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【江利チエミ企画】私が聴く、江利チエミ<菊地成孔、小西康陽、横山剣(クレイジーケンバンド)>

SOUND FUJI 編集部

2026.1.11

江利チエミ配信化作品一覧はこちら

ジャズ、洋楽のフィーリングを日本のポピュラー音楽に浸透させ、戦後のポップス歌謡の礎を築いた一人。日本音楽史において重要な女性シンガー、江利チエミ。
進駐軍キャンプでの歌唱からキャリアをスタートし、ジャズへの志向を深め、1952年デビューシングル「テネシー・ワルツ」が15歳にして大ヒット。翌年渡米しキャピトル・レコードでの録音や海外公演を成功させると勢いのまま、美空ひばり、雪村いづみと共に『 三人娘 』 と呼ばれ、映画やドラマ、ミュージカルなど日本のお茶の間で地位を確立した。

ソウルフルな歌唱はもちろんのこと、卓越したリズム感、グルーヴ感でジャズのみならずラテンから民謡まで自在に歌いこなし、またそれらのジャンルを融合させたエキゾチックかつ洗練されたアレンジは今なお国内外から高い評価を得ている。
そんな江利チエミのオリジナル作品92タイトル537曲が今回一挙にストリーミングで令和に蘇る。
膨大なアーカイブスの配信化を記念し、プレイリスト企画「私が聴く、江利チエミ」がスタート。江利チエミを愛し、リスペクトするミュージシャンが独自の視点で選曲テーマを選定し、楽曲をセレクトしたプレイリストとコメントを順次公開していく。


菊地成孔小西康陽横山剣(クレイジーケンバンド)


菊地成孔

Q:江利チエミについて、どういうアーティストだという印象をお持ちですか?
A:いくらキャリア上、欠くことができないとはいえ、「三人娘」縛りでの<当社比>みたいになるのは如何なものか?とは思うものの、江利チエミ(以下「チエミさん」)は、美空ひばり、雪村いづみと比した時(「短く、凄絶と言って良い人生と比して」しても、この際良いかと思いますが)「毒々しさがない事」から生まれる、圧倒的な瑞々しさとキュート、童話に出てくる森の動物を思わせるルックから生じる、アジアのどこかの国の、王族であるかのようなノーブルな上品さと、柔らかい逞しさがその魅力の源泉だったと思います(それは、芸能人って非常に重要な「芸名」にも表れていると思っています。「美空」「雪村」という<押しの強さ>と比した時、<米軍キャンプで付けられた渾名~エリー~を、母親が整えたもの>だとしても、「江戸」の<江>と「利根川」の<利>と繋いだ字面が持つ粋と<可愛げ>は、ファンの無意識のレベルにも届いていたでしょう)。歌声、ステージアクトを含めた、ルック、衣装、等々、チエミさんの同時代(第二昭和=1947~67年)、もしくはひと世代上の「ジャズ歌手」たち、特に女性は、本場合衆国の黒人歌手に共有的な<ブルース感覚>を、発声、アクト、衣装、等々に過剰なまでに取り入れ、また、当時の日本歌謡のあり方として、ジャズ~ブルース感覚が日本古来の都々逸、浪花節、等々、「押しの強い」歌唱法やイメージと結びつくことで、ややもすると「毒々しさ」が生じ、この味わいを愛する人々には堪らないものでしょうが、チエミさんにはこの「魅力的な雑味」が、非常に少なく、スムースでスマートだったという点は特筆されると思われます。
「日本のエラ・フィッツジェラルド」という安易な惹句が50年代には飛び交いましたが、いまだに「だったらよっぽどサラ・ヴォーンでしょ」と思っています。
高い歌唱力を湛えながら、力まず囁かず、強い小節(こぶし)やえげつない節回しや過剰な力みを排した、柔らかでおおらかなその歌声は、前述、演歌に隣接する苦味や雑味をこよなく愛した「日本人女性ジャズ歌手」ファンの人々の、一服の清涼剤であり、滋養豊富な歌の雫であり泉であったと思います。

Q:今回のプレイリストのタイトルとテーマ、選曲の理由を教えてください。
A:後出しジャンケンのようで些か恐縮ですが、小西康陽さん、横山剣さんという圧倒的な先輩を前にして、僕のような若輩者が<聴くべき楽曲>を選曲しても、それは貧弱なものになるでしょう。ですので、「バックのゴージャスを娯しむ江利チエミの21曲」というテーマで、今ではすっかり失われてしまった、「フル・アコースティックの、緻密な編曲を施したビッグバンド」の贅沢さを堪能できる、小規模で番外編的なプレイリスト作りを心掛けました。「21」は21世紀にチエミさんを聴き直すこと、それと、チエミさんが高倉健と結婚して一度引退なさる前年(1958年当時の)年齢である21歳(それでもキャリア6年目)に因んでいます。

Q:ご自身で思うプレイリストの聴きどころを教えてください。
A:チエミさんのバックバンドといえば<原信夫とシャープス・アンド・フラッツ><見砂直照と東京キューバン・ボーイズ=TCB>という、本邦を代表するジャズとラテンのビッグバンドでキマリ。であり、邦楽との融合も融通無碍、ダイナミック / チャーミング / ユーモラスにミクスチュアされる高度なスキルとセンスが、前述、チエミさんの圧倒的な魅力を支えている、その構図の、ほんの一端でもお楽しみ頂きたく思います。

Q:江利チエミの音楽を認識したのは、いつ、どんなタイミングですか?
A:僕の世代(1964年生まれ=今年63歳)ですと、合衆国キャピタルからのリリースとサクセスや「テネシー・ワルツ」「トゥーヤング」によるデビューの衝撃は生まれる前であり、一番最初はテレビ番組の方の『サザエさん』(TBS)、『みんなで歌おう73 – 75』(TBS)のMC、『連想ゲーム』(NHK)の紅組2代目キャプテン、『象印クイズヒントでピント』(テレビ朝日)の女性軍初代キャプテン等々、「テレビタレントであり歌手である」人、としての認識が最初でしたが、さほど音楽が好きでなかった僕の兄(14歳年上)でさえ、自宅に三人娘のEP盤などを持っており(愚兄は雪村いづみさん派でしたが笑)、ノイズだらけ、針飛びもする3人娘レコードですら、その衝撃は素晴らしいものがあり、後の90年代以降、DJカルチャーによる(特に「和モノ」の)再発見、サブスク前夜にあたる、DVDBlu-rayカルチャーによる「デジタルリマスタリング再発カルチャー」によって、少年期の過去が、更なる過去に遡行する感覚の愉悦とともに、チエミさんの作品が僕の中に溢れて行きました。
「3人娘モノ」のみならず、ご自身の主演映画やドラマも多数あるチエミさんですが、個人的に最も愛好しているのは、新東宝制作の<ジャズ娘>シリーズ第1作の『青春ジャズ娘(53)』です。伝説のジャズ歌手 / 女優である新倉美子が主演で、俳優キャリア最初期の、<まだ達者ではない>フランキー堺も主演級の活躍を見せるマニア垂涎の作品ですが、ここで、ナンシー梅木、ティーブ釜萢と並び<8大学対抗ジャズ・バンド合戦>の審査員をはじめとした「重要なチョイ役」として、本人として登場するチエミさんの、キュート、ノーブル、コミカルと三拍子揃ったお姿は、本邦の「ジャズ映画」史上のエヴァーグリーンとして記憶されるでしょう。

Q:若い年代の音楽ファン向けに、江利チエミの音楽の魅力を教えてください。
A:僅か70年前には、これほど贅を尽くした音楽がJ-POPとして存在していたということ。贅を尽くしても尽くしても(現代のアイドルさんぐらいに)可憐で庶民的であった事に、驚きと喜び、そして、敗戦による大量破壊からほどなかった当時の、我が国のエンターテインメント界の活力を堪能していただければ嬉しいです。

「バックのゴージャスを娯しむ江利チエミの21曲」


https://chiemierinaruyoshikikuchi.lnk.to/Chv7Y6RW

プロフィール

菊地成孔(きくちなるよし)
1963年生まれの音楽家/文筆家/大学講師。音楽家としてはソングライティング/アレンジ/バンドリーダー/プロデュースをこなすサキソフォン奏者/シンガー/キーボーディスト/ラッパーであり、文筆家としてはエッセイスト&批評家であり、映画やテレビの劇伴も多い。「菊地成孔とペペトルメントアスカラール」「ラディカルな意志のスタイルズ」「菊地成孔クインテット」リーダー。2021年、自らの生徒と共に、ギルド「新音楽制作工房」を立ち上げ、テレビドラマ「岸部露伴は動かない」劇場用映画「岸部露伴 ルーヴルへ行く」(2023)「岸部露伴は動かない 懺悔室」(2025)などの劇伴を担当。20258月、新音楽制作工房名義の1stアルバム「未来のコドモたちの食べ物」(ビュロー菊地レーベル)をリリース。


小西康陽

Q:江利チエミについて、どういうアーティストだという印象をお持ちですか?
A:戦後の昭和の「明るく、快活で、庶民的な」スター、という印象を抱いています。 

Q:今回のプレイリストのタイトルとテーマ、選曲の理由を教えてください。
A:タイトルは「快活なチエミさん」
テーマはリズミカルでハッピーで、 ジャズそしてジャイヴ、さらにリズム&ブルースなど洋楽の影響をつよく感じる楽曲を選びました。 

Q:ご自身で思うプレイリストの聴きどころを教えてください。
A:いちばんの聴きどころは『サザエさん』のテーマです。
たしかTBS系列のTV放送網で、平日の夜に放送されていました。
映画版の『サザエさん』もチエミさんが主役でしたが、 このテーマソングはTV番組でしか使われておりません。いまでも歌えますし、アレンジもほぼ思い出すことができます。
パパパでラララ、パパパでラララ、というフックが効果的な名曲です。

Q:江利チエミの音楽を認識したのは、いつ、どんなタイミングですか?
A:あらためてレコードを集めるようになった直接のきっかけはエゴラッピンの森さんが選曲されたコンピレイションCDに洋楽に混じって江利チエミさんの「奴さん」が選ばれていたのを聴いたとき。じつに新鮮な驚きがありました。     

Q:若い年代の音楽ファン向けに、江利チエミの音楽の魅力を教えてください。
A:江利チエミさんみたいなタイプの歌手って、意外と海外に似た人がいないような。
とにかく明るく庶民的、気取ったところのないスター。
映画出演作もどれも良いのですが、市川崑監督で勝新太郎さんが主演した『ど根性物語・銭の踊り』という映画の江利チエミさんをぜひ一度観てほしいです。
あの映画の中のキャラクターがぼくの抱いている江利チエミさんのイメージそのものです。 

「快活なチエミさん」

chiemieriyasuharukonishi.lnk.to/g2LdvYIJ

プロフィール

小西康陽(こにしやすはる)
音楽家、DJ。1985年、ピチカート・ファイヴのメンバーとして12インチシングル「オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス」でデビュー。さらに1994年、アメリカでマタドール・レコードより「MADE IN USA」でデビューした。2001年、14枚のオリジナルアルバムを残し、ピチカート・ファイヴ解散。慎吾ママ「慎吾ママのおはロック」、細川ふみえ「スキスキスー」、八代亜紀「夜のアルバム」「夜のつづき」、夏木マリ「パロール」「戦争は終わった」「13 CHANSONS」、ムッシュかまやつ「我が名はムッシュ」など、他アーティストへの楽曲提供も多数に及ぶ。2011年にソロプロジェクトPIZZICATO ONEとして1stアルバム「11のとても悲しい歌」発表し、現在までに3枚のアルバムをリリース。2024年には小西康陽名義で1stアルバム「失恋と得恋」発表。2025年12月、細野晴臣トリビュートアルバム「はらいそ、の音楽」(V.A.)をリリースした。文筆家としても精力的に活動し、単著は4冊を数える。


横山剣(クレイジーケンバンド)

Q:江利チエミについて、どういうアーティストだという印象をお持ちですか?
A:米軍キャンプでならしたバタくささとお座敷うたのエキゾチックな融合を体現する稀代のシンガー! 

Q:今回のプレイリストのタイトルとテーマ、選曲の理由を教えてください。
A:子供の頃に刷り込まれた日米エキゾチック歌手としての江利チエミ 

Q:ご自身で思うプレイリストの聴きどころを教えてください。
A:もうねぇ、「コレが聴きどころ!」と思う曲だけを選曲しましたので聴きどころは「全部!」
ということになりますが、みなさんに感じ取っていただきたいのは江利チエミさんがいかに雅でインターナショナルでジャパン・プライドをくすぐる痛快なエンターテイナーであるかと言うことです。  

Q:江利チエミの音楽を認識したのは、いつ、どんなタイミングですか?
A:もともと自宅に「チエミ・アンド・ザ・デルタ・リズム・ボーイズ」というLPがあって、幼少時代からそれをほぼ毎日聴いていた。
「テネシー・ワルツ」から「さのさ」まで歌い上げる振り幅の広さとインターナショナルな世界観は子供心にもやられた! 

Q:若い年代の音楽ファン向けに、江利チエミの音楽の魅力を教えてください。
A:江利チエミの魅力は上記にある通り。とにかく日本にこんな素晴らしいミラクルなシンガーがいたということを知っていただきたい! 

「エキゾチック・ニュー・トーキョー」


https://chiemierikenyokoyama.lnk.to/8zGlWQcg

プロフィール

横山剣(よこやまけん)
歌手、作曲家、音楽プロデューサー。クールスRC、ダックテイルズ、CK’s などを経て、クレイジーケンバンドの中心メンバーとして、98年にアルバム『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』で本格的にデビュー。CMやテレビ・ドラマへの楽曲提供、他アーティストとのコラボレーションも多数。2025年9月に25枚目のフルアルバム『華麗』をリリースし、全国ツアー「華麗なるツアー2025-2026」を展開している。 


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  • 江利チエミ

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