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稀代のヒットメーカー・井上ヨシマサ 作家デビュー40周年記念インタビュー【前編】

昭和、平成、令和と第一線でヒットを連発し、シンガーソングライターとしても活躍する井上ヨシマサが作家デビュー40周年を記念したアルバム『再会 ~Hello Again~』を7月17日にリリースした。同アルバムは井上が今まで楽曲を提供してきたアーティストとデュエットした全10曲を収録。小泉今日子・植草克秀・中山美穂・松山優太・森川美穂・広瀬香美・高橋みなみ・矢作萌夏・野村義男・郷ひろみが参加する豪華ラインナップが注目されている。リリース翌日に58歳の誕生日を迎えた稀代のヒットメーカーへのロングインタビュー。前編はニューアルバムの収録曲や参加アーティストとのエピソードを訊いた。

進行・文:濱口英樹 / 写真:Ryoma Shomura

2024.8.2

――40周年おめでとうございます! まずはアニバーサリーアルバム『再会 ~Hello Again~』の企画の経緯からお聞かせください。

井上 僕がミュージシャンとしてデビューした頃からお世話になっている田村充義さん(音楽プロデューサー/小泉今日子、とんねるず、広瀬香美、ポルノグラフィティなどを担当)との共同プロデュースで、1年がかりで制作しました。田村さんにはかねてから「ボーカリストとしてのヨシマサを知らしめたい」という親心があって、それが周年企画のデュエットアルバムに繋がったわけです。

――井上さんがかつて作品を提供されたアーティストとの豪華共演が話題を呼んでいます。

井上 まずこちらで候補となる曲をセレクトして、イメージが伝わるようにデモも作りました。もちろんデュエットアーティスト側の意向もありますから、場合によっては複数のデモを作って絞り込んでいったんです。皆さん、「ちょっとお祝いに駆け付ける」というより「参加する以上はきちんとしたものを作りたい」というスタンスだったのも嬉しい驚きで、作品を大事にしてくださっていることが伝わってきました。

――それは作家冥利に尽きますね! 特にアイドルの場合、多忙で作家と顔を合わせないケースもあると聞きますが、今回コラボした10名の方とはもともと面識があったのでしょうか。

井上 はい。かなり久しぶりに“再会”した方もいたので、自分の変化がどう見えているのだろうと気になったりして(笑)。

――歌入れは同じブースで同時に行なったのでしょうか。

井上 いえ、僕はアレンジャーとエンジニアも兼ねていたので、歌入れは自分のパートを先に済ませて、スタジオではディレクションをしていました。だから同じブースで歌うことはなかったのですが、皆さん実力派で素晴らしい歌声を聴かせてくださったので、それに合うよう後から自分のボーカルを録り直すこともありましたね。

――ご苦労された点は。

井上 すべてかもしれません(笑)。アレンジ、キーの設定、テンポ合わせを10人の方それぞれと調整しながら進めていきましたから。男女デュエットのキーをどう合わせるかも難しかったですね。原曲と同じアレンジでもダメだし、悩みの種は尽きなかった気がしますが、おかげでいい経験となりました。僕は作曲・編曲だけでなく、ミックスやマスタリングまですべてやるので、アーティスト側から見るとスタッフの立場でもある。だから「ここはこうした方がいいんじゃないか」とか、様々な提案をいただきました。作家としては「なるべく変えたくない」という気持ちもあるのですが、結果として肝の部分は変えずにいいものができたのではないかと思います。一線で活躍されている方の意見はとても参考になりましたね。


――ここからは収録曲に関して伺います。M1「Someday」(85年)は井上さんの作家デビュー作。小泉今日子さんの7thアルバム『Flapper』の収録曲で、作詞クレジットの“美夏夜”は小泉さんのペンネームです。

井上 当時、小泉さんを担当していた田村さんにアイドル風のデモを持ち込んだら「ヨシマサはアーティストを目指しているんだから、自分で歌えるものを出さなければ意味がないよ」と言われたことが今も心に刻まれています。キョンキョンは同い年ですが、学年は1つ上。当時から姉貴分で、今回もいろいろアイデアを出してくれて、一緒にアルバムを作っている感覚でした。

――M2「EXCUSE」(93年)は少年隊に提供したナンバーで、今回はカッちゃんこと植草克秀さんとのデュエットです。

井上 少年隊の素の魅力を出そうとした曲です。原曲は船山基紀さんのアレンジでカッコいいサウンドでしたが、今回はべースのスラップを入れました。カッちゃんとは同い年でね。6月に日本橋三井ホールで開催された彼のライブにゲスト出演させていただいて、この曲を二人で歌いました。トークのコーナーでファンの方たちの想いを代弁したら「よくぞ言ってくれた」と大きな反響をいただいて。同年代のカッちゃんとの距離の近さがファンの方に伝わったのではないでしょうか。

――M3「Rosa」(91年)は中山美穂さんへの提供曲。ジャパニーズハウスの傑作で、大ヒットを記録しました。

井上 クラブミュージックにハマり始めた頃の作品です。今回この曲をセレクトしたらご本人は驚かれていましたね。デュエットするなら「Mellow」(92年)あたりではないかと思っていたのかもしれません。

――M4「旅立つ日~完全版」(07年)は家族を残して旅立つ男の歌。ピアノ&コーラスグループのJULEPSのデビュー曲で、リーダーだった松山優太さんとのデュエットです。

井上 歌詞が重いテーマだけに、穏やかな気持ちで歌えるメロディにしたつもりです。原曲はピアノサウンドでしたが、今回はあまり湿っぽくならないようにディストーションがかかったままのギターを伴奏に少し荒いながらも!心を込めて歌いました。


――M5「ブルーウォーター」(90年)はアニメ『ふしぎの海のナディア』のオープニングテーマ。圧倒的な歌唱力を持つ森川美穂さんの代表曲になりました。

井上 作家事務所から独立して「これからはたとえ食えなくなったとしても、やりたい仕事だけをしていこう」と決めたとき、東芝EMI(当時)のプロデューサーだった町田晋さんから依頼を受けて作った曲です。おかげさまでヒットして、自分のやりたい音楽と、いわゆるJ-POPがそれほど乖離していないことを確認できた思い出深い作品です。

――続くM6「GIFT」(06年)はドラマ主題歌に起用された広瀬香美さんのシングル曲。井上さんはアレンジに関わっています。

井上 香美ちゃんも同い年で家族ぐるみの付き合いです。この曲は彼女の作詞・作曲で僕はサウンドプロデュースの立場。原曲ではアレンジのみでしたが、今回は歌の女王とのデュエットということで、素晴らしいボーカルの邪魔にならないようサポートに徹しました。

――M7「Everyday、 カチューシャ」(11年)はAKB48のミリオンヒット。初代総監督・高橋みなみさんとのデュエットですが、斬新なアレンジも聴きどころです。

井上 ボサノバなど、いろんなバージョンを考えましたが、今回はレゲエにしました。当初は反体制的でドロドロしたものを目指したんですけど、たかみなのキャラクターもあって、賑やかでハッピーな仕上がりになりましたね。

――M8「サステナブル」(19年)はAKB48が持続可能なグループになるようにとの願いを込めて作られた楽曲だとか。デュエット相手はこの作品で初センターを務めた矢作萌夏さんです。

井上 彼女は現在シンガーソングライターとして活動していますが、もともとソロでもやっていける歌唱力を持った実力派。今回もいいボーカルを聴かせてくれました。

――M9「25ans」(89年)はTHE GOOD-BYEの野村義男さんに提供したロックチューン。今回もギターは野村さんが弾いています。

井上 当時キョンキョンの仕事で一緒にプレイする機会が多かったヨッちゃんのワイルドでロックなイメージをもとに書きました。今回、久々に共演できて楽しかったですよ。

――M10「バックステージ」(16年)は郷ひろみさんへの提供曲で作詞も井上さん。アルバムを締めくくるにふさわしいバラード曲です。

井上 郷さんがフルオーケストラとともに開催したコンサートのために書き下ろした作品で、バックステージで見守る人たちの存在を意識して作りました。今回は40年を支えてくれたファン、スタッフ、家族、友人への感謝を込めてエンディングに入れたのですが、郷さんは「この歌入れのために僕は昨日、早く寝たんだよね」と。ミックスに関してもリクエストがあり、それはいいアルバムにしたいという想いがあったからだと思います。僕の3度上をハモってくださったんですけど、声量もあってロングトーンも素晴らしかった。僕らの世代もまだまだ頑張れると勇気づけられました。


――お話を伺っていると、今回の制作を通じて、特にボーカリストとして得難い経験をなさったようにお見受けします。

井上 実力派揃いでしたから、めちゃめちゃ鍛えられましたね。ご本人のキーを変えずに、僕が高音パートを担当することが多かったのでハイトーンも出るようになったと思います。

――アレンジについてはいかがでしょう。大幅に変えた曲もあれば、原曲からそれほど離れなかったアレンジもありますが。

井上 今の時代に合わせてEDM風にしようとか、そういうことは全く考えなくて、作った当時「こうしたかった」というアレンジにかなり忠実に寄せています。あまり変えない方がいいなと思った曲は今のアプローチにして、同じアレンジでも音だけ変えたものもある。結果的に今は新しい音とか古い音とかは関係ないという気付きもありました。

――ミュージシャンのキャスティングは。

井上 40年間お世話になってきた方と、自分のライブで演奏してくれている方が中心です。ストリングスやブラスは生音で、原曲のレコーディングで演奏してくれた方も参加してくださいました。

――それは嬉しいですね!

井上 レコーディングはゲストアーティストの歌入れも含めて、すべて自宅のスタジオで行ないました。キョンキョンが自分の家のソファに座っている景色は不思議な気がしましたけど(笑)、皆さんリラックスしてやっていただけたのではないかと思います。そういうことができるようになったのは40年やってきたからかもしれないので、感慨深いものがありましたね、


――完成しての手応えは。

井上 アルバムの制作と並行してAKB48の「カラコンウインク」なども作っていましたから、しばらく作曲活動をしていない人の同窓会企画みたいにならなくてよかったなと(笑)。それだけに「ちゃんとしたものにしなくてはならない」というプレッシャーもありました。自分は数字を気にするタイプではないんですが、今回は関わってくださった方がいっぱいいますから、そのお気持ちに応える意味でも多くの方に聴いていただきたいです。

――振り返って、今回のアルバム制作で発見があったとか、次の創作意欲をかき立てられたということがあればお聞かせください。

井上 同世代の方を中心に、かつて作品を提供した方たちとコラボできたことは大きな刺激となりましたね。僕は作家をしながら歌も歌っていますが、今回のアルバムを通じて、作家や歌手といった枠組みを超えた活動ができる時代になったという実感も得ました。それから特に男女のデュエットでは愛の会話というか、歌の本質を感じる場面もあって、新たに令和のデュエットソングを作ってみたいという気持ちにもなっています。皆さんとの再会を機に、また一緒に仕事をしようという話が出ていますし、まだまだこれからだなという感じですね。


――それは楽しみです。40周年企画では第2弾、第3弾も予定されているとか。

井上 この冬にAKB48グループに提供した作品をセルフカバーしたアルバムを、そして周年のフィナーレとなる来年7月までにもう1枚、アルバムの発表を予定しています。8月18日には今回のアルバムのリリースを記念して、ゲストをお迎えしたトーク&ライブを開催しますので、生の歌を聴きに来ていただけたら嬉しいですね。

※井上ヨシマサさんへのロングインタビュー。後編は40年のキャリアを振り返っていただきます。

 

[井上ヨシマサ「再会 ~Hello Again~」本人解説プレイリスト]

稀代のヒットメーカー井上ヨシマサ。作家デビュー40周年記念アルバム「再会 ~Hello Again~」の制作エピソードを、本人解説付きでお届けするプレイリストが各配信サイトにて公開中
配信はコチラ:https://playlist.kingrecords.co.jp/?post_type=playlist&p=1700

 

[イベント情報]
「井上ヨシマサ40周年を祝っちゃおうトーク&ライブ」
日時:8月18日(日)16時~18時30分(予定)
場所:池袋Club Mixa(東京都豊島区東池袋1−14-3 Mixalive B2)
出演:井上ヨシマサ
ゲスト:植草克秀、松山優太、村山彩希(AKB48)ほか(詳細は後日発表予定)
【受付リンク】
https://eplus.jp/inoueyoshimasa_40th/
【お問い合わせ】
Zen-A(ゼンエイ)TEL:03-3538-2300

ARTIST

  • 中山美穂

    MIHO NAKAYAMA

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