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『KING Jazz RE:Generation』尾川雄介(UNIVERSOUNDS)×塙 耕記(JUDGMENT! RECORDS)”KING JAZZ”対談:中篇

KING JAZZのおもに戦後以降の膨大なカタログを可能な限りディグし配信・サブスク化する長期的プロジェクト「KING Jazz RE:Generation」(2024年10月スタート)、を記念しての大物対談が実現。いずれも国内ジャズ界で優れた有識者であり『和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s』の共著者でもある尾川雄介氏(UNIVERSOUNDS)、塙 耕記氏(JUDGMENT! RECORDS)にKING JAZZについて熱く語っていただいた。3回にわたる連載のうち今回は前月に続きその第2回目、中篇である。

インタビュー・文・構成:原田和典 / 写真:松永樹

2025.1.22

尾川雄介 今日ぜひ聴いてもらいたいと思ったのが、『ジャズ・メッセージ・フロム・トウキョウ』(57年)というアルバムに入っている「スピーク・ロウ」です。高柳昌行さんが参加した演奏なのですが、「なにかすごいものを聴いてしまった、何をやっているのだろう」という感じなんです。

(皆で聴く)

塙耕記 レベルが高いなあ・・・

ジャズ・メッセージ・フロム・ トウキョウ

— ふたつのメロディが絡み合って同時に進行しているような感じですね。高柳さんやヴィブラフォンの杉浦良三さんはこんな意欲的な演奏をナイトクラブでもやっていたということでしょうかね? 当時はモダンジャズ専門のクラブはなかったはずだし、お客さんはポカンとしていたのではないでしょうか。そもそも、「キング・ジャズ・シリーズ」の企画そのものに、すごく思い切ったところがあると僕は思うんです。78回転のレコードや10インチLPがまだ主流だったころに、12インチLPを出すだけでも英断だったのではないでしょうか。

尾川 しかも初期は見開きジャケットです。

— 世に問う姿勢が、むちゃくちゃハイブラウですよ。

塙 その間に、『渡辺晋とシックス・ジョーズ』のような10インチ盤も混ざります。

NOPA-5936_SHIN WATANABE’S SIX JOES

— より芸能的、大衆的なものは、価格も安く設定できる10インチ盤で聴いてもらおう、ということなのでしょうか。

尾川 今回「KING Jazz RE:Generation」のためにいろんな作品を聴いて改めて思ったのは、「キング・ジャズ・シリーズ」の音の良さです。

塙 これまでレコードで聴いていたものを今回サブスクで聴いたんですが、遜色がないのもいいです。50年代、60年代、70年代と、もちろん違いはあるんですけど、すごく音質が良い。



— エンジニアには、おそらくキングが提携していたドイツ・テレフンケンやイギリス・デッカといったレーベルからの影響もあるのでしょう。さらに59年からはアメリカのコンテンポラリー・レコードの国内盤もリリースしますし、そのあとはコマンド・レコードも出している。音のいい海外レーベルの音を聴いて、キングの技術陣が貪欲に吸収したところがあるのではと思います。

2024年の11月13日から配信されている第2期では、白木秀雄さんが大きくフィーチャーされていますね。一時期ほとんど封印同様だった彼の作品が、『和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s』刊行の数年前からディスクユニオンのThink!レーベルで続々と復刻されて、しかも海外でも支持された。

塙 白木さんは音楽だけじゃなくて芸能とも結びついた大スターです。『プレイズ・ボサノヴァ』を聴くと、ハードバップとはちょっと変わったアプローチを見せていて、DJで使えるような曲があったりとか・・・Think!で紙ジャケのCDを出す前は、自分でジャケットを複写して“紙ジャケ化”したことがあるほど思い入れのある作品ですね。(リストを見て)あと、『八木正生“セロニアス・モンク”を弾く』も本当に好きな作品で、この時代(1960年)にこんなに真剣にセロニアス・モンクに取り組んだ日本人がいるんだと感動しました。これは本当にもう、もう5万円とか6万円とか払っても、オリジナル盤を買いたいと思っていたんですが、その値段では綺麗な盤は買えないんですよ。



— そのくらい、このアルバムは求められている。八木さんの作品は、晩年の『インガ』(78年)も今回のラインナップに入っています。

尾川 八木さんはもちろん、日本のモダンジャズの黎明期からいらっしゃる方で、『八木正生“セロニアス・モンク”を弾く』を聴いてもお分かりの通りすごいミュージシャンなのですが、意外なほどリーダー・アルバムが少ないんです。60年代半ばぐらいから映画やテレビの方の音楽を手がけるようになって、突如として現れたリーダー作が『インガ』。サウンド的には、いわゆるクロスオーヴァーと言われるところもありますが、作曲と編曲に関しては、『“セロニアス・モンク”を弾く』から時代を経て、そのままこの才能を爆発させると、こういうものになるのかという驚きがあります。ご自身をどんどんアップデートして、その時代に出すべき音をわかった上で、ジャズに取り組んでいる。「今、ジャズをやるというのはこういうことなんだ」という八木さんの時代に対する答えのような一枚だと思います。

(ここで尾川さんおすすめの「ブロッサム・イン・ザ・ウォーター」を聴く)

塙 かっこいい。



— ウッド・ベースにエフェクターをかける稲葉国光さんは初めて聴きました。ジャケットは和田誠・画なので、映画『怪盗ルビイ』にもつながっていきますね(※88年公開。監督&脚本・和田誠、音楽・八木正生、出演・小泉今日子、真田広之)。

尾川 この『インガ』を含む当時のキングレコードの「ニュー・エモーショナル・ジャズ・シリーズ」がまた、充実しているんです。

塙 このLP(オリジナル盤)はどんどん値段があがっています。それでもある時期まではたまに見かけていたんですが、最近は全然見なくなりましたね。

— あと、今回の第2期では、僕は『原爆小景/林光合唱作』が目玉のひとつだと感じました。広島で被爆した原民喜の詩に、林光が曲を付けた組曲のレコード化です。前回の対談でも触れた『マメールロア』同様、なかなか復刻されなかった高柳昌行ワークスです。

尾川 僕は存在を知っていただけで、現物を持ったことがありませんでした。今回、マスターがキングレコードに保管されていたので、サブスクという形で復刻されることになりました。いわゆるジャズアレンジの収録は1曲ですが、いろんな表現方法を使ってみようという中にジャズアレンジもあったのでしょう。

塙 僕は前の会社のときに1回だけ現物を手にしたことがあるかなあ…。

尾川 こういう機会だからこそ出すことができたというか、例えばこれがレコードやCDだったらジャンルはどこにするのとかってなるでしょうしね。

— 高柳さんのリスナーとしては、ここからTBM盤『メールス・ニュー・ジャズ・フェスティバル’80』に入っている「墓碑銘」(第五福竜丸乗船中に水爆実験の被害に遭い、“原水爆の犠牲者は、わたしを最後にしてほしい”との言葉を残して亡くなったと伝えられる久保山愛吉に捧げられた)に線を引いていくこともできます。

「KING Jazz RE:Generation」には、単なるアルバム・フォーマットのサブスク化だけではなく、レア・トラックを追加しての配信もありますね。そのひとつがTIME 5の『”雨のささやき”ジャスト・フィット・フィーリング!』です。

尾川 これをぜひ聴いてほしかったんです。もともと僕はファースト・アルバムの『ディス・イズ・タイム 5 THIS IS TIME5』が好きで、とにかく洗練されていて、コーラスワークはもちろん、彼ら自身の演奏もすごくて本当にびっくりしました。今のジャズ市場では、全体的にヴォーカルものは評価されにくい風潮があるように感じますが、TIME 5は今一度評価されてほしいなと思っていたところに、今回、ディレクターの奥村知行さんから「KING Jazz RE:Generation」のお話をいただいたので、日本語で歌っているシングルの「今夜は最高」も含めて、ぜひ紹介したいと思いました。

(「今夜は最高」を聴く)

尾川 ちょっとポップス寄りなんですが・・・

塙 TIME 5の特性を生かしながら、ポップスに寄せた感じです。そこがすごくいいというか、個人的に感じるところがありますね。

— 由紀さおりが東芝からリリースした「夜明けのスキャット」と同じく、作詞が山上路夫、作曲がいずみたく、編曲が渋谷毅。それをTIME 5が歌うのですから、洒落ているのも当然です。当時キングレコードと契約していたA&MやCTIに通じる感じがありますし、キングレコードの重鎮歌手であった江利チエミの「旅立つ朝」を思い出させてもくれます。

芸能寄りという点では、Think!から復刻されたことのある浜口庫之助さんの『僕だって歌いたい(+2) MR. HITMAKER’S SINGIN!』も「KING Jazz RE:Generation」シリーズに含まれていますね。

塙 粋ですよ、すごくかっこいい。ちょっと聴くと、すぐハマクラさんだとわかる独自の世界が広がっていて、すごい作家でもありますが、自分のアルバムは少ないでしょ。だからこうやってサブスクになるのは嬉しいですし、今回は本当にレアなシングルの「東宝映画「爆走」のテーマ ドライビング・ボサノバDRIVING BOSSA NOVA」も復刻されますから、ぜひ聴いてほしいですね。

— 12月11日から配信されている第3期では、いよいよ70年代の作品が大半を占めます。中でも異彩を放っているのが、はっぴいえんど小室等などの作品でも知られるベルウッド・レーベルのアルバムです。

尾川 今田勝、山下洋輔、ジョージ大塚、安田南、日野元彦などですね。70年代半ばの録音です。いわゆるクロスオーヴァー的なものが出てきた時期ですが、あえてちょっとそこに逆らうような作品が多くて、気概を感じます。しかも全部いいんですよ。しかも今田さんの『アセント』は2枚組のライヴです。

— 同時期にTBMに録音しながら、ベルウッドからも作品を出していたんですね。

塙 内容もすごくいいですよ。よくぞ当時、リリースしてくれたなという感じです。

— しかもベースの福井五十雄、ドラムの小原哲次郎は山本剛トリオのメンバーでもあった。

塙 人脈がクロスしていますよね。

— 1978年の作品『memories of CHIYO』は、今回のサブスク化で初めて知りました。

尾川 村岡実さんが中心となった作品です。「KING Jazz RE:Generation」のラインナップに入れたんですが、ロックと言われればロックだし、レゲエと言われればレゲエとして聴けるところもある、どこに入れてもおかしくないような音です。

塙 イージー・リスニングっぽいジャケットだし、メンバーを確認しなければ見逃してしまうかもしれません。

— 曲名も「夜明けの御堂筋」とか「彼女が愛した津軽」とか、なんなんだろうという感じです。

「彼女が愛した津軽」を聴く)

— テレビドラマの中でショーケン(萩原健一)や水谷豊が走ってくるような感じです。プロデューサーの加藤ヒロシさんは、グループサウンズ“ザ・リンド&リンダース”の方と同一人物でしょうね。このアルバムのキーボードは近田春夫さんで、一時期キング・クリムゾンにいたゴードン・ハスケルも参加していて。そういう意味でも、いろんなものが混ざってしまった面白さがありますね。

尾川 僕はこのアルバムが昔から好きで、フランスからコンピレーション・アルバム(『WaJazz: Japanese Jazz Spectacle Vol.2』)の話が来た時に、このアルバムからも選曲したのですが、向こうはレゲエ的なポイントを嫌がっていたみたいです。世界に日本のジャズを紹介するときに、これはふさわしくないという意見だったので、話し合った結果、納得できたので外しました。

第2弾、第3弾と続けば当然入れたいですし、日本のジャズへの認識がさらに進んだ現在、もう「ノー」とは言われないと思いますね。

— キングレコードのジャズには50年代、60年代、70年代と、その時代の空気とかトレンドみたいなのがちゃんと入っていて、だから我々のような後追い組にも十分にスリリングなところがあると思うんです。次回は第3期の続き、第4期について深追いしていきます。次回もお楽しみに!

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