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SOUND FUJI×柴崎祐二『Unpacking the Past vol.3』“魅惑の和モノの世界”ゲスト:珍盤亭娯楽師匠・DJ NOTOYA part1
第三回目は"魅惑の和モノの世界"
ゲストには世界中の『珍盤』を掘り起こし、強烈なパフォーマンスで唯一無二の空間を生み出す珍盤亭娯楽師匠と、
国内外のレーベルにおけるコンピレーション監修など、ジャパニーズ・ブギー・ブームを牽引する第一人者、DJ NOTOYAを招いた。
和モノDJとしてシーンを横断して活躍する一方、指折りのディガーとしても知られる2人が、和モノの深層に迫る。
文:柴崎祐二 / 写真:松永樹 / 協力:KOTOBUKI Bar&Record Store
2025.8.21
キングレコードのカタログに残された膨大な過去音源を、様々なゲストを交えて振り返る連載企画「Unpacking the Past」。今回は、ズバリ「和モノ」をテーマに、DJの二人を迎えて、オススメのレコード、お気に入りのレコードについて話を訊いた。和製レアグルーヴから、ディスコ、定番モノ、企画モノ、まさかの珍盤まで、魅惑の和モノの世界にようこそ――。
――まずは、自己紹介からお願いします。
珍盤亭娯楽師匠(以下「娯楽師匠」):珍盤亭娯楽師匠と申します。元々はヒップホップのダンサーをやっていて、その関係でレアグルーヴ系のレコードを掘るようになりました。その後、レコード店で働いたことや現場での体験を通じて、「こんなカッコいいのがあったんだ」っていう風に和モノの魅力にハマっていきました。最初はレアグルーヴを聴いている時の感覚と一緒で演奏がカッコいいっていう視点だったんですけど、だんだん日本語の歌自体の良さに気づき始めて、そっちに引っ張られていった感じですね。そこから、歌謡曲からコミックソング、音頭モノ、民謡まで、いろんな珍しいレコードを掘っている感じです。
珍盤亭娯楽師匠
DJ NOTOYA(以下NOTOYA):シティポップ系やフュージョン系のミックスを出したり、コンピの監修などをやらせてもらっているDJのNOTOYAと申します。僕も師匠と同じで、洋楽メインから徐々に和モノを掘るようになった感じですね。ヒップホップが元にあるというのも同じですね。元々僕はラップをやっていて。途中からトラックの元ネタが気になってきて、洋楽のフュージョンとかソウルを掘るようになりました。僕は師匠よりも大分歳下なので、僕が掘り出した頃はもうレアグルーヴ系は値段がしっかりついている状況で。当時はお金もなかったから、自然とまだまだ安かった和モノのレコードを漁るようになりました。ここまでハマったきっかけは、ある現場で聴いたしばたはつみの「濡れた情熱」(1975年)でした。あれで完全に心を掴まれて。そこからジャケ買い含め手当たり次第買っていたのが積み重なって今に至る、という感じです。
DJ NOTOYA
めちゃめちゃレアグルーヴの宝庫
――そして、今日お借りしているこの場所が、KOTOBUKI BAR & RECORD STOREというお店です。こうやって見回してみても沢山のレコードがあって、レコード好きにはたまらない空間なんですが、ここで二人のオススメをどんどん聴いていこうと思います。
娯楽師匠&NOTOYA:よろしくおねがいします。
――今日はキングレコード縛りでレコードを持ってきてもらったわけですが、キングのタイトルってこういう傾向だよな、みたいな印象ってありますか?
娯楽師匠:正直、DJ視点だとまず音がありきなので、レーベルに特化して掘ることはあまりなくて。だから、気づいたらキングだったというか、あれもこれもそうなんだ、っていう感じですね。でも、今日のために改めて家の棚を漁ったら、めちゃめちゃレアグルーヴの宝庫というか、いい曲が沢山あるなと思いました。
NOTOYA:僕もまさに同じような感覚ですね。その一方で、前にコンピの監修をやらせてもらったエレクトリックバードみたいに、これは間違いないでしょうっていうカタログもありますよね。それこそエレクトリックバードのレコードは昔は本当に安く売っていたので、試し買いの指針の一つにしていました。
ブラックミュージックからの影響
――歴史の古いレコード会社だけあって、歌謡曲からポップス、ジャズ、ロック系、企画モノまでいい意味で雑多なカタログが揃っている印象ですよね。もう本当に数え切れないほどの点数があって。とりあえずは、「まずはこれを聴いてくれ!」というものから紹介してもらえますか?
娯楽師匠:これから行こうかな、クニ河内とかれのともだちのアルバム『切狂言』(1970年)。レアグルーヴ好きにもロック好きにもハマるやつですね。これは、海外のファンが昔から注目していたこともあって、壁掛けレコードのイメージがありますけど、僕は20年くらい前に某チェーンの新入荷箱で偶然安くみつけて飛び上がりました(笑)。思い出深い盤ですね。
――当時はまだオンライン上の情報も整備されていなかったし、そういう発見がまだまだありましたね。
娯楽師匠:そうそう……。あ、実は俺、クニさんと同じ元ハプニングス・フォーのメンバーで、このアルバムにも参加しているチト河内さんと知り合いなんですよ。
NOTOYA:へー!
娯楽師匠:神楽坂にチトさんが関係しているお店があって、そこに知り合いのDJと一緒に行ったときに普通にチトさんもいて、大好きです!って話したら、俺のDJとコラボをやってくれたり。すごく気さくなおじいさんなんですけど、ドラムを叩くと人が変わるっていう。
――いきなりすごい話(笑)。
(「切狂言(芝居小屋の名役者)」を視聴)
娯楽師匠:ヴォーカルがジョー山中さんなんですよね。相当尖ったことをやってますよね。売れるとか売れないとかの基準で作ってない感じがする。
――NOTOYAさんの「とりあえず、これ!」っていうレコードはなんですか?
NOTOYA:近田春夫&ハルヲフォンのシングル「ロキシーの夜」(1977年)から行きましょうか。これ、大学生の頃にジャケ買いした一枚なんです。近田さんが個性的なサングラスをしていて、初めてみた時のインパクトがすごくて。
(聴きながら)
NOTOYA:しかもこれ、筒美京平さん作曲のメロディーがどこかビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」風なんですよね。
娯楽師匠:当時は、ブラックミュージックからの影響っていうのは色んなところに色濃く出てますからね。
――とくに筒美さんが手掛けた一連のディスコ歌謡ものは随所にオマージュを感じます。
NOTOYA:まさにそうですね。
和モノを掘る上で、特にキーマン
――近田さんはキングのカタログの中でも特に重要なレコードをいくつも作っていますけど、今日は師匠もその中から一枚持ってきてくれたみたいですね。
娯楽師匠:はい。ハルヲフォンのシングル「FUNKYダッコNo1」(1975年)を持ってきました。いかにも当時の企画モノのディスコレコードっぽいですけど、めちゃくちゃかっこいい。
NOTOYA:ジャケットのアーティストクレジットも全然目立ってないし、たしかに企画モノ感が強い。
娯楽師匠:覆面バンドの企画盤っぽいイメージだったのかなと。
(聴きながら)
娯楽師匠:バンプのダンス向けのファンキーな曲で。カタコトっぽい日本語も面白い。
――1970年代後半以降のディスコブーム期になると、実際そういう企画版が大量にリリースされるようになりますよね。
娯楽師匠:そうなんですよね。その中でも、キングは本当に変わったものをいっぱい出してて。ディスコ軍艦マーチとか……なんでもかんでもディスコ化してしまう(笑)。
――NOTOYAさんもそういう企画モノレコードを持ってきてくれたんですよね。
NOTOYA:はい。上田力とソウル・バスケットの『ディスコ・オペレーション』(1978年)っていうLPです。
――ジャケットがヤバいなー。
NOTOYA:このイラスト、インパクト凄いですよね(笑)。数ある企画モノディスコの中でも個人的に特に好きな一枚です。和モノを掘る上で、この上田力さんは特にキーマンなんですよね。
娯楽師匠:そう。どれも素晴らしい。
NOTOYA:この人の名前があったら、とりあえず買うっていう。たまに歌謡曲のアレンジとかもやっている人なんですが、こういう企画モノも沢山あって。これはカヴァー集ですね。選曲もカオスで、『スターウォーズ』の曲からアバの「ダンシング・クイーン」、ジュリーの「勝手にしやがれ」、ピンクレディーの「UFO」とか。特に好きなのが、ボズ・スキャッグスの「ローダウン」のカヴァーなんです。
(「ローダウン」を聴きながら)
娯楽師匠:もう、冒頭のドラムブレイクからしていいよね。ご飯何杯でもいけちゃう。
NOTOYA:原曲よりちょっとだけBPM遅いんだけど、そこもいい。
――余計ファットさが増してますね。
娯楽師匠:丸みのあるフェンダーローズっぽい音もいいですよね。
――帯のジャンル欄に「ソウル」とか「ファンク」じゃなくて、「ダンス音楽」って書いてあるのがたまらないですね(笑)。
娯楽師匠:この時代の和モノのレコードは帯の文句も味わい深いんですよね。「大本命!」とか。何の本命なのかはよくわからないんだけど(笑)。
――これはどんなミュージシャンが参加してるんですか。
NOTOYA:クレジットを見ると……ドラムに石原康さん、ベースに金田一昌吾さん、ギターに津村泰彦さん、それで、鍵盤を全て上田さんが弾いているっていうラインナップですね。他にも、村岡健さんが管楽器で参加していたり。
――実力派揃いだ。しかし、こういうのって当時どういう人たちが買っていたのかなと謎に感じたりもするんですよね。ディスコで本当にかかっていたのか、あるいは、 家でBGM的に聴いていたのか……。
娯楽師匠:オリジナル版が好きだけど高くて買えないからこれを買う、みたいなのもあったんじゃないですかね。この『ディスコ・オペレーション』も定価2,000円なら洋楽のアルバムより安かっただろうし。
――ジェネリック医薬品的な……でも、一周回ってオリジナル版よりこっちの方がカッコよくないか?と思うときもありますよね。
完全にジェームス・ブラウンのスタイル
娯楽師匠:わかる。そういう瞬間が来るんですよね。それが和モノの魅力とも言えるだろうなと。僕も上田力さんのアルバムをいくつか持ってきているので、それを紹介しましょうか。上田力とザ・キャラバンの『ゴーゴー大パーティー』(1972年)と、同じキャラバン名義の『ファンク・オーヴァー・ベートーヴェン』(1975年)っていうLP。それと、テクニクスのオーディオについてきたオーディオチェック用のレコード(「グッと耳よりなデッキのお話(ツァラトゥストラはかく語りき)」年代不明)でも、愛川欽也さんのナレーションの後ろで『ファンク・オーヴァー・ベートーヴェン』から曲が使われてて。
――『ファンク・オーヴァー・ベートーヴェン』は、タイトルからすると、クラシックの曲をファンク化したっていうコンセプトなんですかね?
娯楽師匠:そういうコンセプトではあるんですけど、実際に聞くと全くクラシック感がなくて(笑)、めちゃくちゃファンキーなアレンジが冴えまくりの内容です。一曲目の「ファンキー・ドゥードゥル」っていう曲が特にカッコいいんですよ。
(聴きながら)
NOTOYA:これは完全にジェームス・ブラウンのスタイルですね。
娯楽師匠:そうでしょう。途中から入ってくるサックスソロもよくて。
NOTOYA:おおー、カッコいい。確かにベートーヴェン感は全然ないですね(笑)。
娯楽師匠:ホントに。一応「運命」のカヴァーっていうことなんだけど(笑)。これ、未だに再発されてないんですよね。出してほしいなあ。
音楽性がどんどん変化していく
――NOTOYAさん、他にはどうですか?
NOTOYA:キングレコードのカタログを語るうえでは絶対外せない大スターとして、布施明さんのレコードについてはやっぱり触れておきたいと思って、いくつか持ってきました。布施さんのレコードはまだ安く買えるので聴きやすいというのもあるんですが、歌手としてもそうだし、シンガソングライターとしても凄いということがよく分かるんですよね。特に、この『マイ・ウェイ』(1972年)というアルバムは2枚組なんですけど、盤ごとにテーマが分かれていて、1枚目がシンガーソングライター的な面にフォーカスした内容になっているんです。
――1972年発売というと、ちょうどシンガーソングライター的な音がブームになっていた時期ですよね。
NOTOYA:そういうのを自分もやってみよう、と思ったんでしょうね。僕が最初にこれを買った時は、どっちかっていうと途中に入っているファンキーなドラムブレイクに反応していたんですけど、最近はシンガーソングライター的でエバーグリーンな曲に惹かれるようになってきたんです。
(収録曲「ウンポ・ダモーレ・アンケ・ベル・メ」を聴きながら)
娯楽師匠:う〜ん、いいですね〜。
NOTOYA:ちょっと、DJ向けというよりはリスニング向けだと思うんですけど。ハーモニーがすごくキレイで。
――ソフトロック感もありますね。布施さんは時期によって音楽性がどんどん変化していく印象があります。それこそ、AORが流行っている時にそういう感じの曲をやったりしていて。
NOTOYA:この「勝手に想い出」(1980年)っていうシングルも、高速ラテンディスコな感じですごいかっこいいです。
(聴きながら)
娯楽師匠:歌のノリもやっぱり素晴らしいね。
――お次は。
娯楽師匠:じゃあ、これ行きましょうか。この見た目なら絶対かっこいいでしょっていうジャケットなんですけど、ダッチっていう人の「イン・ザイール」(1977年)っていうシングルです。これ、全然情報がなくて、ダッチという人が何者かもよくわからない……(笑)。曲の方もカヴァーなんですけど、原曲は結構有名で、モハメド・アリとジョージ・フォアマンのザイール戦をテーマにしたジョニー・ウェイクリンっていう人の曲なんです。だからこのカヴァー版もこういうアフリカ風のジャケなのかもしれない。
――なるほど〜。
娯楽師匠:しかもレーベル違い/歌手違いで3枚くらい出ているんですよね。キング版が、このダッチっていう人のバージョン。僕はたまにその3枚を繋いでDJでかけたりしてます(笑)。
(聴きながら)
――やー、かっこいいですね。歌謡曲感がにじみ出ちゃっているのも味ですね。
娯楽師匠:そう、歌い方が歌謡曲っぽいですよね。ジャケットに反してノリもアフロではないだろうという感じなんだけど、そこがまたいいんですよね。
(後篇に続く)