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SOUND FUJI×柴崎祐二『Unpacking the Past vol.3』“魅惑の和モノの世界”ゲスト:珍盤亭娯楽師匠・DJ NOTOYA part2

音楽評論家の柴崎祐二氏と共に過去の音源を探求し、時代を超えても色褪せない音楽の魅力に迫っていく連載『Unpacking the Past』
第三回目は"魅惑の和モノの世界"
ゲストには世界中の『珍盤』を掘り起こし、強烈なパフォーマンスで唯一無二の空間を生み出す珍盤亭娯楽師匠と、
国内外のレーベルにおけるコンピレーション監修など、ジャパニーズ・ブギー・ブームを牽引する第一人者、DJ NOTOYAを招いた。
和モノDJとしてシーンを横断して活躍する一方、指折りのディガーとしても知られる2人が、和モノの深層に迫る。

文:柴崎祐二 / 写真:松永樹  / 協力:KOTOBUKI Bar&Record Store

2025.9.18

本記事のPART1はこちら

(前回の続き)

――アフロ繋がりでいうと、そのものズバリ「AFRIKA」っていう名前のバンドのLPをNOTOYAさんが持ってきてくれていますね。

NOTOYA:はい。『Funk City』(1985年)というバンドの唯一作なんですけど、これはかなりすごい盤だと思います。時代的に、ファンクはファンクでも、プリンスとか80年代のPファンクとかあの辺りのノリに近くて。そういう音を当時の日本でやっていたってなかなか珍しい気がします。初めて聴いたときはびっくりしました。

娯楽師匠:DJ界隈では結構人気が高くて、数年前に7インチも切られてるよね。

津軽三味線と四つ打ちのコンビネーション

NOTOYA:そうそう。「Feel The Night」っていう曲がカットされています。その曲を聴いてみましょうか。

(「Feel The Night」を聴きながら)

娯楽師匠:いいですね〜。80年代っぽいいい意味での軽さもあって。

――そこはかとない六本木感というか。このアルバムは去年から配信でも聴けるようになっているらしいので、ぜひ聴いてみいてほしいですね。

NOTOYA:ぜひ。あと、このAFRIKAがバックをやっているヤバいシングルもあって。若松市政の「俺はKYワカマツだ」(1985年)っていう。

娯楽師匠:新日本プロレスの悪役マネージャーの7インチね(笑)。当時結構人気があったんですよ。ムチを振り回しながらメガホンでアジるっていうスタイルの人で。

NOTOYA:その若松さんが聴いている人にひたすら檄を飛ばす内容なんですけど(笑)、バックをAFRIKAが担当していて、その音がエレクトロファンクとかオールドスクールヒップホップ風でやたらかっこいいんです。

娯楽師匠:実際は韻も踏んでないただの喋りなんだけど、バックトラックのおかげでラップ歌謡みたいになっているんだよね(笑)。

(「俺はKYワカマツだ」を聴きながら)

NOTOYA:スクラッチも入ってたりして、多分、ハービー・ハンコックの「ロックイット」(1983年)を意識してますよね。個人的にはこの曲のインストが欲しいですけどね。DJ的には、「この声要るかな…」って思ってしまう(笑)。

娯楽師匠:俺はなにせこういう珍盤が大好きなので、この声こそがたまらないと思う方だけどね(笑)。

――そういう「珍盤」の世界への入門盤として、まずこれを聴け!というのを教えてもらえますか?

娯楽師匠:有名な歌手の三橋美智也さんブームにのってディスコをやっている『激れ!ミッチー』(1979年)っていうLPがあって、それを是非オススメしたいですね。

NOTOYA:出ましたね。まさに珍盤。

娯楽師匠:これ、僕は歌入りももちろん好きなんですけど、B面がインスト版になっているので、三味線入りのディスコとして普通にDJで使えるんです。

(収録曲「ディスコじょんがらぶし」を聴きながら)

――津軽三味線と四つ打ちのコンビネーションがなんとも言えない不思議な雰囲気……。

娯楽師匠:そうでしょう。ビートにそのまんま三味線を乗せただけといえば乗せただけだけど(笑)。ジャケットのミッチーの表情もまたいいんだよなあ。しかし、当時誰が買ったんだろうと不思議に思いますよね。民謡ファンはディスコって聞いたら敬遠するだろうし、逆もまたしかりだろうし。相当にコアなミッチーファン向けというか(笑)。A面の歌入り曲も最高ですよ。

民謡や伝統音楽の蓄積と大胆なアレンジ

(「噂のディスコボーイ」を聴きながら)

――いいなあ。

NOTOYA:バックの音がどうあろうと、ミッチー一人だけは通常営業(笑)。裏ジャケも最高ですね。

娯楽師匠:お姉ちゃんとノリノリでディスコでフィーバーしているっていう(笑)。まさにキングレコードならでは珍盤ですね。あとは、民謡ネタだとこれもいいですよ。エボニーウェッブっていうソウルの名グループが日本に出稼ぎに来て全編で民謡を歌っている『ディスコ花笠音頭』(1979年)っていうアルバム。

NOTOYA:これは最高。しかも、前回登場した重要人物・上田力さんがアレンジをやっているんですよね。

娯楽師匠:そう。流石の音になってます。

――改めてキングレコードのカタログをみると、長い歴史のあるレーベルだけあって、民謡とか伝統音楽の蓄積がすごく豊富ですよね。しかも、時代にあわせて大胆にアレンジしているレコードもかなりたくさんあって。それこそ、「キングと言えば」的な存在である寺内タケシさんの一連作にも素晴らしいものがたくさんあります。

娯楽師匠:そうそう。どれも大好きです。

NOTOYA:寺内タケシ&ザ・ブルージーンズ名義の『津軽じょんがら』(1974年)を持ってきているので聴いてみましょうか。

(収録曲「津軽花笠」を聴きながら)

――いやー、これもレアグルーヴ的なカッコよさがありますよね。

NOTOYA:素晴らしい。このあたりの寺内さんのカタログは海外でもここ最近再評価されているみたいですね。

トレンドを巧みに取り入れた洗練された音楽

――順次配信開始になっているようなので、是非聴いてもらいたいですね。時代を遡ると、キングにはこういうエレキ系だったりグループサウンズ系だったり、ガレージ的な視点からも楽しめるカタログがたくさんありますよね。

娯楽師匠:まさにそうですね。

――片や、元グループサウンズをやっていた人たちが後になって渋いソロ作を残していたり。

娯楽師匠:そうなんですよね。ワイルド・ワンズの加瀬邦彦さんが1976年にリリースした『ザ・デイ・ビフォアー・トゥモロウ』っていうソロアルバムとかも、まさにそんな感じです。ワイルド・ワンズの名曲「想い出の渚」を「ON A SUMMER BEACH」っていうタイトルでセルフカヴァーしているトラックが入っていて、それが結構いいんですよ。

(収録曲「「ON A SUMMER BEACH」」を聴きながら)

――あ、これインストなんですね。

娯楽師匠:そうなんです。アレンジも原曲とは全然違ってディスコ風のインストカヴァーなんですけど、ちょっとイナたい感じが良くて。

NOTOYA:これは僕も知らなかったなあ。たしかにいい。

――元GS繋がりだと、NOTOYAさんに持ってきていただいた元ブルー・コメッツの井上忠夫さんのソロ作も是非聴いてもらいたいですね。

NOTOYA:1979年の『ダンシング・シャドウズ』。これはずばり名盤だと思います。萩田光雄さんとか深町純さんとか、サウンドプロダクションもすごく魅力的ですし。

娯楽師匠:これは前々からDJからの人気が高いレコードだよね。

(収録曲「ビロード色の午後」を聴きながら)

NOTOYA:この曲、少し山下達郎さんの「ラブ・スペース」と雰囲気が似ていて、たまに繋いでプレイしてます。

娯楽師匠:そう言われると確かに「ラブ・スペース」風だね。いやあ、これはもう普通に最高。

NOTOYA:これだけベテランの方がAORとか当時のトレンドを巧みに取り入れつつ洗練された音楽をやっていたっていうのは、やっぱりすごいことですよね。

スローでサンプリングネタになりそうなサウンド

――AOR的なカタログの充実という意味でも、キングには見逃せないレコードがたくさんありますよね。中でも、最近特にネットでバズっているらしいのが、芳野藤丸さん率いる藤丸バンドの唯一作『BGM』(1977年)。

NOTOTA:これも普通に最高のやつですね。

娯楽師匠:間違いない。

NOTOYA:芳野藤丸さんは参加ミュージシャンの名前の見て「クレジット買い」をするときにも、信頼感っていう意味で筆頭的な存在ですよね。自身のバンドSHOGUNやAB’sはもちろん、参加作品にも良いものがすごく多くて。

――特に再生数が伸びているらしい「Paper Machine」を聴いてみましょうか。

(収録曲「Paper Machine」を聴きながら)

娯楽師匠:やっぱりこれ大好きだな。本当にダンディだよなあ。

NOTOYA:改めて聴くと、最近の再評価のトレンドがわかる気がしますね。クロスオーヴァー系だと、鈴木弘さんの「ロマンス」(1976年)だったりとか、スローでサンプリングネタにもなりそうな感じというか。

――チルアウト感も高めで。

娯楽師匠:そうそう。

NOTOYA:インストだからショート動画文化とも馴染みがいいし。でも、この曲って尺も短いし、多分当時の本人たちの感覚だと、ちょっとおまけ的にやってみたところもあったんじゃないかなと思うんですよね。

娯楽師匠:わかる。だからこそ好きなことをやっている感もあるよね。

NOTOYA:そういう曲が何十年越しに人気になるんだから、面白いですよね。

娯楽師匠:これは昔からなかなか現物を見かけない盤だったよね。

NOTOYA:僕も結構探した末にようやく手に入れました。

――今はLPの再発も出てたり、それこそ配信でも気軽に聴けるし、改めていい時代だなと(笑)。

NOTOYA:本当ですね。

音楽の見方を変えると色々なものが面白くなってくる

――という感じで楽しくトークしてきましたけど、お二人にとって、今改めて和モノのレコードを聴くことの面白さって何だと思いますか?

娯楽師匠:自分も若い頃を思い出すと、最初のうちはやっぱり海外の音楽への憧れが先行していたと思うんですけど、そうやって色々聞いていくうちに、改めて同時代の日本の音楽ってクオリティが高かったんだなと気づき始めたんですよね。最近はそういう流れが海外からもやってきて逆に僕らが気付かされるみたいな現象も起こっているけど、自分の場合、それ以前に一つの音楽として単純にやっぱりいいなと思って掘ってきたという気持ちが大きくて。そうすると、流行りで音楽を聴くみたいなのとは無関係に、自分が面白いと思えるものがどんどん出てくるんですよね。

――自分なりに見方を変えてみると、色々なものがどんどん面白くなってくる、と。

娯楽師匠:そうそう。角度を変えてみることが重要。

――師匠は、ここ数年はレコードだけじゃなくてCDも掘っているんですよね。

娯楽師匠:そうなんですよ。僕がひねくれものだからっていうのもあると思うですけど、レコードがブームになってからもう大分経つし、じゃあ自分は流れに逆行して、CDを掘っていこうと思っていて。結局は、それがまた次の「和モノ」になっていくと思うんですよね。

――DJっていうのはそもそもそういう実践の文化ですものね。見過ごされているものに新たな価値を見いだしていく。

娯楽師匠:まさにそうですね。それこそがDJの役目というか。

――NOTOYAさんはいかがですか?

NOTOYA:今の師匠の話にも通じると思うんですけど、僕もやっぱり天邪鬼なところがあるので、王道からちょっと外れるものを深く掘るのがやっぱり面白いなという気持ちがあります。シティポップがこれだけ流行った中で、それ以外にいかに面白さを見出していけるか、というか。

アルゴリズムに囚われない音楽との出会い

――前回話題に出た有名歌手のディスコグラフィーの中に、隠れた名曲や意外な曲を探し出すっていうのも、「それ以外」を求めるマインドと重なってきそうですね。

NOTOYA:おっしゃる通りですね。あんまり注目されていないけど素晴らしい曲がまだまだ沢山あるので。

娯楽師匠:それも「角度を変える」ということの一環だよね。角度を変えることで良さがわかってくるものが沢山ある。

NOTOYA:だからこそ、和モノ以外にも色んなものを聴いた上でも和モノに戻ってくると、余計面白くなるんですよね。

――さっきもいった通り、今の時代はストリーミングっていう強い味方もありますから、そういう風に「角度を変える」ことも以前よりやりやすくなっている気もします。

娯楽師匠:気軽に調べやすくなってますからね。試聴の代わりみたいに使えるのもいいなと思いますし。逆に言うと、全く存在すら知らなかった昔のレコードを配信で初めて知ることも多いですしね。人が作ったプレイリストで「ああ、この曲こんな良かったのか」と気付くこともありますから。

NOTOYA:スルーしちゃってたものが配信に上がっていて、ふとしたきっかけで耳にしたり。それが予想より良かったりするとまた面白い。

――その一方で、ネットにある情報っていうのはあくまで限られた情報でしかないっていうのも事実なんですよね。AIに訊いたところで詳細不明なものがゴマンとあるし、だからこそ面白い。

娯楽師匠:本当に。もっともっと深いところがあるから。

――しかも、その「深さ」は、評価の確立した値段の高いレコードを聴くとかそういう行為とは別の世界の中に広がっている。

NOTOYA:そうだと思います。今日持ってきたものの中にも今でこそ高くなっているレコードもあるけど、前回言った通り、僕自身も元々は安いレコードを探すところから始まっているので。実際、視野を広げてみれば安くて面白いレコードはまだまだ山程あると思いますし。

娯楽師匠:無理して高いレコードを買う必要はなくて、お財布にあったものでいいんだよね。

NOTOYA:実物を手にするとクレジットとかを研究できるし、そこから興味を広げていくのも面白いんじゃないかと思います。僕自身、「山下達郎さんのバンドのメンバーがここにも参加していて」みたいな情報から興味が広がっていきましたから。アルゴリズムに囚われない音楽との出会いというのも確実にあるので、それはこれからも大事にしていきたいですね。

娯楽師匠:あとは、興味があったら、和モノのイベントにも是非遊びに来てもらいたいですね。人と繋がりとか、その場でかかっているものがきっかけになってもっと興味が広がっていくこともきっとあると思いますから。

ARTIST

  • アフリカ

    AFRIKA

  • 三橋美智也

    MICHIYA MIHASHI

  • 寺内タケシ

    TAKESHI TERAUCHI

  • 藤丸バンド

    FUJIMARU BAND

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