・クリーチャーズを全面に起用した自由度の高い驚愕の作品
90年代に入ってからは様々な“実験”作品を生み出してきた中山美穂だが、間違いなく本作はその極北。リトル・クリーチャーズを全面に起用した驚愕の作品であり、深い音楽の世界へと潜り込んでいる。青柳拓次(ギター)、鈴木正人(ベース)、栗原務(ドラムス)といういわゆるスリー・ピース・バンドは、ジャズ、ロック、ワールド・ミュージックからクラブ・ミュージックにまでアプローチするクロスオーヴァーなグループだけに、ここでも中山美穂という素材を自由気ままに料理している。五島良子が楽曲を手掛けた冒頭の「ESPRESSO’n’MILK」からアーシーでオルタナティヴな薫りさえ漂うソウル・フィーリングのある不思議なナンバーであり、続く「あきるまで」ではファットなベース・ラインを生かした極端なほどミニマルなアレンジに驚かされる。これはほとんどヒップホップのブレイクビーツではないか。どこかテクノを感じさせる「ビシソワーズ フラワー」、まるでフィッシュマンズのようなダブ曲「SEVILLANA」と前半だけでもインパクトは強いが、後半に進むとヴォーカルよりもインスト・パートがメインといえるような長尺の演奏もあり、あまりの自由度に目がくらむ。しかし、1曲を除きすべての歌詞を手掛けたのは中山美穂本人であり、明らかに彼女自身の中から生まれた作品なのだ。本作を制作後、長らく歌手活動は休業するが、もしもこのまま振り切った作品を作り続けていたらどうなっていたのだろうか。(栗本斉)
『Neuf Neuf』(2019年12月4日)
定石にとらわれない姿勢を見せた最後のオリジナル・アルバム
35周年企画アルバムでありながら、前作から実に20年ぶりの新作。とはいえ、4曲はセルフ・カヴァーなので、企画盤の趣が強い。カヴァー含めてプロデューサーは高田漣。もともと、新作だが懐かしさが感じられる作品にしたいという想いがあったそうで、確かに、柴田隆浩が作曲した「君のこと」などはメロディやアレンジなどレトロな印象だ。というか、全体通してかなり不思議なアルバムではないだろうか。最後の曲「Neuf」は作曲も中山美穂によるものだが、<にゃ~ん>という歌詞にアブストラクトなピアノが披露され、唐突に終わる。そもそもアルバム・タイトルである「Neuf Neuf」についても「別に“新しい私”みたいな意味ではないんです。“ヌフ”って言ってみたくなりません? しかも2回続けて言ったら楽しいですよ」と述べており、なるほど、やりたい音楽を作り続けてきた彼女ならではの突き抜けた姿勢が見える。それはカヴァー曲にも表れており、例えば「ただ泣きたくなるの(Neuf Neuf)」は、高田漣が初めに作ったアレンジに対して、「もっと原曲から大きく変えたものにしてほしい」というオーダーを伝えたそう。というわけで、最後の最後まで中山美穂の表現スタンスは変わらなかったと言えよう。つまり、その時々の表現欲求に導かれるよう自由なサウンドを追い求める、という価値観。ポップスのフィールドで、彼女は表現の幅を広げ続け、定石にとらわれない姿勢を見せた。(つやちゃん)
<プロフィール>
栗本斉(くりもと・ひとし)
音楽と旅のライター、選曲家。レコード会社勤務の傍ら音楽ライターとして活動を開始。退社後は2年間中南米を放浪。帰国後はフリーランスで雑誌やウェブの執筆、ラジオや機内放送の構成選曲、コンピレーション・アルバムの企画監修などの他、テレビ、ラジオなどのメディア出演やトークイベントなども行っている。著書に『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』『「90年代J-POPの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)など。
https://lit.link/hkurimoto
つやちゃん
文筆家。メディアへの寄稿やインタビューに加え、企画プロデュース、アーティストやブランドのコンセプトメイキングも多数。著書に『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)、『スピード・バイブス・パンチライン ラップと漫才、勝つためのしゃべり論』(アルテスパブリッシング)、監修に『オルタナティヴR&Bディスクガイド』(DU BOOKS)など。インディペンデント・アーティストをサポートする一般社団法人 B-Side Incubator理事。
https://linktr.ee/tsuyachan
TOMC(トムシー)
ビート&アンビエント・プロデューサー。カナダInner Ocean Records、日本のKankyo Records、Local Visions、カクバリズム等から作品を発表。長谷川時夫 (タージ・マハル旅行団) の即興演奏コレクティブ〈Stone Music〉での海外ライブツアー、J-WAVEへのDJミックス提供、著書『J-POPの音楽的冒険』 (DU BOOKS) の刊行など、多方面で注目を集めている。
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ノイ村(のいむら)
1992年生まれ。音楽ライターとゲームライターの2つの顔を持ち、Webメディアやラジオ、書籍など様々な媒体で活動中。主な活動歴:リアルサウンド、Billboard JAPAN、TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」、JFN系列「週刊音楽論」、DU BOOKS『海外ゲーム音楽ガイドブック』(執筆陣の一人として)など。
連絡先:neu_mura@outlook.com
https://neu-mura.com/