JA

COLUMN

COLUMN

『KING Jazz RE:Generation』尾川雄介(UNIVERSOUNDS)×塙 耕記(JUDGMENT! RECORDS)”KING JAZZ”対談:前篇

KING JAZZのおもに戦後以降の膨大なカタログを可能な限りディグし配信・サブスク化する長期的プロジェクト「KING Jazz RE:Generation」(今年10月スタート)、を記念しての大物対談が実現。いずれも国内ジャズ界で優れた有識者であり『和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s』の共著者でもある尾川雄介氏(UNIVERSOUNDS)、塙 耕記氏(JUDGMENT! RECORDS)にKING JAZZについて熱く語っていただいた。3回にわたる連載のうち今回はその第1回目、前篇である。

インタビュー・文・構成:原田和典 / 写真:松永樹

2024.12.11

 

—- キングレコードが誇る歴史的なジャズ作品を配信する「KING Jazz RE:Generation」が10月9日から始まりました。反響はいかがでしょうか?

尾川雄介 とても大きいですね。この「KING Jazz RE:Generation」は1956年に始まった「キング・ジャズ・シリーズ」を起点としたシリーズですが、「50年代のジャズが現代ではどのように捉えられるのだろうか」という一抹の不安はありました。しかし、いざ蓋を開けてみるとジャズの面白味に興味を持ってくれた方も、昭和のひとつの文化としてアプローチしてくれた方もとても多くて、好評を実感しています。

—- 世代的にはどのような感じですか?

尾川 本当に老若男女です。僕が話を聞いた中では20代から60代まで、興味を持ってくれていますね。リアルタイムではない人たちが、「こういうのがあったんだ」と関心を持ってくれる。その中でちょっと興味深いなと思ったのは、例えば白木秀雄さんのようなスターに人気が集まるのはもちろんですが、例えば林伊佐緒さんの『林伊佐緒のジャズ民謡集』あたりも、すごく食いつきがいい。「狭い意味でのジャズというよりは、昭和のカルチャーとしての面白み」を感じている人がいっぱいいるんだなと今回よくわかりました。

—- 『林伊佐緒のジャズ民謡集』は「いかにも総天然色」という感じのジャケットも最高ですね。林さんは戦前からかなりハイカラな歌を歌う方でした。『ジャズ民謡集』というタイトルも、民謡クルセイダーズや、すずめのティアーズのファンからも注目されそうです。

塙耕記 東京キューバン・ボーイズの『Echoes Of Japan(日本旋律集)』や林伊佐緒のそれに興味を示す方は、大ベテランのリスナーよりもむしろ30代の方だと思います。私の店(JUDGMENT! RECORDS)に来る人を見ても、たとえば1950年代のジャズに関しても、自分がそれに関して抱いてきたものとは違う捉え方をしていて、そうした作品にとても良い反応をします。ほかに例をあげると、『ミッドナイト・イン・トウキョウ第3集』かな。実況中継のようなMCで始まるでしょ?

—- 60年代に加山雄三ショーの司会をした志摩夕起夫さんの名調子ですね。

塙 それをレコードでまず聴いて「こんなのがあるんですか!」と驚く人がいたりとか、ジャズ以外でも民謡系に着眼してるDJなどからも「KING Jazz RE:Generation」は注目されていますね。

—- 塙さんはディスクユニオン時代にThink!レーベルを通じてキングレコードのジャズ作品を数多く復刻なさってきましたが、今回のサブスク配信についてはどうお思いですか?

塙 びっくりしました。まさか自分が再発したことのある作品がサブスクでシリーズ化されるとは考えもつかなかったです。何となく名盤がサブスク化されていくんじゃなくて、きちんとまとまった形で出していくところは、キングレコードさんも尾川さんもさすがだなと思いました。再発が決まってCD化してサブスクという今までの流れじゃなくて、「まずはサブスクで出してから、その後でLPやCDの再発を考えていこう、まずはすべての音源を聴けるようにしよう」というのは画期的ですよ。

—- 同感です。盤で何度も再発されて売れ行きの良かったものだけをサブスク化するのではなくて、「なんだこれは」というものが、実にさりげなく混じっている。そこが楽しいですね。

尾川 今回サブスクとして、さまざまな時代の和ジャズが綺麗な音で並列に提示されました。本当にフラットな気持ちでしっかり聴いていくと、50年代のジャズの面白さと、そこから日本のジャズがどう続いていったかが、改めて見えてきました。すごく勉強になりましたし、めちゃくちゃ楽しい仕事ですね。


                                 尾川雄介

—- 尾川さんと塙さんはいつごろ親しくなったのですか?

塙 おそらく初めて会話したのは2006年のことです。私の中で日本のジャズのレコードを本にしたいという気持ちがあったのですが、一緒にやるなら尾川さんしかいないと思って、ディスクユニオンの新宿ジャズ館の2階で呼び止めたんです。

尾川 それは覚えています。自分も、もちろんやりたいと思っていましたし。この年は二人とも熱い気分だったから、「あくまでここで1回、形にしておかないと」とは思っていました。話し合ってから1年ぐらいに『和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s』が出たと思います。

塙 私の場合はけっこう歴史的に研究するタイプなんですが、和ジャズを聴くようになったのは20年ほど前からです。日本人のジャズに限らず、マニアックなレコードを集めるような廃盤コレクターからもいろいろ教えてもらいました。私は大型レコード店で働いていたので、いろんな作品に触れることができて、本当にコツコツコツコツ知識を貯めていったんです。渡辺貞夫さんのファースト・アルバム(『渡辺貞夫』)は、私が復刻する前から、キングレコードの盤で親しんでいました。私も白木秀雄さんのキング盤を初めてCDにしたり、紙ジャケにしたり、レコードで初めて復刻したりしてきましたが、尾川さんの視点のグルーヴ的なジャズも聴くようになって、自分自身の中でジャズというものの幅が広がりました。

—- その熱量が15年間続いたまま、今またサブスクで新しいファンを増やしていくであろうことは、とても素敵だと思います。それにしても、「出せるだけ出す」という姿勢は豪快ですね。

尾川 (担当ディレクターの)奥村知行さんから、「この辺をサブスク化する予定です」とリストをいただいて、僕の方でそこに付け足していった感じです。奥村さんの方でまとめていただきました。

—- マスター音源はキングレコード内に保管されていたのでしょうか。

奥村 はい。弊社は下町の方に大きな倉庫がありまして、そこでしっかり管理されています。CD化されていないまま、アナログマスターから今回サブスク(デジタル)化した作品もあるのですが、それもマスターテープをベイクしてデジタル化を進めているところです。

—- 文化遺産ですね。

奥村 そうですね。

—- 尾川さんは「UNIVERSOUNDS」、塙さんは「JUDGMENT! RECORDS」を経営なさっていますが、お店ではどの辺りのキング盤が人気なのでしょうか。

尾川 当然、秋吉敏子の『トシコ 旧友に会う』、宮沢昭の『宮沢昭(山女魚)』、このあたりはキング・ジャズ・シリーズ初期の作品として今もちゃんと人気があります。

塙 ジャズロックの横田年昭とビート・ジェネレーション『フルート・アドヴェンチュアー 太陽はまだ暑く燃えていた…』とか、猪俣猛とサウンド・リミテッド『イノセント・カノン』等も求められていますね。

尾川 あと、個人的には『マメールロア』。これがサブスク化されるのは大変な収穫かと思います。

—- 某レコード店の買取価格では55000円になっていました。

塙 昔は安くて、ちょこちょこ見たんだけど・・・。「クラシックのカヴァーをやっているな」みたいな感じだったんですが、高柳昌行が入っているということで、ちょっと毛色が違うぞと注目されて・・・・

尾川 正直言って、一般的には知る人ぞ知る作品です。

—- 日本のジャズのアルバム中でも、その時々によって買い手が求めるトレンドがあるのですね?

尾川 はい。「50年代のペラジャケ」とか、年代の区切りで人気が集まっていた時期もありました。そうなると、初期の白木秀雄や宮沢昭とかが収集の対象になる。

塙 『フルート・アドヴェンチュアー』あたりは、もちろん、みんな欲しいわけです。『渡辺貞夫』に関してもオリジナル盤が欲しいという声は本当に多くききますよ。このレコードの帯を私は見たことがないですね。

尾川 僕も見たことがない。もし帯付きのオリジナルがあれば、とんでもない金額になると思います。

—- 僕も“『渡辺貞夫』の帯”、見たいです。レコードは帯があるかないかで値段が思いっきり変わりますものね。一度入ったら抜け出せない道ですが、今度はサブスクからそこに入っていく人も増えることでしょう。ベテランリスナーと若手リスナーの交流が、サブスクを介して起こるかもしれない。

塙 先ほどお話しましたが、うちの店には30代の顧客が多いんです。しかも詳しいので尋ねてみると、サブスクでも聴きまくっているんです。「これをサブスクで聴いて良かったから、オリジナルのレコードを買いたい」という感じです。なので今回のキングさんの「KING Jazz RE:Generation」シリーズをきっかけに、「これが良かったから盤で欲しい」とレコードを買いに来る若い人が増えるんじゃないかと確信しています。ベテランのリスナーとは違う楽しみ方で、それもとてもいいことだと思います。

—- ところで、日本のジャズがこれほどまでに世界的な注目を集めるようになった理由を教えていただけますか?

尾川 例えばイギリスでは1980年代から日本のフュージョンなどがDJたちに「ジャップ・ジャズ」と言われて人気でしたので、そういう土壌はあったと思いますが、僕の中では『和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s』が2009年に発売された頃から日本国内で日本のジャズ再評価の機運が大変な勢いで上がって、それが海外のコレクターに飛び火した感覚が強いんです。日本のコレクターの連中が日本のジャズについて言うようになって、どんどんLPやCDで再発されて。いちばん最初に僕が始めたプロジェクトDeep Jazz RealityやPROJECT Re:VINYLも年を追うごとにどんどん海外への輸出量が増えてプレス枚数も増えていきました。

—- 当時はレコード店に日参するたびに、日本のジャズの新たな復刻盤を目にした覚えがあります。

尾川 日本での盛り上がりから広まってちょうど2000年代、2010年ぐらいで、いわゆるレアグルーヴ的観点で言うと、いろんなレコードも情報も出尽くしてしまった。知られていないレコードがあまりなくなった状態で、コレクター連中が「日本のジャズがどうやら面白そうだ」と注目して、そこから少しずつ広がっていった感じを僕は受けました。

塙 私もほぼ同意見です。『和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s』を作るときに「世界のコレクターが絶対注目する本だから、ローマ字表記をつけよう」と決めていたので、そのときから(海外から注目が高まるだろうという)予測はしていたんですね。だからローマ字表記をやって正解でした。じわじわと、尾川さんのところもそうだと思いますが、海外のコレクターから直接私のところにも連絡がきて、「渡辺貞夫のアルバムを全部欲しい」という人もいて。日本国内でもすごくレアなものもあるのになあと、ちょっと複雑な気持ちになりました。最近はアジアの富裕層がすごいですね。帯付きのレア盤をどんどん買っていく。

  塙耕記

—- 今回は「KING Jazz RE:Generation」の第1期・第2期を中心にお話いただいている感じですが、ここでメインとなっている昭和30年代の音源について、おふたりの持っている印象は?

尾川 本当によくぞ記録してくれたという感じです。戦後、アメリカから情報が入ってきて、ジャズが盛り上がって、ジーン・クルーパが1952年に来日して、そこが大きな契機だったっていうことをいろんな文献で見ます。その後に「戦後最大のジャズ・ブーム」が来て・・・・

—- ビッグ・フォア、ナンシー梅木、トニー谷の全盛期ですね。いっぽうで55年には守安祥太郎が一枚の公式録音も残さずに亡くなって・・・

尾川 56年にキング・ジャズ・シリーズが始まります。

—- 一種のドキュメントですよね。

尾川 『ミッドナイト・イン・トウキョウ第3集』のアナウンスにしても、時代をそのまま伝えてくれるような生々しさがあります。

—- キング・ジャズ・シリーズにはしかも、守安と交友のあった久保田二郎も監修に関わっています。

塙 芸能的にも重要な資料ですよね。オリジナル・メンバーで再結成して『オリジナル・ビッグ・フォア』をキングに残したビッグ・フォアは今の感覚で言ったら、アイドルグループみたいなものでしょう。とんでもない人気があって、カバンに入りきれないぐらいの出演料をもらっていたとも聞きます。そういう古き良き時代の日本の文化が当時のキング盤には記録されている。話は変わりますが、私は夜中にバーに行くときがあるんです、その店には『ミッドナイト・イン・トウキョウ第3集』のオリジナル盤があって、それをかけてもらうと、すごくいい空気になるんですよ。

—- 当時の東京の深夜の情景が、今の東京の深夜に立ちあがる。

塙 そうですね。しかも爆音でかけてもらうんです(笑)。ほか、歴史的にも渡辺貞夫さんや宮沢昭さんのファースト・アルバムがあるのがすごく重要ですし、よく記録してくれたと思いますね。これがなかったらと思うと、何か歴史が丸ごと失われたみたいな感じになってしまう。

—- 『ミッドナイト・イン・トウキョウ第3集』、昭和32年の日比谷でのライヴ録音です。ひょっとしたら近所を石原裕次郎や美空ひばりや力道山が歩いていたかもしれないし、そうした時代にバンドマンたちが夜中に集まってジャム・セッションをしていたとは、僕にとってはロマンそのものです。

塙 50年代の録音がなかったら私たちも体験できなかったわけですから。それを今、サブスクで聴けるのはとても意義のあることです。

尾川 今聴いても、びっくりするほど新鮮な演奏があります。アレンジャーでは、50年代の前田憲男さんや三保敬太郎さんがやろうとしていたことが本当にドキドキするほどかっこいいんです。スウィングやビバップの先に行こうという感じが随所に出ています。今回の「KING Jazz RE:Generation」に関しても、昔からこのあたりのレコードを集めて熱心に聴いていた方もいらっしゃると思いますが、単独のリーダー作やスタジオ録音を優先して、コンピレーションなどは後回しにしていて聴いたことがないという方も少なくないと思うんです。

—- コンピというか、昔風の言い方ですとオムニバス盤だけで聴ける曲がまた面白いだけに、そのあたりの再評価もサブスクで進みそうです。今回は興味深いお話をありがとうございました。次回は尾川さんオススメの演奏をみんなで聴くところから始めたいと思います。引き続きお楽しみに!

 

ARTIST

  • 林伊佐緒

    ISAO HAYASHI

  • 東京キューバンボーイズ

    TOKYO CUBAN BOYS

  • 渡辺貞夫

    SADAO WATANABE

  • 白木秀雄

    HIDEO SHIRAKI

  • 秋吉敏子

    TOSHIKO AKIYOSHI

  • 宮沢昭

    AKIRA MIYAZAWA

  • 横田年昭

    TOSHIAKI YOKOTA

  • 猪俣猛

    TAKESHI INOMATA

  • オリジナル・ビッグ・フォア

    ORIGINAL BIG FOUR

BACK TO LIST

KING JAZZ RE:Generation Part.1

RELEASE

KING JAZZ RE:Generation Part.2

RELEASE

King Jazz Re:Generation パドルホイール・日本ジャズ維新 編

RELEASE

RARE GROOVE 70s-80s

RELEASE

PICK UP COLUMN

COLUMN