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『KING Jazz RE:Generation』尾川雄介(UNIVERSOUNDS)×塙 耕記(JUDGMENT! RECORDS)”KING JAZZ”対談:完結篇

KING JAZZのおもに戦後以降の膨大なカタログを可能な限りディグし配信・サブスク化する長期的プロジェクト「KING Jazz RE:Generation」(2024年10月スタート)、を記念しての大物対談が実現。いずれも国内ジャズ界で優れた有識者であり『和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s』の共著者でもある尾川雄介氏(UNIVERSOUNDS)、塙 耕記氏(JUDGMENT! RECORDS)にKING JAZZについて熱く語っていただいた。3回にわたる連載のうち今回はついに完結篇である。

インタビュー・文:原田和典 / 写真:松永樹

2025.2.13

本対談の前篇中篇とあわせてお楽しみください。


— 前回は村岡実さんが中心となった1978年の作品『メモリーズ・オブ・チヨ』の楽曲を皆で聴きました。村岡さんとキングレコードというと、1970年に「ニュー・エモーショナル・ワーク・シリーズ」(NEWS)から登場した『バンブー』がよく知られています。

塙耕記 この「ニュー・エモーショナル・ワーク・シリーズ」が、ちょっと若いDJとかコレクターみたいな人に一番響いたんですよね。

尾川雄介 「ニュー・エモーショナル・ワーク・シリーズ」はこの『バンブー』があって、横田年昭とビート・ジェネレーションの『フルート・アドヴェンチュアー 太陽はまだ暑く燃えていた』があって、猪俣猛とサウンド・リミテッドの『イノセント・カノン』等もあるんですよ。

— なんと攻めたラインナップなのでしょう。

尾川 『バンブー』に関してはアメリカのヒップホップ世代、例えばDJシャドウとかイーゴンとか、ああいう連中が大好きで、イーゴンが自分でエディットして7インチにしてDJデビューしました。DJシャドウが店(高円寺「UNIVERSOUNDS」)に来たときも「『バンブー』はないか」と聞かれましたね。あの周りで大きな話題になってそこから広がっていきましたし、もちろんジャズロック的アプローチやレアグルーヴ的アプローチもありました。彼らが日本のジャズを面白がるひとつに、「楽器」があると思うです。「すごいドラムの音が聴こえてくるけど、これは実は和太鼓だった」とか、本当に興味深いと思うんです。

 海外の人からしたら、このあたりの音に関しては初めて聴く感覚だったんじゃないかと思います。衝撃が強くて、ジャズとしてどうのというよりも、まず「なんだこれは」という感じでしょうね。

尾川 「ニュー・エモーショナル・ワーク・シリーズ」は、世界的に広がっていったシリーズでしょうね。『イノセント・カノン』もすごいですよ、猪俣猛と加納典明の組み合わせですから。

— このアルバムは衝撃でした。写真家の加納さんがナレーションで入っている。特にジャニス・ジョプリンに捧げたらしき「葬」にはびっくりしましたね。ジャニスが亡くなってから4か月後の録音で、すごく生々しいです(1971年2月21日)

尾川 恐らく加納典明は一発録りで、その感じが最高なんですよね。当時の文化の匂いのするレコードというか、僕はそういうのが大好きなので。

— 猪俣さんは先日お亡くなりになりましたが、大変な追悼盤になると思うんですよ。訃報を聞いて最初に思い出しましたね、これは破格のレコードだったなって。

尾川 (オリジナルLPに付属されている見開きインサートを開く)このデザインも本当にすごいです。

 本当に尖ってますよ。

尾川 加納さんがまだ「のりあき」と名乗っていた時期です。ナレーションというか、アジテーションですね。

— まだ「てんめい」ではなかった時代の、気鋭の頃の加納さんをいち早く起用したのも尖っていると思います。猪俣さんも考えれば考えるほどすごい方で、キング・ジャズ・シリーズでいうと『ミッドナイト・イン・トウキョウ 第3集』(57年)や『渡辺晋とシックス・ジョーズ』(58年)で演奏していたドラマーが、その約15年後の『イノセント・カノン』ではこんなに激しいロックをやっている。時代の風を受けたかっこよさを感じます。

尾川 このレコードに参加しているギターの水谷公生さんにも「水谷さんが入っているレコードならすべて欲しい」という熱烈なファンがいらっしゃいます。

 水谷さんは当時ニュー・ロックというワードでくくられていた音楽の最重要ギタリストですね。

 この後、水谷さんはキャンディーズの「年下の男の子」や「春一番」に関わるのですから、それもすごくかっこいい。

続いて第4期以降に話を進めたいのですが、こちらはだいたい70年代後半から80年代半ばにかけての作品です。鈴木勲さん、富樫雅彦さんの作品が多くて、ジョージ川口さんがフュージョンに挑戦した作品もあります。

尾川 鈴木勲さんの作品固め打ちは「KING Jazz RE:Generation」の中でとても重要だと思います。鈴木さんはスリー・ブラインド・マイス(TBM)から作品を出して、イースト・ウィンドからも出して、転々としながら、キングレコードのパドル・ホイールからも何枚も出した。フュージョンであったりとかジャズ・ファンクであったりとか、全部いい作品なんですが、その中でも全部ひとりで多重録音した『自画像』は特に近年評価も高くて、僕自身も聴けば聴くほど良い作品だと思っています。80年代の鈴木さんでは、ダントツでクオリティも人気も高い1枚です。

 (うなずく)

 塙さんは以前から鈴木さんの演奏がお好きで、以前から「こんな独特の音を出す人は他に絶対いない」とおっしゃっていました。

 そうですね。ちょっと電話で話したことがありますが、人間的にも相当すごい、尖った方でした。『自画像』のLPが店(東中野「JUDGMENT! RECORDS」)に入荷した時は、問い合わせがすごかったです。

尾川 鈴木さんは本当に人気がありますね。すべての作品に人気がある人は実は珍しくて、とても有名なミュージシャンの場合でも、作品の人気にはバラツキがあるのが普通です。

  第4期には鈴木勲さんや山本剛さんがいて、TBMのその後みたいな感じもしますし、鈴木さんのバックアップでデビューしたフルートの小宅珠実さんの作品がまとめて復活するのも朗報です。

尾川 小宅さんは『タマミ・ファースト』からたくさんの作品をキングレコードに残しています。当時ヒットしていたのでしょうね。

 モダンジャズのインプロヴィゼーションを本当にガッツリできる、今も現役のフルート奏者です。続く第5期には、富樫雅彦さんの意欲的な作品がたっぷり含まれています。

尾川 本当に快挙だと思います。富樫さんは60年代から大活躍なさって、その後も変わらない姿勢で多くの作品を出し続けた。富樫さんや鈴木勲さんの作品をこれだけまとめて出したのはキングレコードの素晴らしい功績です。

 85年の『フォロー・ザ・ドリーム』は、CDが広まり始めた頃だというのに、LP2枚組のみの発売で売価が5000円でした。佐藤允彦、翠川敬基、中川昌三との初代“富樫雅彦カルテット”のリユニオンに、吉田哲司、安田伸二、佐藤春樹、梅津和時などの元“生活向上委員会大管弦楽団”組もいて、さらに高柳昌行も加わって、ドン・チェリーの曲などもやっているのですが、とにかく中古市場で見当たりません。

 僕は、富樫さんのパドル・ホイール時代のもので言うと、高柳昌行さんとの『パルセーション』、スティーヴ・レイシーとの『エターナル・デュオ』といった2つのデュオ作品をOEM(Original Equipment Manufacturing)でCD化したことがありますが、CDになると途端に市場からは見えづらくなるところはあるんです。

尾川 塙さんのお店はCDも取り扱っていらっしゃいますが、僕はほぼレコードしか売らないですし、中古市場もレコードしか見ていない。『フォロー・ザ・ドリーム』あたりが富樫さんのレコードで出た作品としては割と最後の方になるんでしょうね。

 清水靖晃とサンバ・フラメンカ『晩夏ーサンバ・フラメンコの波ー』(3/19 配信予定)、僕は初耳です。これはなんですか?  79年の作品ということは、キングのフュージョン・レーベル“エレクトリック・バード”からの『ファー・イースト・エクスプレス』や、ユピテルレコードの『マライア』等と同時期ですね。

尾川 フラメンコ・ダンサーの長嶺ヤス子さんの舞台を見たプロデューサーが、フラメンコ、サンバ、ジャズがクロスオーバーした音楽をレコードにしたいと思い立って、音楽プロデューサーに清水さんを迎えて作った作品らしいです。スペイン、ブラジル、日本からメンバーが集まっていて、音楽的にもいろいろ混ざっている交差点的な感じですが、清水靖晃色もちゃんとあって、とても面白いアルバムだと思います。

 79年にはパウロ・モウラ、エリス・レジーナエルメート・パスコアールなどが来日していますので、日本でブラジル音楽の何か一つのムーブメントがあったのでしょうね。調査心をくすぐります。

それにしても「KING Jazz RE:Generation」を通じて改めて感じたのはキングレコードの作風の幅広さ、そしてメジャー・カンパニーだからこその豪華さと大胆さです。50年代には江利チエミ春日八郎、60年代にはザ・ピーナッツ寺内タケシ、70年代には布施明、80年代には銀蝿一家中山美穂がガンガンヒットを出していますので、キングレコードの中で「ポップスの利潤」と「ジャズの企画制作」がどのように関係していたのか、そちらを知りたくもなってきました。メジャー・レーベルだからこそ、冒険ができたところがあると思うんです。

話は尽きませんが、改めて尾川さん・塙さんのおすすめ盤と、SOUND FUJI読者へのメッセージをお願いいたします。

尾川 この対談の第1回目で「50年代からのキングレコードのジャズを改めて聴いた」という話をしましたが、秋吉敏子さんの1961年の『トシコ旧友に会う』、あのアルバムの特殊性はすごいです。

 あれは本当に特別。

尾川 50年代以降の流れで聴いてきて、いきなりとんでもないものが出てきた感じです。日本で初めてモードジャズが作品化されたものが『トシコ旧友に会う』と言われていますが、桁が違う。三保敬太郎さんや前田憲男さんが何か新しいことに取り組もうとしていて、次に何か来るかというその先のものを、アルバムで全て形にしてしまった感じがします。ここを起点にすると60年代にも繋がっていくし、50年代の方にも逆に繋げることができると思いますし、結構いろいろな方向でキングレコードのジャズを楽しんでいただけると思います。

 通常なら横田年昭とビート・ジェネレーションの『フルート・アドヴェンチュアー 太陽はまだ暑く燃えていた…』とか白木秀雄の『プレイズ・ボッサ・ノバ』は絶対外せない名盤なのでぜひ聴いてほしいですが、あえて今回は、第1回目で話した『ミッドナイト・イン・トウキョウ 第3集』の、MCを含む1曲目を聴いてほしいです。本当にこういう楽しみ方は他にないので。あとひとつ、僕は最近オーディオが大好きになって、すごく音がいいレコードということでは鈴木勲の『自画像』のオリジナル盤の音質にゾクッと来ました。皆さんが探す気持ちもわかりますが、CDも廃盤になっていますし、今回のサブスク化は本当に朗報だと思います。

尾川 キングレコードにはいろんな意味で振り切れている作品が多いですよね。「KING Jazz RE:Generation」を通じて、ぜひいろんな時期の和ジャズを楽しんでいただきたいと思います。

ARTIST

  • 村岡実

    MINORU MURAOKA

  • 横田年昭

    TOSHIAKI YOKOTA

  • 猪俣猛

    TAKESHI INOMATA

  • 渡辺晋

    SHIN WATANABE

  • 鈴木勲

    ISAO SUZUKI

  • 小宅珠実

    TAMAMI KOYAKE

  • 富樫雅彦

    MASAHIKO TOGASHI

  • 清水靖晃

    YASUAKI SHIMIZU

  • 秋吉敏子

    TOSHIKO AKIYOSHI

  • 白木秀雄

    HIDEO SHIRAKI

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