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『KING MINYO GROOVE INVASION』田中克海(民謡クルセイダーズ)×DJ吉沢dynamite.jp×大石始(文筆家)鼎談:後篇
「KING MINYO GROOVE INVASION」シリーズは、キングレコードに残されたグルーヴ民謡の数々をDJ視点から発掘することをテーマとしており、世界的な和モノブームの立役者のひとりであるDJ吉沢dynamite.jpの監修のもと、定番から珍盤までグルーヴ重視の民謡音源の配信/サブスク化が進められている。
その吉沢と民謡クルセイダーズの田中克海、文筆家の大石始という三者による鼎談を企画。前半ではグルーヴ民謡の背景にあるものについて語り合っていただいたが、後半となる今回は、全4回にわけて配信された「KING MINYO GROOVE INVASION」シリーズの音源を実際に聴きながら、より深くグルーヴ民謡の世界に足を踏み入れてみたい。
文:大石始 / 写真:松永樹 / 協力:World Kitchen BAOBAB
2025.12.26
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――2025年9月にスタートした「KING MINYO GROOVE INVASION」シリーズですが、9月24日に第1弾として10タイトルが配信開始されました。まずはこのなかから注目タイトルを聞いていきましょうか。
吉沢:とりあえず、目についたこれからいきましょうか。三橋美智也と東京キューバン・ボーイズの『三味線リサイタル』(1963年)。
――これは有名盤ですね。
田中:そうですね。ビッグバンドに三橋美智也が演奏する三味線を乗せているわけで、音量バランスで言ったらめちゃくちゃなことになってるんですけど、それがまたいいんですよね。
吉沢:このなかでいえば「佐渡おけさ」をよくかけてるね。
――このアルバムは全曲インストですよね。三橋美智也という昭和を代表する大歌手のレコードでありながら、その歌唱を温存して全編三味線だけを聞かせるというのが贅沢です。では、その「佐渡おけさ」を聴いてみましょうか。
田中:これ、どうやって録ってるんでしょうね。モニタリングとかどうしてるのかな?
――三味線もばっちり入ってて、いま聴いても音のバランスがいいですよね。
田中:ミキシングは大変だったと思う。
吉沢:たぶん一発録りだもんね。
――三橋美智也の三味線も素晴らしいけど、この曲はイントロからしてもろに東京キューバン・ボーイズって感じですよね。
田中:これをひとつの作品にまとめ上げる時代の勢いを感じます。このアルバム、好きですね。
――三橋美智也はこの他にも3タイトルが配信されています。シングル「THE TOMBI/BYE BYE HORSE」、それと『激! MITCHIE~三橋美智也もう一つの世界~』『盆踊りディスコ』というアルバムが2枚。
吉沢:ディスコ化したミッチーだよね。
――3タイトルとも1979年に出てるんですが、その前年からラジオ関東の「電撃わいどウルトラ放送局」っていう番組のディスクジョッキーを三橋美智也がやっていたらしいんですよね。若者の間でミッチーブームが起きるなかリリースされたようです。
田中:そうなんだ。だから、突然ディスコ化したんですね。時代に寄り添ってるよね。
吉沢:配信第1弾の10作品でいえば、一番推したいのはこれかな。東京アカデミー混声合唱団の『日本のうたによるコーラス・ビッグ・デモンストレーション』(1971年)。東京キューバン・ボーイズにも参加していた福井利雄がアレンジをやってます。
田中:これはいいですね。今回のシリーズのなかでも一番刺さりました。
吉沢:これは「田原坂」を聴いてほしいです。さっき話していたオーディオ・チェックのレコードに入ってて、そこで気づいたんだよね。「このかっこいいのは何だ?」って。
――では、その「田原坂」を聴いてみましょうか。
田中:おー、かっこいい!
吉沢:このアルバムでいえば、「田原坂」のほかに「木やりくずし」もオーディオチェック用レコードに入っていて、そっちもかっこいいんだよね。オーディオチェック用のレコードって
見つかればかなり安く手に入るんだけど、これ(『日本のうたによるコーラス・ビッグ・デモンストレーション』)を探そうと思うと結構高いと思う。
――「田原坂」も「木やりくずし」もすごいですね。合唱とグルーヴィーなバックが組み合わさっていて、異形のかっこよさという感じがします。
田中:もはやジャンルがわからないですよね。フューチャー感さえ感じる。
吉沢:その流れで軽く触れていいですか? コーラスものでいくと、東京少年合唱隊の『歌はリズムにのって ぼくらのレパートリーから Vol.4』(1968年)。これもいわゆるちびっ子コーラスものなんだけど、1曲目の「こきりこ節」がすごいんですよ。
――おー、イントロからグルーヴィーでかっこいいですね。
吉沢:曲の途中でドラムとコーラスだけになるんだけど、そこがいいんだよね。パラで音があったら、ドラムを少し目立たせたりエディットすることで、もっとかっこよくなるんだけど。
田中:サンプリングポイントが散りばめられてる感じですよね。かっこいい!
――これはどんな方がアレンジをやってるんですか。
吉沢:藤家虹二っていうジャズ系のプレイヤー/アレンジャーで、コージーポップスっていうオーケストラもやってたんだよね。キングの専属ではないけど、他のちびっ子系レコードでもかっこいいアレンジをしてます。
田中:今までこういう合唱系って少し手を出しにくいジャンルだったんですけど、いま聴くとスピリチュアル・ジャズみたいな雰囲気もあるし、結構熱いですね。カマシ・ワシントンというか、ドン・チェリーやサン・ラーの雰囲気がある。
――確かに絶妙に今っぽいですよね。
吉沢:リズムが立っていると、全然今の音楽として聴けちゃうよね。
――第1弾の10枚だけで結構喋っちゃってますね。第4弾まで話が辿り着くのか…。
吉沢:グルーヴ民謡的には第1弾と第2弾に重要作が集まってるからしょうがないよ。ピンキーとキラーズ(の1970年作『ピンキラの民謡お国めぐり』)もかっこいい曲が入ってるんですよ。(と、「ソーラン節」をかける)
――わ、すごい!
吉沢:これは寺内タケシがギターを弾いてるの。
田中:このピッキングは寺内だよねえ、めちゃくちゃかっこいい。演奏がぶ厚いですね。
吉沢:当時のポップスターが民謡に取り組んだレコードで、これは名盤だと思うね。今聴いてもイケてると思います。
――では、第2弾にいきましょうか。10月29日に8作品がサブスク化されたわけですが、どれからいきましょうか。
吉沢:まずはダークダックスの『ダークの若い民謡』(1965年)かな。1曲目の「鹿児島おはら節」がいいんですよ。
田中:これはジャケもかっこいいっすよね。この辺のコーラスものもおもしろいですよね。
吉沢:これに入ってる「金毘羅船船」がツイスト調でかっこいいんだ。途中から歌が倍速になるんですよ。
田中:これもいいですね!
――当時の人たちにも新鮮に聴こえたでしょうね。当時は誰もが知ってる「金毘羅船船」がこんなアレンジになっちゃうのか、と。
田中:ね! アレンジ、すごいもんね。かなり練られた演奏だし。
吉沢:民謡のソフトロック化というかね。
――次はどれを聞きましょうか?
吉沢:これは必ず触れたいんですよ。ザ・ピーナッツの『お国自慢だ!ピーナッツ』(1970年)。リリース当時、8トラックのテープしか出てなくて、1998年になって初めてCD化された作品です。要はアナログになってないし、しかもサブスク化もされてなかった。フランスからコンピ(『Minyo Groove 1963-1979 – Japan Meets Latin, Rock, Rare Groove & Funky Vibes』)を出すとき、「おはら節」を入れさせてもらいました。これは1曲目の「ちゃっきり節」もいいんだよね。
――このアレンジは最高ですね。アレンジャーは誰ですか?
吉沢:宮川泰だね。このアレンジ、すごいよね。完成度がめちゃくちゃ高い。
――ピーナッツの『お国自慢』シリーズって60年代も何タイトルか出てますよね。あのレコードと比べると、70年代に入ってるから音がモダンになってますね。
吉沢:そうなんだよね。70年代に入るともうちょっとドラムが目立ってくるし。『お国自慢だ!ピーナッツ』からもう1曲かけるとすれば、ボッサロック調の「おてもやん」。
――うわっ、かっこいい。
吉沢:これもドラムがいいよね。ベースもしっかり入ってるし。
田中:アレンジがリッチでいいですねえ。
吉沢:『お国自慢だ!ピーナッツ』はどの曲もいいんですよ。LP化してもいい気がしますけどね。これはおすすめです。
田中:そういえば、これも気になりますね。サラ・アンド・メロディの『サウンド・オブ・パシフィック』(1970年)。
吉沢:このレコードしか出してない2人組で、歌詞は英語。これはね、レコードを見てほしくて…(と、スリーブからマーブル盤のレコードを取り出す)。
――おお、美しいですね!
田中:当時、これで出てたんですか?
吉沢:そうそう、これで出てたの。1曲目がシングルカットされてるんだけど、それがいいんだよね。いわゆる和モノDJの中では昔から有名で、オールドスクールの和モノDJの方々はかけてたと思う。
――ビートルズの「Day Tripper」みたいなイントロですね(笑)。
田中:ジャケットはクリームの『Disraeli Gears』みたいだし(笑)。
――これ、民謡なんですか? オリジナルがわからない…。
吉沢:「ヤギブシ・ラットマン」、「八木節」だね。
田中:「八木節」なの?! 英語で歌われると全然わからないですね。
吉沢:これの「木曽節」もラテン・ジャズっぽくていいんだよ。ブレイクがかっこよくて。
田中:バンドのキレがすごいですね。ムーグみたいな音も入ってる! サイケですね。
吉沢:バックの演奏には石川晶も参加してるみたいね。アレンジは赤星健彦という人。
――ちょっと調べたんですが、赤星健彦さんは雑誌「PLAYER」を発行していたプレイヤー・コーポレーションの前身会社の代表らしくて。日劇小劇場の音楽監督やポリドールの専属作曲家だったこともあるようですね。
吉沢:この人がアレンジしたものってあんまり出てこないんだよね。このレコードの「ソーラン節」にもブレイクがあるんだけど、音作りがちょっと変わってるの。フランスからコンピを出すときにこの曲をセレクトしてたんだけど、レーベル側とちょっと話が合わなくて。
――それはなぜだったんでしょうね。
田中:英語詞だからかな?
吉沢:それはあるかもしれない。サラ・アンド・メロディを外して、その代わりにさっき紹介した三橋美智也の『三味線リサイタル』の収録曲を推薦したら一発OKでね。そういうことか、と。
――やっぱりエキゾチックなものを求めているわけですね。

スタッフ:では、そろそろ時間なので…。
――えっ、そうなんですか? まだ第3弾と第4弾も紹介できてないんですが(笑)。せめて第3弾の江利チエミだけは触れておきましょうか。
吉沢:鼎談の前半でも触れたけど、江利チエミの民謡アルバムをかけるDJは多いよね。ただ、同じ曲がいくつかのレコードに入っていたり、同じ曲でも時代によって新しく録音されていたり、いろんなヴァージョンがあって、ちょっと注意が必要かもね。たとえば、「八木節」にしても時代によってさまざまな「八木節」があるんですよ。
――なるほど。それによってアレンジも違うし、録音やミックスも違う。
吉沢:そうそう。東京キューバン・ボーイズが演奏しているものもあれば、キング・シンフォニーもあって。
田中:時代によってちょっとずつヴァージョンアップしてるんですね。
吉沢:俺的にはですね、江利チエミで一枚選ぶとすれば、ほとんど新録曲が入った『チエミの民謡デラックス』(1968年)。
――江利チエミとなると、克海さんも思い入れが強いですよね。
田中:そうね。やっぱり50年代末から60年代頭にかけての10インチ。なかでもこれ(1960年作『チエミのムード民謡 チエミの民謡集 第3集』)の「奴さん」ですね。あとはこれ(1958年作『チエミの民謡集』)の「串本節」。DJをするときは100パーセントかけます(笑)
吉沢:『黒髪』っていう1974年のアルバムもいいんだよね。70年代なので音質もクリアになってるし、新録がほとんど。
田中:内容は結構グルーヴィーなんですか?
吉沢:そうだね。ちょっとボッサロックっぽいものもあるし、ラテンぽいものもある。「八木節」も結構ファンキーです。
――『黒髪』って江利チエミの音源のなかではちょっと見過ごしがちな作品ですよね。
吉沢:そうかもね。でも、結構DJライクな曲もあるんですよ。
――最後のほうはかなり駆け足になっちゃいましたけど、「グルーヴ民謡」というテーマで掘っていくだけでもかなり掘り甲斐がありますね。ディスカヴァーできる民謡の世界は本当に広い感じがします。
田中:そうですね。日本でも洋楽を取り入れながら新しいものを作ってきたわけで、すごくおもしろいカルチャーだと思いますね。音源を掘り起こすという作業を通じて、自分たちで音楽地図を作っていくようなところもあると思うんですよ。
吉沢:本当にそう。今回配信された音源は、どれも当時のトップクリエイターたちが「民謡をどうにかしてモダンに、カッコよく聴かせよう」と試行錯誤した結晶なんですよね。これを機に先入観を捨ててこの「民謡グルーヴ 」を今の感覚で面白がってほしい。掘れば掘るほど、新しい発見があるはずだから

KING MINYO GROOVE INVASIONシリーズは2025年9月の第1弾、10月の第2弾に続き、11月には第3弾として近年再評価の機運が高まっている江利チエミの民謡作品群が一挙配信された。戦後まもない時期、まだ十代だった江利チエミは米軍キャンプやクラブを回りながらアメリカ直輸入のジャズ文化を直に吸収し、進駐軍のアイドルとなっていく。
デビューシングルはチエミの代名詞ともいえる「テネシーワルツ」(1952年)。以降、チエミは持ち前のリズム感の良さと天性の歌声でスター街道を突き進む。1956年の映画『恐怖の空中殺人』での共演をきっかけに高倉健との交際が始まり、まさに公私ともに絶頂期にあった1958年には民謡シリーズ第1弾となる『チエミの民謡集』がリリースされている。見砂直照率いる東京キューバン・ボーイズの軽快なラテンリズムに乗りながら、「相馬盆唄」「おてもやん」など民謡の有名曲をテンポよく歌い上げていくチエミの歌唱は絶好調。戦前から続くジャズの文化と、暮らしのなかで親しまれてきた民謡~流行り歌の文化。そのふたつが渾然一体になったチエミの民謡集シリーズには、時代を超えたおもしろさがある。
なお、チエミの父である久保益雄は吉本興業所属のミュージシャン/バンドマスターであり、初代・柳家三亀松のピアノ伴奏を務めるなど、江戸由来のさまざまな芸能にも精通する人物であった。チエミもまた、幼少時代から三味線や江戸の流行り歌に触れており、『チエミの民謡集』から始まる民謡シリーズには、彼女のなかに流れ込むさまざまな文化からの影響がナチュラルに表現されている。
さて、KING MINYO GROOVE INVASIONシリーズは11月の江利チエミ特集に続き、12月末には第4弾となる12タイトルが配信された。これまでの3回では「グルーヴ民謡」というテーマのもと、リズムに重点が置かれた作品群がセレクトされてきたが、第4弾は「グルーヴ民謡のその先」が念頭に置かれている。その一部を紹介しておこう。
薗田憲一とデキシー・キングの『デキシー民謡』(1963年)は、ニューオーリンズ発祥のディキシーランド・ジャズのスタイルで民謡を演奏した異色作。薗田憲一とデキシー・キングスは1960年に結成され、リーダーの薗田憲一の没後も活動を続ける老舗楽団だ。結成初期のフレッシュな演奏により、お馴染みのメロディーが軽やかに演奏されている。
斎藤英美とファンタスティック・エコー『エレクトーンによる日本民謡集』(1964年)も注目の一枚である。1933年生まれの斎藤英美は、日本における電子オルガン~エレクトーン奏者の第一人者。ポップスからムード音楽、クラシックや童謡まで大量の作品を残しているが、本作はエレクトーンによる民謡集だ。イージーリスニングのニュアンスも強いが、どことなくマーティン・デニーのようなエキゾチカの匂いも感じさせる。
この『エレクトーンによる日本民謡集』がリリースされた1964年は、東京オリンピックが開催された年でもあった。時代の節目となるこの年、自身の足元を見つめるかのように「日本」をテーマとするさまざまな作品がリリースされた。キングレコードのお抱えオーケストラであるコンセール・ロマンティカによる『コーラスとオーケストラで綴る 日本の民謡』(1964年)、『日本の郷愁(NOSTALGIC FANTASIES OF JAPAN)』(1965年)という2作品からは、そうした時代のムードを嗅ぎ取ることもできるだろう。
戦後、闇雲に経済発展の道を突き進んできた日本は、70年代に入るとノスタルジックな田舎の風景に目を向けた国鉄のキャンペーン「ディスカバー・ジャパン」に象徴される懐古ムードに包み込まれていく。ペギー葉山による2作品『ふるさと 西日本篇』(1972年)と『ふるさと 東日本篇』(1972年)は、「ディスカバー・ジャパン」時代の日本人が民謡に対してどのような眼差しを向けていたのか、非常にわかりやすい形で伝えるサンプルとも言えるだろう。
「KING MINYO GROOVE INVASION」はこの第4弾でいったんシーズン1が終了することになるのだという。だが、すでにシーズン2の準備が始まっているようで、その計画を聞いて驚いてしまった。キングレコードのアーカイヴは貴重な音源の宝庫である。民謡にかぎらず、いまだ埋もれている宝たちに陽の目があたることを大いに期待したい。
KING MINYO GROOVE INVASION playlist vol.5 by Hajime Oishi

KINGグルーヴ民謡プレイリスト第5弾 selected by 大石始
大ヒット中ディスコグラフィ書籍「和モノAtoZ」著作者で有名なビッグネームDJ、”DJ吉沢dynamite.jp”監修、選曲によるKINGグルーヴ民謡名盤のサブスク/配信化シリーズ「KING MINYO GROOVE INVASION」プレイリスト第5弾は、地域と風土をテーマにする文筆家「大石始」が登場!幅広い引き出しからの独自性あるセレクションが光る!全世界の好奇心旺盛な音楽リスナーに向けて「MINYO」がますます躍動する!
URL: https://lnk.to/kmgi_pl_5

















